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現代で組織における“リーダー”が重要性を増している理由

組織においてリーダーの存在が重要視されるようになった理由のひとつとして、現代が将来の予測が困難な時代(=VUCA時代)であることが挙げられます。
※VUCA=V(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、
C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字による造語

一昔前の理想のリーダー像といえば、威厳があって、黙っていても人がついてくるような人物を思い浮かべるのではないでしょうか。市場が国内中心で将来の予測が立てやすかった高度経済成長期であれば、当時のリーダーシップのあり方で問題はなかったかもしれません。
しかし、現在はビジネスモデルが多様化し、市場はグローバル化。将来の予測が難しい中で経営の舵取りをしなければなりません。このような時代において求められるリーダー像・リーダーシップのあり方も変わってきています。


リーダーの役割が変化してきている

この現代、大企業において、意思決定を下しているリーダーはどれほどいるのでしょうか?
サービスやビジネスのあり方がサイロ化・複雑化されている現代において、DXに繋がる現場のデジタル顧客対応や、東証上場基準に対応することを目的としたカーボンニュートラルの削減目標設定など、経営層が現場情報をことこまかに把握して計画をすることは、ほぼ不可能です。世界の企業でも意志決定や合意形成、調整しかしていない指導者が多いようです。

1.権限や責任の所在はどこにある?

経営者が計画偏重している状態や、トップダウン型の戦略遂行では、状況の変化に合わせて素早く意思決定し、事業やサービスを変化させることはできません。急速に変化するビジネス環境においては、現場の能力や、権限、裁量を分権化することが重要です。しかし、従来の中央集権的な権限体制を現場に分散させることが不可欠であるものの、実際にはなし崩し的にそれが起こっている状況です。

現場単位のIT導入などが典型的な例です。現場に権限は与えていますが、実際のところ責任の所在は不明確です。各現場の裁量を許可していない場合も多いですし、リスクも管理されていません。

現場主導のIT導入が良い悪いという話ではなく、既存の組織構造やシステムでは、柔軟で迅速な対応はできていない、ということです。
社長は現場リーダーに任せる他なく、現場リーダーは現場社員に任せる他なく、詳細に説明を聞き、詳細にマネジメントし、承認することなど不可能であり、非効率です。

計画偏重は厳密に言うと不可能で、各人のモラルと当事者意識に頼らざるを得ません。しかし、これが問題なのです。実際にはモラルや当事者意識はなく、うまくいけば自分の評価、うまくいかなければ誰かのせいにしたり、なかったものとする。経営者から現場まで、組織全体がそういった意識でいるのではないでしょうか。

2.企業の「3大疾病」は都合が良い

経営学者であり一橋大学の名誉教授でもある野中郁次郎氏は、日本企業の多くは米国流の経営手法に過剰適応した結果、オーバー・プランニング(過剰計画)、オーバー・アナリシス(過剰分析)、オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)の「3大疾病」に陥っていると述べています。

しかし、本当に「疾病」なのでしょうか?
そもそも経営層が現場を理解できていなければ、計画・分析・ルール・法令順守に基づいた計画を立てることは不可能です。

熾烈な競争に晒される事業部や現場では、日々、専門的で高度な技術を取得しながら業務をこなしてします。そのような状況下で、経営者が各市場環境や詳細な技術を中央集権的に把握することはほぼ不可能です。なぜ実現不可能なことをやろうとしているのでしょうか。

それは、職場や管理職が「組織全体が3大疾病である」と決めつけることで、批判や凶弾の的になるのを避けていると考えられます。
自分で意思決定をしてしまうと、失敗した際に責任を取らされるため、言われた通りに進めるわけです。オーバー・プランニング(過剰計画)、オーバー・アナリシス(過剰分析)、オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)である方が、都合が良いのです。

