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ブランドロゴと道具の真価

「SO FAR SO GOODはなぜ製品にロゴを入れないんですか?」

受注イベントでお客様に尋ねられました。

これについてはずいぶん昔、Instagramに投稿しましたが、今ではご存知ない方が多いのだと気づいたので、あらためて、そしてその時には書ききれなかった深い理由も書いてみます。

SO FAR SO GOODの製品は、”敢えて”ブランドロゴやロゴ入りのタグを使いません。

理由は、端的に言えば、

「製品の造形・機能性や使い勝手の良さという、”本当の意味”でのプロダクトデザインで選ばれるブランドでありたい」

「旅や日常生活における不便さを心地よくする道具であることがアイデンティティでありたい」

という想いからです。


装飾としてのブランドロゴやロゴ入りのタグは、製品の道具としての機能や使い勝手には何ら寄与しません。

しかしながら、世の中には、どこにでもある、もしくは昔からある素材や形状や機能性の「モノ」に「ブランドの”オリジナルロゴ”を配した」だけの「ブランドオリジナル製品」というものが数多存在します。

「ロゴもタグも何もついていない白Tシャツより、知名度、人気のあるブランドロゴやメッセージ、絵柄の入ったものの方がカッコ良く、お洒落に、あるいは可愛く見える」という人の真理を利用したブランディングです。

自分自身がカッコ良いと思う「デザイン」のものを身につける方が気分がアガる、もしくは逆の場合もあるのもまた事実でしょう。
実際に私自身の場合で言うと、「素材や機能、フォルムは好きだけど、目立つブランドロゴが入っているのが嫌だから買わない」製品というものが少なからずあります。

実は、量産メーカーに勤めたうちの10年は、ブランドロゴを売りにする〈ライセンスブランド〉のバッグや財布の企画デザインをしていました。
(私が当時就職を希望した革小物や服飾雑貨メーカーでは、服飾の専門学校を卒業していない未経験の私を企画・デザイン職として雇ってはくれず、ようやく採用してくれた会社が、主要事業としてライセンスブランドの企画販売をしていたのです)

ライセンスブランドの製品というのは、国内外の既に知名度や人気のあるブランドの運営会社に対して、契約期間中のロイヤリティというロゴの使用料や売り上げの何%という金額を支払い、そのブランド本体ではない別の企業がそのブランドロゴを使用してバッグや財布(ハンカチやソックスなどの服飾雑貨や文具などの場合もある)を企画・販売するものです。
百貨店などの平場で売られているバッグやお財布といえばわかりやすいと思います。

例えばAとBという財布があり、形も素材も機能性も全く同じだけれど、Aは誰もが知っている有名ブランドのロゴがプリントされていたり、メタルプレートや織ネームといういわゆる「タグ」がついているもので、AはBよりも1.5〜数倍ほどの価格がついている。
さて、どちらを買いたいですか?

少なくない方が、有名ブランドのものを選択することでしょう。

「有名ブランドのものの方がカッコイイから」
「有名ブランドの方が高品質に思えるから」
「有名ブランドの方が人に自慢できるから」

理由は様々だと思います。

中には、素材や品質が圧倒的に良いものも確かにあります。
しかし、製品自体の品質は同じなのに、ブランドロゴの入っているものの方が売れる、つまり「価値がある」と判断されること、「人気ブランドのロゴさえ入れておけば売れる」というメーカーの姿勢にも疑問を抱く気持ちがどんどん大きくなっていきました。

同じ素材、形、機能性のものに、幾つもの異なるブランドのロゴを乗せ替えていく仕事をしながら、

『ブランドのオリジナリティ、価値って一体なんだろう?』
と。

そこで私は、それまでその会社の製品にはなかった新しい機能を盛り込むようになりました。
例えば財布なら小銭入れの形状、カードスロットの幅や高さ、カードケースなら取り出しやすいポケットの機構、バッグならサイズ感、ポケットの配置や持ち手の形状や長さなど。
そういった、ブランドロゴとは関係ない「使いやすさ」を向上させることに尽力しました。

すると、メーカー直営のショップや卸先のショップの商品レビューに

「デザインが気に入って購入したけれど、機能性、使い勝手の良さに感動しました!」
「めちゃくちゃ使いやすい。次に買い替える時もこれにします」

そんなコメントが並ぶようになりました。
そして、会社の中でも、私が生み出したその「売れ型」に、他のブランドのロゴやタグを乗せて製品化することも増えていきました。

道具というのは、「使ってナンボ」だと昔から思っています。
そしてその「使い勝手の良さ」が道具の真価なのだと、私は確信したのでした。

【Armadillo】やその他の製品にも取り付けている革製のループは栃木レザーのヌメ革製。
水に濡れたり、手の油分、日焼けなどで使うほどに味わいが出る。


製品の一部についている穴の空いた革製ループも飾りではなく、カラビナを取り付けたりファスナーを開けやすくするための「道具」です。

SO FAR SO GOODの「O」の部分のみをパンチングで穴あけ。
革の裁断から、全て手作業で作っています。

そして不規則に開いた穴は、SO FAR SO GOODのロゴの「O」の部分をくり抜いたもの。
二つに折ると、二つの「O」が重なり、向こうの景色が見えます。

それは

「人生においてバラバラに見える出来事や、人や物との出会いが繋がっていると気づくとき、さらに視野が広がってこれまで見えなかったものが見え、人生が豊かになる」

という、私の信念のような思いを込めたタイポグラフィです。

また、Waltz DXなどについている革パーツの「👀」の素押しは、ロゴの「G👀D 」の部分を模ったものですが、これは、私が人生において大切だと思っている「好奇心とユーモア」を表現したモチーフで、使い込むほどに薄れて見えなくなって行きます。
見えなくなるくらい使い込んでいただければ本望です。

フルベジタブルタンニン槽で2回漬け込んで鞣しを行い、ヌメ革では硬さが抜けにくい革を、やわらかくしっとりとした感触に仕上げた国産ロロマレザーに素押しを施すと、焼印風に。
この素押しと型抜きの工程だけは、浅草の革職人さんにお願いして加工していただいています。

もしかしたら、「SO FAR SO GOODのロゴが入ったアイテムも欲しい」と思ってくださる方がいらっしゃるかもしれませんが、ロゴやタグのデザインデータを作成したり、その付け位置を考えている時間があるなら、私はそれを、製品自体の機能を向上させる試作開発に充てたい、そう思っています。



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