一人、丑の刻

夜中テレビを観ていたら、けたたましい音が鳴り響き緊急地震速報が流れた。

確か午前二時から三時の間だった。

「最近多いな、てかこんな時間にヤバい」

酔いでかなり早く脈は打ち、鼓動も高なっていたので、若干フラつきながらテーブルの下に潜り込んだ。

どのくらい経ったか。ブラインドの紐をジッと見ているが動かない。二分か、三分か…。わからないが下手に動くのは怖く、しばらくジッとしていた。

しかし、全く揺れない。頭を180度捻りテレビの方に目を向ける。コンタクトを外していてメガネだったが、目を細めるとなんとか画面の文字が見えた。

震源は遠くないようだ。なのに、何故揺れないのか…。

ケータイはベッドの上に置いたままでここからは手が届かず、誰かと連絡を取ることもできない。

しかし、このままいつまでもテーブルの足にしがみついている訳にもいかず、叫ぶように声を出し勢いをつけると、ケータイを取るためにテーブルの下から這うように飛び出した。

ベッドに向かいながらテレビに目をやると、本編と同時に震源や震度を放送していた番組がプツリと音をたて不自然に終わった。そして全体が真っ暗になったかと思うと、さらに画面が切り替わった。左上のワイプには番組冒頭のシーンが映っていて、右側には僕の大好きなアニメやドラマのタイトルがずらりと並んでいた。


録画だった……。


冷静に考えてみればケータイは鳴っていないのだから分かったはずだ。たまたま、毎週番組が放送されているのと近い時間に録画を観ていたことはついていなかった。しかしそれは言い訳でしかない。

量を抑えていれば、泥酔に近い状態でなければ、このようなことにはならなかっただろう…。

深夜三時過ぎ、額や首筋、胸や脇にまで多量の冷や汗が流れていて、流し込んだアルコールは全てそれに変わってしまったような気がした。

もちろん、楽しみにしていた「HUNTER×HUNTER」は全く内容が頭に入っておらず、しかしまた、あの嫌な感じでしかない警報音を聞く気にはなれず、見直すことなくテレビを消した。


先ほど浴びたばかりだというのに、Tシャツがベットリと体に張り付き気持ちが悪かったので、またシャワーを浴びた。体温を下げようと温度をぬるめにすると、想像以上に冷たく、酔いも眠気もすっかり冷めてしまった。


ベッドに入ってもなかなか寝付くことができず、ブラインドの隙間から白い光が洩れてきた。


夢現のところをユラユラしていると、実家のリビングが頭に浮かんでくる。

母は寝転がり、僕は座っている。

何本目かのビールの缶を空けたとき、「あんま飲みすぎんなよ」と言われた。画面には母が大好きな「科捜研の女」が流れている。

CMになったのにそれをボーッと観ている。僕が「録画だよー」と言うと、「そうだった!」と慌てて早送りをする、よくある母の姿を思い出した。



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