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29歳になった里子の私が里親研修で伝えたこと。

私は産みの両親の顔も名前も知りません。
生まれた瞬間から乳児院と、児童養護施設で生活をしていました。
そして7歳になる時に今のお父さんお母さん(里親)に引き取られ、家族となり一緒に生活してきました。

そんな私は、とある児童相談所が開催している里親研修に、これまでの児童養護施設での出来事や、里子として育ってきた中で里親との関係構築などについてお話しして欲しいと講師として呼んで頂いたので、今回里親になったばかりの方々が集められた研修でお話をしてきました。

里親研修でいろんな里親さんたちのお話を聞いていくと、里子さんとの関係構築の中で、どんな風に接していいか分からない、この行動は何を求められているか分からないなど、いろんな疑問や悩みを抱えていることを知ると同時に、先輩の里親さんなどのお話を聞く機会があっても、実際に里子さん側の意見や気持ちを聞ける場がないという声が多いことを知りました。

なので、自分の人生のエピソードやその都度の気持ち・意見など、どこの部分が里親さんたちにとって、参考になるのか自分では分かりませんが、里子さんとの関係に悩んでいる里親さんたちにとって、少しでもヒントや小さな勇気になるといいなと思い、今回の研修会の中で里親さんたちから受けた質問の一部と、それに対して私が答えたことをまとめておきたいと思います。

Q:「(私のお話の中で)里親さんの愛を試すようなことばかりを聞いていたとありましたが、具体的にはどんなことを聞いていたのですか?
またその質問にはなんて答えて欲しかったとかありましたか?

A:今の両親に引き取られたばかりの頃、とにかく誰かに愛されているという自覚が欲しかったので、とってもシンプルな質問ですが、「私のこと好き?」という質問を永遠にお母さんにしていました。
求めていた答えはもちろん「好き」の一択でした。
本当に引き取られて最初の1年目は、何かが不満で毎晩泣き喚いたり、「どれくらい好き?」だとか今思えばくだらない質問ばかりを投げかける毎日でした。
当時は私にとっても、お母さんにとってもキツイ日々でしたが、どれだけ同じ質問を繰り返しても毎回同じ温度で熱心に、お母さんは私のことを「好き」だとか当時欲しかった言葉をいくらでもくれました。

お母さんからもらい続けた「好き」という言葉は、本当に幼かった私の心を守ってくれていたなと思います。
そんな風にたくさんの愛の言葉で育ったおかげで、「好き」という言葉が持つパワーの偉大さをちゃんと知ることができました。
そして大人になった私も「好き」と思った時に「好き」とちゃんと言えたり、愛をきちんと言葉にして人に伝えるのが得意にもなれたと思います。

Q:私が引き取った子は、私(Aさん)の元に来る前に3年ほど一緒に過ごした里親さんのことを、本当の親だと認識しており、前の両親の元へ帰りたいと言い続けます。
そんな時はどんな風に返せばいいのでしょうか。諦める決心をさせてあげるべきなのでしょうか。

A:誰かのことが大切だとか、または嫌いだとかどんな想いだとしても、人間の本気の想いは死ぬまで一生続くものだと思っていて、外側の誰かがその気持ちを諦めさせようとしたり、消そうとしても、消えぬものだと私は思います。

なので里子さんが前のお家へ帰たいという気持ちが一生消えないのなら、死ぬまで一生言い続けていても私はいいのかなと思ったりします。
そこまで想える人に誰もが人生で出会えるわけではないので、そんな風に想える場所があるだけでも素敵なことだなと思います。

そんな中で、そんな気持ちも丸ごと受け入れて今、一緒にいてくれているAさんのことも絶対きっと大事に思っているし、Aさんは里子さんの大きな大きな支えになっていると思います。
これから先もっともっと長い時間を過ごしていく中で、その里子さんにとっての家族はAさんになる瞬間が訪れるのかなと思うし、里子さんにとって前の家族もAさんのことも、これから先出会う方も、みんな宝物として大切にしていくものだと思います。