このような「3大疾病」となっている会社が存在しているとすれば、それは「過剰」ではなく、「不可能」なことをやっている可能性があります。各事業部や部署が自主的に意思決定することが不可逆的になりつつあります。
各事業部や現場が、目的を明確にし、自立的に計画を立て、情報を分析し、意思決定することで、現場単位で小さな事象も的確に捉えて意志決定できたり、フットワークが軽くなるため、迅速な対応ができます。
また、少数のリーダーによる全体の推し量りが困難な場合は、各々がリーダーシップを発揮する必要が増していくため、必要とされるリーダーの数も増えざるを得ません。

3.リーダーにおけるコミュニケーションスキルの必要性

しかしながら、このような自己組織型の組織は、部署やチームが自発的に行動するため、調和的で効果的な働き方をすることが困難であるというジレンマに突き当たります。
従って、リーダーは即興性と同時に、交流・コミュニケーション・相互関係の構築を誠実に追求しなければ、組織全体はすぐ崩壊します。

職務や地位などの境界を超えて、テクノロジーを使い、綱渡りのように相互協力を構築し、組織全体の役割を柔軟に変化・対応できるよう、リーダーシップを発揮しなければなりません。
リーダーはピーター・ドラッカーが言う「組織適応力」に相当するコミュニケーションスキルを、組織の人々が相互理解するために、迅速かつ確実に磨き上げなければなりません。

現代におけるリーダーには、多種多様なリーダーシップ論やリーダーの役割が必要とされます。リーダーシップ項目の比重や必要な人数については、過去とは異なるニーズが出てきています。また、コミュニケーションは現代社会において非常に困難なことではありますが、その必要性はますます高まっています。

さまざまなリーダーシップ論

リーダーシップ論についてはこれまでさまざまな議論が交わされてきました。 具体的にどのような理論が展開されてきたのでしょうか。代表的なものをご紹介します。

1.特性理論

リーダーシップ論の初期にしばしば見られた理論です。リーダーシップの有無は生まれながら発揮する才能であり、先天的であるという考え方を特性理論と呼びます。リーダーシップが先天的な才能であれば、リーダーシップは育成できず、「採用」によってリーダーを確保しなければなりません。そのためには、優秀なリーダーを惹きつける会社の魅力と、リーダーを正しく評価する仕組みが必要となります。
ただ、特性だけでリーダーシップが発揮される訳ではなく、特性×リーダーに置かれた状況において発揮される、ということです。

2.行動理論

リーダーシップ行動論とは、1940年代ごろから発展したリーダーシップ理論におけるアプローチのひとつであり、リーダーとは作られるものであるという考え方です。特性論とは逆で、リーダーシップは後天的なものという考え方であるといえます。
後天的な才能であれば、採用だけでなく「育成」によってもリーダーを獲得できるわけです。リーダーを育成するためには、自社が求めるリーダーシップとはどんなものなのかをスタイルや行動に落とし込み、それを実現する能力へ具体化することが重要となってきます。
「リーダーシップ育成」という大きな枠組みだけでなく、「リーダーシップのためのビジョン思考」「リーダーシップのためのコミュニケーション能力」などに分解しながら育成方法を検討する必要があります。
しかし、リーダーの特性・素質のない人間がリーダーのポジションに置かれたところで、リーダーシップを発揮できるとは限りません。

3.条件適合理論

条件適合理論は、状況ごとにリーダーシップのスタイルは異なり、すべてに適合する普遍的なリーダーシップはないという考え方です。
条件適合理論に基づくと、企業においてはリーダーシップのさまざまなスタイルを備えた優秀な人材を、採用あるいは育成する必要があります。
そのためには、さまざまなスタイルを容認する多様性を担保するための環境を整えなければなりません。

まとめ

優れたリーダーになるために必要なスキルは、つまるところ「コミュニケーション」です。
ただ、誰に対しても、どのような状況であっても、万能に適応できる標準的なリーダーシップスキルは存在しないのではないでしょうか。
人それぞれ、さまざまな考え方や視点をもっており、状況や環境はいつどこでどうなるか予想もできません。

そのため、役職や立場など関係なく、自分はどのようなことが得意で、どのようなケースで活躍できるのかを知り、そこでリーダーシップがとれるよう、個々にスキルを磨いておくことが重要です。