「人に寄り添いたい」ブランドデザイナーに聞く

 「 ha |za | ma 」(ハザマ)。その世界観と強烈な存在感が人気のファッションブランドだ。「唯一無二」という言葉では表しきれない魅力がある。デザイナーの松井諒祐さんにブランドへの思いを聞いた。【2年・吉田真彩】

――ブランドを立ち上げようと考えたきっかけになる出来事はありますか?

 4年制の大学に通っていて、3年生になった時に「就活は自分に向いてないな」と思いました。会社という形に自分は合っていないと感じていたから。今は転職が一般的に知られていて、転職用のアプリがあったりCMで紹介されていたりするけど、当時、少なくとも僕の中では転職に対しての認識が希薄で……。「65歳まで同じ場所で働き続けるなんて無理」と思っていました。
 服飾に興味があったので、大学4年生の2010年に文化服装学院へ入学して、最初の1年は2つの学校に通っていました。文化服装学院は3年制なので、他の人より2年長く学校に通っていることになるのかな。それでも、学院を卒業する時にまた就活が近づいてきて。やっぱり会社で働くのは向いていないので、いっそ自分で始めてしまおうと思ってブランドを立ち上げました。こう言ってしまうと、全然かっこいい理由ではないですね(笑)。

――ブランド名の「 ha | za | ma 」にはどのような意味が込められているのでしょうか。

 実は、けっこうたくさん理由があって。まずはコンセプトというか、ずっと意識していることで「人によりそう服」を作りたいという思いがあります。「人間」という漢字を見た時、「人」によりそっているのが「間(はざま)」という字。これが一つ目です。
 二つ目は僕の大好きなバンド「BUMP OF CHICKEN」が関わってくるんですが、「sailing day」という曲のPVで、ボーカルの藤原基央さんがジーンズとパーカー姿で歌うシーンがあるんです。服装自体はラフで派手じゃないのに、最高にかっこよくて。それって藤原さん本人の生き様や魅力が出ているからだと思うんです。アーティストにそういう方が多いけど、誰にでもその人の生き様はあるので。「生きる(いきる)」は「生える(はえる)」とも読めるから、生き様の意味も込めて「生様(はざま)」ですね。
 それと、ファッションブランドってけっこう「うちのブランドはこう!」という個性を決めているところが多いなっていう印象があって。絵で言うと画風みたいな。僕はそれがもったいないと思っているので、いろいろな世界観の「間(はざま)」にいたいなっていう気持ちも込めています。
あんまり言ったことないんですけど、祖母の旧姓が「間(はざま)」だったのもありますね。

筆者が持っている「 ha | za | ma 」の靴

――こだわりのある素敵な名前ですね。「 ha | za | ma 」というと、特徴的なヒールが有名という印象があります。手の形をしていたり、ピストルのようになっていたり。お気に入りのヒールデザインはありますか?

 自分の中だと、手の形が印象的ですね。特別気に入っているというより、「こういうのが世の中に響くんだ」という意味で。元々あの靴は販売用ではなくて、ファッションショーのためだけに作ったものだったんです。履いて歩いたモデルさんがSNSに投稿したら反響がたくさんあって、それで商品化することになりました。今でも、予想外のものがよく売れることがあります。僕が気にいったデザインと、人気のあるデザインにけっこうギャップがあったり……。
 「ヒールが手になっている」みたいなデザインって、けっこう誰でも思いつくんじゃないかと思うんですけど、実現するのはけっこう難しくて。耐久性がなければ商品として皆さんにお届けすることはできないし、特殊な形のヒールだと製造費用も上がってきます。そういう意味で、「 ha | za | ma 」は、悪く言えばリスク、良く言えばチャレンジのブランドです。かなりのリスクを伴っていますね。歌い手のAdoさんとコラボした時は、18万円のワンピースを出しました。

――ピストルをモチーフにしたアイテムは、全て引き金が引けるように作られていますよね。すごくロマンチックだと思います。

 そうですね。本当は必要ないし、引いたところで何にも起こらないけど、引けるようになっています。意味のないことを楽しみたいし、全力を出したい。引き金を引くという行為から、過去に見てきた引き金にまつわるシーンの記憶が蘇ると思うんです。過去とのリンクというか、伏線の回収というか。人によっていろいろな解釈ができるもの、そういう放射線状に広がっていく想像の起点になれたらうれしいですね。点で終わらないものになりたいです。

――松井さんは、よくSNSのリプライにご自身で返信されています。展示会でも、お客さんが来た時や帰る時に必ずあいさつしていらっしゃいました。お客さんと直に交流することを大切にされているイメージがあります。

 そうですか? 僕自身、なにか特別なことをしているつもりはなかったです。というか、そうしていないと怖いんです。展示会に来てくださっている方だと、ちゃんと楽しんでいただけたかなとか、どう思ったかなとか、すごく気になるんです。感想が知りたくて。僕が手を離せないときにお帰りになられて、お見送りとあいさつができなかった方がいらっしゃるときは、気になって仕方がないです。以前そういうことがあった時は、後日メールで連絡させていただいたこともあります。直接自分が関われないと不安になります。

――先ほどもお話に出ていましたが、「 ha | za | ma 」は他ジャンルとのコラボも魅力の一つですよね。

 声優の佐倉綾音さんや梶裕貴さん、歌い手のAdoさん、バーチャルライバーの北小路ヒスイさん、一番最近のコラボだと映画『ゴジラ-1.0』とも。

――コラボのお誘いは、松井さんから? それとも向こうからでしょうか。

 基本的には、ご依頼を頂くことが多いですね。ゴジラの時だと、「俳優さんがレッドカーペットを歩くための靴を作ってほしい」というお話で。佐倉綾音さんは元々お客様として「 ha | za | ma 」でお買い物をしてくださっていて、コラボという流れにつながりました。こちら側から一方的に声をかけさせていただくことは、これまであまりないかな。

――今後コラボしてみたいジャンルがあれば教えてください。

 漫画や音楽関係のジャンルでしょうか。シャツにロゴが付いているだけみたいなコラボはしたくないんです。そういう商品を出すだけというより、その世界観の根本をデザイン化するようなコラボがいいなと思います。もちろんクリエイティブなジャンルは他にもたくさんあるけど、ぱっと思いついたのは漫画や音楽です。やるなら、「一緒にクリエイティブする」がいいですね。

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