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映画『バグダッド・カフェ』にかけられた魔法について


 『バグダッド・カフェ』は1987年に制作された西ドイツ映画です。(原題:Out of Rosenheim)

 日本でも80年代後半からのミニシアターブームの中で話題になった "いい映画" のひとつなんです。


 この映画を好きな人は多いんですよね~
 『ニュー・シネマ・パラダイス』なんかと同じで、あんま悪口を聴いたことがないような気がします。
 かく言う私も、大学時代に観て以来、その独特の映像やストーリーにファンタジーを感じた一人です。

 まあ、今になって私が語る必要もない名作なんですが、やっぱ好きなんで、今回は、この『バグダッド・カフェ』について "note" していきます。


+  +  +  +  +  +


『バグダッド・カフェ』

監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー

(あらすじ)
 舞台はアメリカ西部、モハーベ砂漠にたたずむさびれたモーテル「バグダッド・カフェ」。
 そこは日々の生活に疲れきったモーテルの女主人ブレンダや、日夜遊びに明け暮れる娘、ピアノの弾けないピアニスト、売れない画家など、うだつのあがらない人々が集う場所だった。
 そこへやってきたのがドイツ人のジャスミン
 彼女の出現は、徐々に周りを変えていく…。

 大人のファンタジーとも呼ばれるこの映画なんですが、とにかく場面場面の画がきれいなんですよね~
 随所に黄色のフィルターがかかったような映像が出てくるんですが、これはパーシー・アドロン監督の特徴のひとつです。
 ポスターにも使われた給水塔の掃除や、夕暮れのブーメランのシーンなど、印象的な画や色彩が独特のファンタジーを生んでるのは間違いないんです。

 ただ、この映画にかけられてる魔法はそれだけじゃないんです。
    特に、映画の序盤には、それこそ魔法的マジカルな部分がたくさんあると思うんです。
 そんな個人的な "魔法ポイント" を、いくつか紹介すると


魔法その①:不安定なイントロシーン

 すみません、「まず、そこかよ!」って言われるかもしれないんですが、自分が引き込まれちゃったのは、冒頭、ドイツからやってきた夫婦がケンカ別れするイントロ部分なんです。(ホントに最初のシーンです。)


 テンポもいいんですが、画面の角度が傾いてたりして、なんか不安定な感じで、夫婦間のいらだちが伝わってくるような気がしません?


 そして婦人(ジャスミン)が一人で道を歩き始めると主題歌が流れ始め、角度が戻り画面が安定していくという…
 3分少々のシーンなんですが、私にとって、なかなか心をつかまれるイントロだったのです。



魔法その②:神々しい主題歌

 先ほどのイントロシーンに続いて流れる主題歌、「コーリング・ユー」が、とにかく印象的なんです。
 ゴスペル歌手のジェヴェッタ・スティールの歌声は神々しすぎて、一度聴いたら忘れられないんです。
 当時の記憶は曖昧ですが、たしか、映画よりも、この主題歌の方が先に話題になったんじゃなかったかな…

「Calling You」

A desert road from Vegas to nowhere
Some place better than where you've been
A coffee machine that needs some fixing
In a little cafe' just around the bend

I am calling you,
Can't you hear me
I am calling you

 この曲は映画のために作られていて、ストーリーをふまえた歌詞になってるんです。
 "ベガスからの道" や "修理の必要なコーヒー・マシーン"、"小さなカフェ" など、この後、描かれていく風景が歌詞に散りばめられています。
 そしてサビで歌われるのが "calling you" の部分…
 直訳すれば、”あなたを呼んでいる” って感じなんでしょうが、一体、誰が誰を呼んでいるのか… この時点では分からないんですよね。
 そんなミステリアスな歌詞なんです。

 2番の歌詞には "But we both know a change is coming"(だけど、私たちはお互いに変化が訪れることを知っている。)とあったりします。
 これ、映画を観終わってみれば分かるんですが、この "we" は、二人の主人公、バグダッドカフェの女主人ブレンダと、ドイツから来たジャスミンを指していると思うんです。
     と、すれば、これはカフェの女主人ブレンダが、砂漠の道をさまよっているジャスミンを呼ぶ "心の声" と解釈できるんです。

 この主題歌「コーリング・ユー」は、そんな予言に満ちた曲なんです。



魔法その③二人の女性を表す二つの光

 この作品は、バグダッドカフェを舞台に、ドイツから来たジャスミン(左)と、女主人ブレンダ(右)の交流を描いたものです。
 ただ、物語の冒頭では、二人とも失意の中にいます。
 ジャスミンは旅先で夫とケンカ別れしてしまい、歩きさまよってバグダッドカフェに流れ着きます。
 また、ブレンダの方も、しっかり働かない夫を追い出したり、カフェ経営をはじめ上手くいかないことばかりで、どん底の気持ちで、ひとり泣いているのです。
 そんな二人が出会うことで、物語が動き始めるのです。

 主題歌では、二人に変化が訪れることが予言されてるんですが、他にも二人の運命的な出会いを予感させるシーンが描かれています。
 それが、主題歌「コーリング・ユー」が流れる中、道をさまようジャスミンが空に見つける ”二つの光” なんです。
 この光が、この後出会うことになる二人の女性を象徴してるような感じで、なんか啓示的な光景なんですよね。


 その後、導かれるように ”バグダッドカフェ” に流れ着いたジャスミンは、割り当てられた部屋で、空に二つの光が描かれた絵画を見つけるんです。

 この絵、カフェの敷地に住む老画家ルディの作品なんですが、ジャスミンは ”バグダッドカフェ” という場所に、何か運命的なものを感じているように見えるんです。

 他にも "黄色いコーヒーポットの魔法" など、序盤にはいろんな魔法がかけられています。
 だからこそ、その後の展開にファンタジーを感じるんだと思うんですよね。



魔法その④共同体コミュニティのウェルビーイング

 さて、序盤というわけではないんですが、もうひとつ…

 パーシー・アドロン監督は、ジャスミン役のマリアンネ・ゼーゲブレヒトと組んで3本の映画を撮っています。
 『バグダッド・カフェ』は2作目で、1作目が『シュガーベイビー』、3作目が『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』という作品です。


『シュガーベイビー』1984


『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』1989


 自分は3本とも観てるんですが、正直、他の2作には、『バグダッド・カフェ』のようなファンタジーを感じないんです。(あくまで個人的な感想ですが)

 何でだろうと、今回考えてみたんですが、『バグダッド・カフェ』って、主人公の "幸福(ウェルビーイング)" が、バグダッドカフェという共同体コミュニティの "幸福ウェルビーイング" につながっていたりするんですよね。
 他の2作で描かれる幸福は個人的なもので、共同体の幸福につながってるわけではないんです。
 多分、ここが大きな違いじゃないかと思うんです。

 実生活で、自分の幸福ウェルビーイングが共同体の幸福ウェルビーイングとつながるって、なかなか有ることじゃないんですよね。
 もちろん、そうであれば素敵なことだと思いつつ、実現するのはかなりの困難なのです。

 そんな困難な状況を実現した『バグダッド・カフェ』の様子は、小さなユートピアのようで、まさに大人のファンタジーなんです。
 この映画を愛する人が多いのは、そこが理由なんだと思うんです。


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 制作は1987年なんで、30年以上前の映画なんですが、やはり、今も変わらず魅力的な作品です。

 以前の記事では、「ニュー・ディレクターズ・カット版」は、観ないと書いてますが、実は、その後、観ちゃってます!
 あまり、違いには気づけなかったのですが、絵がきれいになっていることは間違いなかったのです!



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