その12

 床を暖めた部屋の引き戸を開けると、廊下から縦に長い冷気がひゅっと入ってくる。春は近いはずなのに、もう去ったと思ったのに、まだここにいる冷たい空気。
 これまでの人生で、自分の怒と哀を人に見せたことはあまりない。いや、怒と哀をしまい込んでもう出しませんよという、心を閉ざした冷えた態度は見せてきた。
 そんな私が、夫には驚くほどその感情を曝け出せる。親兄弟にも曝け出すのを諦めてきたのに、受け入れてもらえた経験というのは、人を大胆にしてしまう。
 夫と暮らさなくなったら、きっとまた元の私に戻って、全てを諦める様になるだろう。人生で、心に我慢を強いなくていい時間を過ごすことができてよかった。

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