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【著作権の話】法律を「守る」より「変える」を選んだ「あの会社」|ビジネスの加速のためには法を破りにいく戦略も

今日は「法律なんか守らなくていい?」っていう話です。こういう発言ってSNSなんかで、ときどき見ますよね。

これに対して「他人の迷惑考えろ」とか「いずれ事故るわ」みたいなコメントもできるんですけど、今日はその発言の「妥当な部分」に触れてみたいと思います。というのは「法律の側に問題がある」って要素も結構あるからなんですね。

1:アーティスト寄り過重武装な「著作権法」

ネットとは関わりの深い「著作権法」を例に挙げて話しましょう。

この法律って「著作権者」いわゆる「アーティスト・表現者」側の権利を保護するために、原則「表現物の無断利用を禁止する」っていう形になっている法律なんですけども、なんせ骨子が出来たのは100年以上前。

・「原型」として想定しているのは「紙の出版物」で
・「版元以外の出版社が丸々コピーして販売しちゃう」ようなケースへ
・「法的な保護・対抗手段」をアレコレと列挙する

っていうようなデザインになっているのです。結果、法律の建て付けとしては、

・ 著作権者には、どこでどう利用(複製等)されるかにつき、完全にコントロールする権利がある。
・ 無断利用は「原則違法」で、「賠償金請求」も「利用差止め」もできるし、前科のつく「刑事罰」まで用意され

ている。みたいな完全に著作権者寄りな重武装な(利用者からすればオッカナイ)内容の法律になっちゃっていたりします。

ただ、実際に著作権の侵害行為、つまり無断複製に対して、訴訟が行われたり、刑事罰が適用されるケースってすごく限られているんですよね。多少のコンテンツの無断利用であれば、損害賠償請求しても、数千円とか数万円程度の賠償金しか取れず、訴訟コストを回収できないと言う現実もありますんで。

事件化するのは、漫画村事件みたいにマンガが丸ごと電子データ化されて大規模にネット上で公開されたみたいな、すんごい悪質な、被害額数百億円みたいなやつだけなんです。

2:「一切を勝手に使われると困る」アーティストは限られている

もっといえば、ディズニーやピクサーみたいな、すでにブランドを確立し切っているアーティスト・制作集団でもなければ、自身の作品をどうマーケティングというビジネス上の課題があるわけで。。。。

そのプロセスにおいては、ある程度、作品を広く知ってもらって、評価されてなんぼの世界でもあって、著作権法通りの「事前許可なしの場合、全面的な利用禁止」ということを、実は大半の表現者が望んでいなかったりするという状況があります。

さすがに、完全に作品をコピーされて配られちゃうと困るでしょうが「部分的なカットの紹介」で勝手にマーケティングしてくれるなら大歓迎、と言う方も多く、いくつかの作品について、戦略的にフリーで使ってもらってもいいと考える方もいるんですよね(今のネット上でよく見る「第1話は無料で見れます」みたいな作戦です)。

ただ、著作権法があると、リスクに敏感なユーザー(紹介者)さんは、著作物(著作権の成立する作品)を利用することについてはかなり尻込みしてしまいます。

法律の効果としては、当事者の意思を超えて、権利を過剰に保護して、取引を阻害している状態になってしまっているわけですね。

3:「許可を取る」のが大変すぎる!

もちろん、これは「無断利用」がダメだって話だから「許可取り」すればイイわけですが、これもまた実務的には大変なんですよね。

相手が同じ日本語圏にいて、コンタクト先が明確であれば、まずはメールを一本入れてみるくらいのことはするのはマナーといえるかもしれませんが、コンタクト先不明のアーティスト、しかも英語さえ通じない海外の人とかだったりしたらどうすんですかね。。。。

また著作物について、出版社とか窓口になっているトコロが全部の権利を持っているとは限らず、使い方によっては、もともとの製作者に連絡を取らなくちゃいけないなんてことも。。。。要は、関係者にとってコミュニケーションコストがあまりに重くなりがちなんです。

なので業界によっては、たとえば音楽の世界では「JASRAC」という機関が一括で利用料を設定して許可を出すプラットフォーマーをやっていて、ただ音楽を流すだけの利用だったら、とりあえずここに許可を取って、一定の使用料を支払えばイイみたいな形になっているとこもあります。

ただこれも、楽曲にアレンジを加えて発表したいとかになると、結局個別の許可になるので結局コミュニケーションが必要だったりして、やり方は元通り。なかなか大変なことになってしまいます。

4:アーティストの側から法律を超えて歩み寄る現状

それは面倒だ、ということで「クリエイティブ・コモンズ」と言って、事前にアーティストの側から、もっと詳しく許可を出しちゃおうと言う仕組みもありますね。これは「使う場合はクレジット出してね」とか「非営利ならご自由にどうぞ」とか、「アレンジOK/NG」だとかいくつかの利用条件をつけて公表するやり方です。

