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父の一周忌に寄せて 『銀雨の星 〜♭4 self cover 2023 〜』


「この歌、何だか、お父さんを思い出した」

 私が作詞で参加した、なおがれさんとの共作オリジナル曲を聴いて、母がそう言った。


 父の事を書いた詞ではない。

 でも、確かに、父の事が無かったら、書けなかった詞だ。



 昨夏、長い闘病生活を終えて、父が旅立った。

 覚悟はしていた。

 元々、主治医から「生きているのが不思議だ」と言われていた父だ。最後の入院では、「これ以上、治療の手立ては無い」と、宣告もあった。

 父は過酷な延命を望まなかった。最後まで、手元から本を手放さず、家族の見守る中、父らしく旅立っていった。

 それでも、亡くなってしばらくは、何かを書くどころでは無かった。


 創作活動を再開し、なおがれさんの美しい曲に出会ったのは、秋だった。

 聴いた途端に言葉が溢れ、私は、書く事が好きだと思い出した。


 だから、この歌は、私にとっては特別な歌だ。



「この歌、何だか、お父さんを思い出した」

 母のその一言で、父の一周忌に、この歌を歌おうと決めたのは、昨年末だった。


 年始早々に、なおがれさんに相談し、セルフカバーのご了解を頂き、私の音域に合わせて、キー下げの伴奏を作って頂いた。

 ボイトレの先生にも、相談して、約半年、月2回のオンラインレッスンをお願い出来る事になった。

 父が好きだった景色や、母の写真を集めて、動画のコンテを考え、ラフスケッチを何枚も描いた。



 歌の練習をして、絵を描き、音源と動画を作る時間は、この半年、私の支えだった。

 ただ、父がこの歌を喜ぶかどうかは分からない、とも思った。湿っぽいのは嫌いな人だったから。

 それでも、私は、私の為に、この歌を歌わずにはいられなかった。



 動画を出した後、夢を見た。

 夢の中で、私は、父の部屋で本を見つける。1巻だけ読んで、続きを読みたいと思っていた作品が、2巻から5巻まで揃っている。

 階段を降りて、居間に向かうと、父が居る。随分と上機嫌だ。

「お父さん、この本、私に頂戴」

 私は少し強引な物言いで、父に本をねだる。

「ああ、分かった、分かった」

 父は、にこにこしている。顎の感じが、祖父に似てきたな、と、私は思う。

「ありがとな」

 にこにこしたまま、父が言う。私は、咄嗟に、何の事か分からないまま、頷く。


 目が覚めて、泣いた。

 きっと、私の願望が見せた夢なのだろう。

 でも、それでもいい。久しぶりに元気な顔を見て、嬉しかったから。




お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。