寺尾聰の『Reflections』には風が吹く(シティ・ポップの記憶⑤)
The City-Pop in my Memory Ⅴ
1981年に、2枚のアルバムが相次いでリリースされます。
1枚は、3月21日にリリースされた大滝詠一さんの『A LONG VACATION』、そして、もう1枚が、4月5日にリリースされた寺尾聰さんの『Reflections』です。
後に「シティ・ポップの名盤」と呼ばれる2枚のアルバムが時期を同じくしてリリースされ、その年のベストセラー1位と2位になるのだから、なんかすごい年だったんですよね。
ただ、「シティ・ポップの名盤」といっても、この2枚の雰囲気は大きく異なります。
パーマネントにリゾート感溢れる名盤『A LONG VACATION』に対して、寺尾聰さんの『Reflections』の方はストイックなダンディズムの漂う渋~いアルバムだったのです。
当時、大人気だった刑事ドラマ『西部警察』で、でっかいマグナムをぶっ放していた寺尾聰さんは男子に人気で、大ヒットしていた「ルビーの指環」の勢いのまま、中学生になったばかりの少年も、この渋~いアルバムを聴いてたんですよね~。
もちろん『A LONG VACATION』も大好きなんですが、ジャンルとして都会を感じていたのは、この『Reflections』の方だったのです。
その後、ヨコハマタイヤのCMを通じて、東芝EMI系列の ”シティ・ポップ” アーティストの皆さんにハマっていくわけなんで、そのきっかけとなったのは、間違いなくこのアルバムなのです。
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このアルバム、ほんと名盤なんですよね~。
3曲同時ベストテン入りした「ルビーの指環」と「SHADOW CITY」、「出航 SASURAI」のシングル曲を含め、10曲全ていい曲なんです。
作詞は有川正沙子さんと松本隆さんで、作曲は全て寺尾聰さん、そして編曲は全て井上鑑さんが担当してます。
実は、この井上鑑さんのアレンジがムチャクチャかっこいいのですが、井上鑑さんについては、いずれこのシリーズ記事の中で紹介したいと思っています。
また、当時は知らなかったのですが、このアルバムには、井上鑑さんを初めとして、名うてのミュージシャンたちが参加しています。
その辺のことについては、いつも読ませてもらっている ”音楽の杜” さんの記事に詳しいので、ここで紹介させてもらいます。
”音楽の杜” さんの記事を読むと、ほんとスゴいメンバーだったのが、よく分かると思うんです。
そんなメンバーと作り上げた硬質なサウンドとともに、このアルバムの世界観を作っているのが、有川正沙子さんと松本隆さんの歌詞だと思っていて、それこそ10曲全部暗記してるぐらい好きだったのです。
ということで
歌詞も添えながら、収録されている曲を紹介していきたいと思います。
持ってるのはレコードだったので、アルバムでは、A面最後5曲目に「ルビーの指環」、B面1曲目に「SHADOW CITY」、B面最後5曲目に「出航 SASURAI」が配置されていました。
まあ、B面にはシングル2曲に併せて、そのカップリング曲も収録されていたので、聞いたことのある曲が多かったんですよね。
なので、当時は知らない曲が多かったA面の方をよく聴いていました。
A-1「HABANA EXPRESS」
作詞:有川正沙子/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
エクスプレスというタイトル通り、スピーディーなアレンジが施されたこの曲は、それまで、自分が持ってた寺尾聰さんのイメージとは違っていて、イントロから歌が始まった時、おおッて思ったのを憶えてます。
だって早口で歌ってるんですもん! 寺尾聰さんが!
歌詞の方では男女の別れの場面が描かれているのですが、けっこうハードな場面なんですよね~
熱く愛し合ったはずなのに、別れに傾いていく感情はエクスプレスのように止まらないのです。
歌が終わった後、繰り返される終盤の後奏がカッコいいんですよね~。
アルバムを聴き込んでた方には通じると思うのですが、最後にダン!って感じで終わった後の、次の曲までの間がね、ここがまたいいのです。(←わからんわッ!)
A-2「渚のカンパリ・ソーダ」
作詞:松本隆/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
これまた、今までのイメージと違って、ポップな曲でした。
男女の出会いが描かれていて、松本隆さんのリゾート感の溢れる歌詞も印象的なのです。このアルバムでは、唯一と言っていい明るい曲です。
当時は、その明るさ故、あんまり好きじゃなかったのに、大人になると心地よかったりするんですよね。
また、カンパリって、どんな味がするんだろうって思っていて、飲んでみて ”苦っ💦” っと思ったことも良い思い出なのです。(←おい、いつの話だ!)
A-3「喜望峰」
作詞:松本隆/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
実は大好きな曲です。
以前の私の記事では、好きな松本隆さん作詞曲第3位に位置してるぐらい大好きな一曲なのです!