利用者の側は、自分がやろうとしている利用が、アーティストの意図に沿っているかを事前に確認に出来て、コミュニケーションを取らなくても良くなる仕組みです。

こういう動きが出て来ているのは、なぜかって言うと、前述の通り著作権法が、ディズニーやピクサーにとってはちょうど良くても、大抵のアーティストには不要な超重武装を勝手に着せられる法律になっていることがあります。

なので、業界で仕組みを作って、法律をオーバーライド(上書き)するための「当事者の事前許可」を出さないと、「知ってもらってなんぼ」の作品たちが広まらなくて、わざわざアーティスト側に手間をかけさせてるって言う話なのです。

もっと言えば、文化や芸術って、アーティストや作品群が、相互に刺激し合って発展していくようなところもあるわけですから、流通の障壁があることは、アートそのものの発展も阻害するわけですよね。

5:どうしてこんなにズレちゃった?

どうしてこんな感じになっているかって言うと、一番大きいのは「時代の変化」なんですよね。

昔の紙の印刷が著作物のメインだった頃は、コンテンツの一部を切り取って紹介するのは手間(コスト)的にも気軽じゃなくて、専門家の評論やら業界内のブランドやらを通じて作品が広まっていっていたけれど、今や技術進歩でコピーも編集も容易くなって、誰でも低コストでコンテンツを広めていくことが可能になって、高速にコンテンツが世の中を動いていく時代になったんですよね。

そうなると、コンテンツについて、何もしなければ利用が全面的に禁止されて、流通が萎縮してしまうタイプの規制より、表現者・アーティストが、事前でも事後でも「その意図に合わせて利用料の有無や金額を設定することができる」ような「利用する側も萎縮しない仕組み」の方が本来はいいわけです。よっぽど悪質な場合以外は、刑事罰みたいな「イカつい処分」もいらないでしょうしね。

つまり著作権法に関して言えば、当事者のニーズと乖離したルールを作ってしまっていて、法律と現実が乖離しているような状況にあるわけですね。法改正って、何か法律の不備で大きな社会問題が起こったり、政策的にやりたいことがあったり、業界団体が積極的にロビイングでもしない限り、時間の限られている国会ではなかなか取り上げないんですよね。だから、時代遅れになっていても、法律って放置されてしまいがちで。

既得権益を持っている団体がいると変わりにくくもなりますから、それを超えて「こう変えてくれないと困る!」という強い動きがないと変わらないんです。

6:なので「守らない」も一つの選択肢に。実際「あの会社」も!

だから「法律なんか守らなくていい?」というのは、法律が現状に合わない状態になっている場合は、ある面で有効な現状突破のソリューションでもあって。面倒な「許可取り」をするよりも、多くの場合は文句なんて出ないんだから、実際に流通させちゃって、ビジネスを成長させちゃおうって言う考え方ですよね。

実際この形で成長した会社ありますよね。そう、皆さんも日々使ってるGoogleです。YouTubeもそうかな。あそこって違法動画のオンパレードですもんね。Googleは検索エンジンのために、クローラーがWeb上のコンテンツを複製して回ってるわけですが、これ原則からすれば「完全に違法」ですからね。

Googleはその関係で訴訟も散々経験していますが、その間に巨大企業に成長して、政治に働きかける力を得て、法律改正をして合法化させるとこまでやっちゃったわけです。なかなか真似できることじゃないかもしれないですけどね。

でも、市場にニーズがあって、社会全体にとっても有用だと認められれば、法律を変えていくこともできるわけで。海外ではこう言う戦略的な動きも含めて「コンプライアンス」って呼んだりしますからね。

なので「法律をどのようにどの程度守るのか」というのは、法律の性質を見極めた上で動く、というのが経営判断としては妥当なところなんです。

薬物関係のように免許なしに「触れたらやばい法律」もあるし、著作権法みたいに「グレーゾーンがめちゃ広い法律」もあるし、また、あるけど「ほとんど適用されたことない死文化している法律」もありますからね。

なので、もし新しいビジネスをやろうとしていて、そういうことがわかんなかったら、そう言う時こそ「弁護士の法律相談」をリスクヘッジとして使うといいんです。大抵は、30分から1時間ほど相談して、必要なら文献等調査して貰えば解決しますから、訴訟ほどのコストはかからないですからね。

プロに調べてもらって「アウトだとは言われなかった」と言うのは、問題になった時に「専門家の意見まで聞いて慎重に振る舞っていた」ということで、大いに意味のあるディフェンスにもなるので、保険としての意味もあります。

ということで、今回は「法律なんて守らなくていい?」というお話でした。法律ってどうして古臭いなぁ、邪魔だなぁと感じさせるものも多いのか、そんなカラクリもなんとなくわかったのではないでしょうか。

相手(法律)の個性をよく見ながら、うまく付き合って行けるといいですね^^

動画バージョンはこちらです。



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