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倫理が問われる仮想通貨系メディア〜「広告表記」なしの記事作成依頼を受けた際の回答は...

仮想通貨、ブロックチェーンのニュースを見ていると「こういうことはいずれ日本でも起きるかもしれないのでは」と感じる事象を目にすることがあります。今回は関連のニュースサイト、PR会社、広告主(ICOなどのプロジェクト運営者)の視点を想定しながら気になったこちらの記事をご紹介です。

28社に調査を行い、12社は広告表記掲載なしで記事作成・掲載を承諾

Breaker」という新興クリプト系ニュースサイトの「調査報道」によると、クリプト系ニュースサイト28媒体に対し「広告表記」の記載なしでプロモーション記事を執筆してもらえるか打診した結果、12もの媒体が見積もり価格とともに掲載可能である、という返信があった、ということです。上記の図には1本の記事作成のための見積もり価格が記載されています(240ドルから4,500ドル)。

ちなみに、最初に打診をした際にはネイティブ広告(日本では「記事広告」と呼ばれることが多いです)の作成・掲載は可能か、と打診をし、その際は22の媒体が料金表のリストなどとともに返信がありました(2社は条件次第と明記を保留)。その次の打診の際に「スポンサー表記」なしで記事作成・掲載は可能か?という問合せをした結果、12の媒体が「Yes」という返事回答ともに値段の見積もりを送付してきた、ということです。

簡単に背景を補足しますね。仮想通貨、ブロックチェーン関係のプロジェクトは世の中全体では「怪しい」と扱われることもまだ多く、主要メディアでの取扱に関し、米国の場合、既に認知度があるビットコイン、仮想通貨交換所のコインベースのような著名な会社などの一部に限られています。報道ニュースとしても仮想通貨価格の暴落、交換所などのハッキング、規制などに関するものが中心といえます。

さらに、先日まではグーグル、フェイスブック、ツイッターなどでのICO関連の広告出稿が禁止されていたこともあり、ブロックチェーン関連のプロジェクトを多くの人に知ってもらうためには、プレスリリース配信やSNSでの投稿に頼るしかなかった、という事情があります。ジャーナリストによる「お墨付き」となるような記事としての掲載というのは、ICOの広報担当としてはぜひとも実現したい取り組みという位置づけといえます。

上記リストの中で最も見積もり価格が高かったのはNewsBTCというサイトで、4,500ドルとなっています。サイトによると月間のページビューは150万と言われていて、多くの記事がSNS上でも拡散されたり、検索結果に表示されることも多いサイトです。

今回の取材の過程で記者がNewsBTCのCEOに問い合わせをしたところ、営業担当が誤って広告表記なしのスポンサー記事を作成するということを提示してしまったが、それは同社のポリシーではない、との回答があったそうです。担当した営業スタッフは即時解雇し、今後同じような過ちはしない、と回答しています。

今回の記事は掲載後2日後の時点でツイッター上では1,600回以上もリツイートされ、一部で大きな話題となっているようです。今後国内の仮想通貨メディア業界でも起こりえない話ではないと思われるので備忘録として今回取り上げてみました。

気になる調査報道の手法、釣りタイトル。ニュースサイト所有者確認は忘れずに

一方で気になったのは、今回の取材方法です。記者が架空のgmailアカウントを作成し、画像も「ロシア人俳優」と検索して見つけたものを無断で使用し、名前も「Nikolay Kostarev」という全くの架空のPR会社社員を創り出し「調査報道」をした点です。ニュースメディアの収益構造は圧迫される中、広告表記の明示された「ネイティブ広告」は様々なルール作りの議論の末、今日広く認められている手法です。

「広告表記」なしの依頼に対して12社が応じたことは問題はあると思いますが、今回の記事の取り上げ方、タイトル含め、センセーショナルな手法が盛り込まれている印象を感じます。広告記載明記なしの広告記事作成に応じたのは12社ですが一定の条件の元でなら検討中としていた2社も含め、当初返信のあった24社中14社が「Yes」といった、という限られてサンプル情報を持って58%(半分以上)という数字を作りあげています。

それら14社を「お金のために魂を売るニュースサイト」と決めつけ、「We Asked Crypto News Outlets If They’d Take Money to Cover a Project. More Than Half Said Yes」という、クリックベイト的なセンセーショナルなタイトルをつけています。記事を掲載しているBreakerは先日ご紹介した分散型ネットフリックスを目指すと言われている「SingularDTV」が所有しているものです(編集権は独立とされています)。

以上、クリプト関連のメディアが信頼されるメディアとして成長、成熟していくにつれ、同じような議論が国内文脈でも生まれると思われます。そんな時に今回の記事が参考として、ひとつの考えるきっかけ、戒めとして活かされることがあれば、と願っています。

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