何が好きかって、この主人公の生き様みたいなのがですね、ダンディズムに溢れてるんですよね。
今の時代だと男性目線過ぎる感じもするんですが、かなり痺れる歌詞で、こういう世界観に憧れが強かったのです。
明るめの「渚のカンパリ・ソーダ」がフェードアウトした後に、イントロが入る瞬間がこれまたカッコいいんですよね~、痺れます!
ちなみにですが、”喜望峰”というのが山でなく”岬”であることを知るのは、もっと後のことなのです。
A-4「二季物語」
作詞:有川正沙子/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
A面の4曲目は、有川正沙子さん作詞の「二季物語」…
タイトル通り、冬と夏の二つの季節の物語が描かれている曲なんですが、これがまたドラマティックな曲なんです。
前半の冬パートでは、恋人を亡くした男性が、悲しみに沈む様子が痛切な感じで描かれています。
一方、夏の方では、亡くなった女性の思い出のように、偶然の出逢いから恋が燃え上がり、官能的な夏を過ごす… そんな大人のドラマが展開されるんです。
幸せな時間を過ごしながら、浜辺でたわむれる女性を眺めていて、何かに気づいた男性は黙り込みます。
この語られない歌詞の後ろには、幸福すぎることへの恐れ、そして未来への予感があるようで、そこがまた切ないのです。
また、この曲は8分を越える長い曲なんです。
この曲があるため、A面が、当時46分のカセットテープには収まり切れなかったんですよね!
ただ、前半の冬パートでは、音が抑制され、ストリングスも絡めながら陰鬱で寒々しいアレンジになってるんですが、後半の夏ではテンポが変わって、ガラッとジャズっぽいアレンジになるんです。
冬と夏のコントラストを際立たせる秀逸なアレンジなんですよね~
この二つの季節をつなぐ間奏部分(2:55~4:55頃の約2分)が、時間を巻き戻していくようで、いいんです。
トロンボーンが誘い、転調するキーボード、唸るギターなどが、この二つの季節の間にある時間を感じさせてくれるんです。
この短編映画のような大作は、このアルバムの中でも、アレンジャーである井上鑑さんの手腕が特に光った曲だと思うんですよね。
A-5「ルビーの指環」
作詞:松本隆/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
言わずと知れた大ヒット曲なんですが、あまりにも大ヒットしていて、当時は、ちょっと飽きもあったかもです。
でも、あらためて聴いてみても、歌詞、歌、アレンジと、どれもかっこよくて、このサウンドこそが、私の中の ”シティ・ポップ” のイメージの根底にあったりするんです。
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ということで、A面の5曲を紹介してみました。
ところどころに「風」という言葉が入ってるのに気が付きますよね。
もちろん、作詞家の一人は松本隆さんなんで、「風」が出てくるのは当然かもしれないんですが、関わった3曲ともに「風」を入れてるなんて、本気な感じがしませんか?
特に「ルビーの指環」なんて、まんま ”風街” の世界観ですからね~、かなり力を入れてると思うんですよね。
また、もう一人の作詞家、有川正沙子さんの方も、松本隆さんと共鳴するかのように「風」という言葉を配してくれていて、アルバム全体のトーンを作ってるように思うのです。
それで、有川正沙子さん作詞で「風」の出てくる歌は、A-1の「HABANA EXPRESS」と、もう1曲あって、それが…
B-5「出航 SASURAI」
作詞:有川正沙子/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
考えてみると、このアルバムは ”HABANAの風” で始まり、”夜明けの風” で終わるのです。
… A面の曲が紹介の中心になってしまいましたがB面も名曲ぞろいなんで、駆け足で!
トゥットゥルットゥ~ ♪ の B-1「SHADOW CITY」は、いつ歌が始まるんだ!って感じだし、軽やかな大人のポップスの香りがする B-2「予期せぬ出来事」、そして、トゥルル~のハミング中、”おかけになった電話番号は、現在使われてません…” が悲しすぎる B-3「ダイヤルM」もとっても印象的なのです。
そしてB面で唯一の新曲だった B-4「北ウィング」は、アルバム中、もっとも苦しく悲しい歌で、胸に刺さる曲なんです。
以上10曲の完成度は、今、聴いてみても、まったく古びてない感じなんですよね。
やっぱ、私の中では名盤中の名盤なのです。
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○4曲目の松本隆作詞曲
この『Reflections』以降、作詞の方は有川正沙子さんが中心だったので、松本隆さんが関わることはなかったのですが、実はもう1曲だけ松本隆作詞曲があるんです。
それがシングル「ルビーの指環」のカップリングだった「シネマ・ホテル」という曲なんですが、残念ながら『Reflections』には収録されなかったのです。
「シネマ・ホテル」
作詞:松本隆/作曲:寺尾聰/編曲:井上鑑
これもいい曲だと思うんですけどね~。
まあ、それだけ『Reflections』というアルバムの完成度が高く、入る隙が無かったってことなのかもしれません。
ただ、収録されなかったのは、案外、歌詞の中に「風」が登場しないことが要因じゃないかと、秘かに思ってたりもするんです。😆
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