しかし正直に言えば私はとてもラッキーで、いろんな里親さんのところを転々とすることなく、今の両親とずっと一緒にいることができたので、一度本気で愛し信頼した家族のもとを離れた経験がありません。
なので、まだ幼くて愛が何かも分からず不安定だった子供の頃の自分が、同じ状況に耐えられただろうかと考えると全く想像できません…。

それでも共通して言えることは、とにかく愛のある場所が常に欲しくてたまらないので、Aさんがずっとそんな存在でいてくれることが、里子さんの心を守り続ける秘訣なのかなと思います。

Q:高校生の男の子を引き取りました。その子は産みの親と喧嘩が絶えず家族関係が上手くいかなくなってしまい、私の元へ来ることになりました。そんな背景があるせいで怒りたいことがあっても、怒ってしまったら喧嘩になってしまい、前の家族と変わらないのではと頭によぎり怒れなくなってしまいます。
私は怒りたい時、怒ってもいいのでしょうか。

A:怒っていいと思います。
人間の我慢は一瞬しかもたないものだと思うので、もし今怒りたいことがあって我慢しているとしたら、その我慢は今日かもしれないし明日かもしれませんが、爆発する瞬間が必ず訪れると思います。

私も思春期の時、部屋の掃除しなさいとか、宿題しなさいとか散々怒られ、反抗期だったこともありいつも大喧嘩に発展していました。
それでも怒り続けてくれたおかげで、提出物は期限通りに提出できるようになったし、今では部屋の掃除なんて毎日するし、学生の頃親に怒られていたことは気づけば今当たり前に自然にできるようになっています。

もしあの頃なんでも許されていたら、当たり前のことを当たり前にできない大人になっていたなと思うので、喧嘩してでもなんでも怒られておいて良かったと大人になった今、心から思います。

もちろん心を傷つけ合うような喧嘩は誰もする必要がないと思いますが、生活や人として必要なことに関することで怒りたい・注意したいと思うことがあれば大切だからこそどんどんしていいと思います!

Q:うちの子は外ではすごくいい子なんですが、家では反抗が止まらなかったりしています。
外と中でこんなにも違うことってありましたでしょうか。

はい、それ正に幼かった頃の私です。(笑)
学校では無遅刻無欠席で勉強の成績もよく、先生とも友達とも隣のクラスの子まで仲良く、誰に反抗することも誰と喧嘩することもなく、誰とでもすぐに仲良くなれていい子と外で言われることが多かったです。

ですが家の中では本当にずっと反抗期で、親の言うことなんてほぼ聞くことはなく、親からの私の印象と、外の人が感じる私の印象はもしかしたら違かったと思います。
(これは里子とか関係なく、どこの家庭にもあることだと思いますが…!)

ただ私が外では言えないことを親には言えた理由は、「この人なら分かってくれる・この人とならどれだけ体力を使ってでも、どこまでも分かり合いたい・どんな意見を言っても味方でいてくれて、嫌いにならないでいてくれる」といった漠然とした期待や信頼があったからできることでした。

なので里子さんもきっと同じように、信頼する気持ちあってのことだと思います。
私は21歳の時に一人暮らしのために実家を出ましたが、今の距離がベストだと感じています。
大人になるにつれ反抗することも喧嘩することもなく、お互いに傷つけ合うことなく大事にし合えている今に幸せを感じます。
きっと反抗期は今だけなので、大人になるにつれて落ち着いてくると思います!

Q:一人っ子として育てられたと思いますが、一人っ子で良かったと思いますか?

