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詩『彗星』

剥離したオーロラがこぼれてきたので
口を開けたまま目が乾いても見続けた
また会えるとはいっても不確かな命だ
次があるかどうかなどは判らないのだ

無音の世界をただ降下してくる彗星を
賢治はなぜギーギーフーと記したのか
熱帯魚のような尾は実際は多弁なのか
可能なら聴いてみたいと思いを馳せた

ふだんは静かの海に置き去りの感情も
生きものなので周期的に自己主張する
自分では手がつけられないこともある
そんなときはゼリービーンズを頬張る

今でこそ彗星だと把握ができるわけで
ずいぶん戸惑いや苦しみを重ねてきた
白い光が容赦なく影を浮きあがらせる
そう 記憶はぼくを周回する星なのだ

何度見送りやりすごしてきただろうか
めぐり来る光はいつも苛烈そのもので
刻刻と欠けてゆくのがうつくしく尊い
ぼくという内的宇宙を行き来する彗星

深い傷を受けることもままあるけれど
いつか自分自身が流れてゆくときにも
おなじように輝く星としてあれるのか
夢を見つつ楽しみにしていたいと思う




20211024
深夜の二時間作詩
第130回『彗星』

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