見出し画像

山本粧子の Hola! ジャガイモ人間      ~ペルーからコンニチワ~┃ 第3回

ブエノスディアス! 山本粧子(やまもとしょうこ)です。
 
前回は日本におけるジャガイモについて書いたので、今日は日本での予習をかねて、「ペルーのジャガイモ」情報について調べていきたいと思います。

【悲報】トウモロコシにも負ける

まずは、16世紀ごろのスペイン人のおもしろ勘違いエピソードからご紹介しましょう。

ジャガイモとトウモロコシはペルーにおいて、それぞれ非常に重要な作物ですが、育つ環境は異なります。
トウモロコシは灌漑設備が整えられ、立派な石を積み上げた美しい階段耕地で栽培される一方、ジャガイモは寒冷な高地に適するため、斜面をそのまま活用して育てられていました。
今風に言うと、ジャガイモ畑は地味で劣悪に見え、「映え」なかったが、トウモロコシ畑は美しく映えていたのではないかと思います。

そのため、アンデスにやってきたスペイン人はトウモロコシの記録を多く残し、後世の人も、アンデスの主な作物はトウモロコシで、主食もそうだと考えるようになりました。
しかし、実際はジャガイモを主食にしている人の方がはるかに多く、トウモロコシは副食的な役割だったのです。
トウモロコシは主に、ペルーで有名な飲み物である「チチャ酒」を作るために使われていました。「チチャ酒」は祭りや儀礼の際に振る舞われていたそうです。
トウモロコシの育つ環境が立派で、ジャガイモは地味で映えなかったがために、誤った情報がスペインに伝えられたわけです。当時から、ビジュアルが大事だったということでしょうか。。。
 

だが名前はかわいい

さんざんな勘違いをされたジャガイモは、ペルーでは「パパ(papa)」と呼ばれています。なんとなく、音的に「ジャガイモ」ほどゴツゴツとしておらず、可愛らしい感じがしませんか?
ちなみに「パパ」は、ケチュア語由来の言葉。
ケチュア語はペルーの公用語の一つであり、もともとインカ帝国で話されていた言葉でした。
現在でも、ペルー、ボリビア、エクアドル、チリ北部、コロンビア南部などで1300万人が使用しています。
実は、日本でも聞いたことがあるであろう「アルパカ」マテ茶の「マテ」「インカ」「インティ・ライミ」「マチュピチュ」などはケチュア語なんです。
私も知らないうちに、ケチュア語由来のワードを日常的に使っていました。

ヨーロッパでの広がり

 当初は、南米からスペインへも「ジャガイモ=パパ」と名前もセットで伝わったのですが、ローマ法王を意味する「パパ(papà)」 と同じ音であることから「パタタ(patata)」に変更されたそうです。そこから転じて、英語では「ポテト(poteto)」となりました。

因みに、私が以前学んでいたフランス語では少しテイストが異なり、ジャガイモは栄養価が高いと言うことから「大地(=テール)のりんご(=ポム)」で「ポム ドゥ テール(pomme de terre)」と呼ばれています。
また、ドイツ語のカルトッフェル(Kartoffel)は、ジャガイモと同じく土の中にできるキノコ・トリュフを表すイタリア語タルトゥフォ(tartufo)からきているそう。
同じヨーロッパでも、語源がバラバラなんですね。

言語いろいろ、食もいろいろ

ところで、スペイン語の勉強を始めて分かったことがあります。それは、南米の多くの国で、スペイン語が公用語として話されてはいるものの、各国で単語や発音や話し方が異なるということです。
私のスペイン語の先生は、「これは、ペルー弁で、これはチリ弁、これはボリビア、これはエルサルバトル」と言って丁寧に違いを説明してくれます。もちろん、スペインで話されているスペイン語も、南米で話されているものとかなり違いがあるようです。
 
地域によって異なるのは言葉だけではありません。ペルーの国内だけでも、実は地域によって主食が異なります。
ペルーは地理的に、海岸砂漠地域のコスタ(国土の約11%)、アンデス山岳地域のシエラ(約30%、6000m級の山々がある中央部)、アマゾン熱帯雨林地域のセルバ(約59%、隣国と隣り合っているところでアマゾン川の源)の3つのエリアに分かれています。

ペルーの地理イメージ図。
ペルーは5カ国(エクアドル、コロンビア、ブラジル、ボリビア、チリ)と隣接しています。

 そして海沿いの砂漠は「米」、標高が高いエリアは「ジャガイモ」と「トウモロコシ」、熱帯雨林地域はキャッサバ芋(タピオカの原料)の一種である「ユカ」と「バナナ」が食べられているのだそうです。
3000種もジャガイモがある原産地といっても、全国的にジャガイモが主食なのではなく、エリア別に主食が違うのですね!

一つの国に大きく異なる3つの環境があるというのは非常に興味深いです。
さらに「主食は米の一択!」という国で育った私としては、同じ国でも環境が変わると、主食が異なるのもおもしろポイントです。
 
しかし、私が派遣されるパラカスは、米が主食の海岸砂漠地域。
果たして現存するジャガイモすべてを制覇することはできるのでしょうか?

それでは今日はこの辺りでアディオス!

【おもな参考文献・ウェブサイト】
アンドルー・F・スミス著 竹田 円訳『ジャガイモの歴史』原書房

〈プロフィール〉
山本粧子(やまもと・しょうこ)

神戸市生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻芸術学コース卒業。卒業後、国境の街に興味があったことと、中学生の頃から目指していた宝塚歌劇団の演出家になる夢を叶える修行のため、フランスのストラスブールに2年ほど滞在しながら、ヨーロッパの美術館や劇場を巡る。残念ながら宝塚歌劇団の演出家試験には落ち、イベントデザイン会社で7年半、ディレクターとして国内外のイベントに携わる。また、大学時代より人の顔をモチーフに油絵を描いており「人間とはなんだ」というタイトルで兵庫県立美術館原田の森ギャラリーや神戸アートビレッジセンターにて個展を開催。趣味は、旅行の計画を立てること。2016年からは韓国ドラマも欠かさず見ている。2023年秋より南米ペルーのイカ州パラカスに海外協力隊として滞在し、ペルーとジャガイモと人間について発信していく予定。