A:はい!一人っ子で良かったです!
もし兄弟がいれば、兄弟がいて良かったです!と言ってると思いますが、経験したことしか語れないこともあり、私は親の愛を独り占めできた一人っ子として育てられて良かったです。

今の両親に引き取られる前、児童養護施設でたくさんの子供達と生活をしていました。
本当にみんな兄弟のように育てられ、その生活は本当に楽しくて幸せでした。
それでもふとした瞬間に自分には守ってくれる「親」という存在がいないことを思い出して、孤独に突き落とされるような瞬間を何度も経験しました。

そんな幼かった当時の自分には、独り占めできるような愛が必要だったので、全ての愛を注いでもらうことができた一人っ子で良かったなと強く思います。
実際に、児童養護施設ではそこまで保母さんにべったり甘えたりすることはありませんでしたが、今の両親に引き取られた時、毎日抱っこしてもらったりと、一生分甘えました。

29歳になった今でも可愛がってくれる両親は、自分の一生をかけて大切にしたいし、今では絶対に私が守りたいと思える存在です。

Q:なかなか自分のことを親として受け入れてくれずに、まだ「ママ・パパ」とかではなく下の名前で呼ばれています。
今の親御さんのことはすぐに受け入れることができましたか?

A:はい、できました。
私の場合は児童養護施設にいた頃、何度か今の両親と面談やお泊まり会をしていて、そんな風に一緒に時間を過ごす中で、自らこの2人と家族になりたいと自然と思うようになっていました。

そしてある日家族になりたいと自分から2人に伝え、幼いながらに自分の選択で家族になったので、初めて「お父さん」「お母さん」と呼んだ瞬間のことは覚えてないですが、一緒に生活を始めた日には当たり前に「お父さん」「お母さん」と呼んでいました。

私が今の両親を「家族」だと感じたのは実際に生活を始めた日ではなく、思えば初めて会った時からそんなようなものを感じていました。
そんな自分にとって「家族」は物理的に一緒に生活をしているから「家族」なのではなく、心が「家族」だと思えばたとえどんな形であっても、それは「家族」なのかなと思っています。

またそう思えるタイミングも人それぞれで、愛や信頼を感じ合うことができて、心を許し始めると「家族」だと認識し始めるものなのかなと思うので、これからまだまだ時間をかけながらもお互いに「家族」と思える存在になり合えたらいいのかなと思います。


今回このような質問を受けました。
里子さんがなかなか自分のことを親として受け入れてくれない、分かり合えず喧嘩が絶えないなど日々キツイ思いをしている里親さんや、こんな接し方で正解だろうか、、、と些細なことで悩んでいる里親さんが多くいる印象を受けました。

客観的に見て、私の家族はとても仲が良く本当に素敵な家族だなと出会った頃から今もずっと思っていて、側から見てもきっとそう思われていることが多く、喧嘩なんてするの?とか聞かれがちですが、恐らくその辺の家庭の何倍も心を傷つけ合うような、重い喧嘩もたくさんしてきました。

それでもいろんな出来事を乗り越えられた理由はシンプルに1つだけで、お父さんとお母さんのことが心底大好きで、そして2人も私のことが世界で1番大好きだからでした。

そんな好き同士というだけで、どんなにツライ日々も、どれだけ自分の体力と精神力と時間をかけてでも乗り換えたいと思うことができました。
本当にそれだけでした。

なので今、里子さんと分かり合えずに、すれ違いの日々を過ごしていたとしても、お互いに好きだという想いがある限りきっと、乗り越えられると思います。

が、やっぱり無理はして欲しくはないです。

家族として生活を始めた当時の頃を思い出すと、よく分からない理由で毎晩泣き叫んだり、お母さんお父さんを傷つけてしまうような言葉もたくさん言ってしまったり、心苦しくなることも多く、誰にもあんな想いをして欲しいだなんて思えません。

なので無理のない範囲で、里子さんにとって心安らげる、愛を感じることができる場所、存在であり続けて貰えたらな、、、と大人になった里子の私は思います。

血の繋がりなくても、心の繋がりさえあれば誰とだって家族になれることを知ることができた自分の人生がとても好きで、そしてそれを教えてくれた両親には一生をかけても感謝しきれません。

里子側の意見や気持ちを聞ける場がないという声に応えて、これからもこんな里親研修の場に呼ばれた時には、また行きたいなと思っています。

そしてもう少し里親制度についての認知が広がったり、1人で悩むことなくもっと意見交換する場が広がればいいなとも思っているので、こんな風にまたnoteでもまとめることができたらなと、思っています。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。


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