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23、冬の朝

冬のしんとした朝は"どこか遠出をするとき "という感覚は小さいときなくなった。田舎に住んでいた私は通学に1時間半かかり、毎朝6時には家を出ていた。田舎は移動に厳しい。一本電車を逃せば、次は30分後、1時間後なんてことがざらにある。東京はどういう仕組みであんなに電車が来るんだろう?

冬から春に移り変わるこの時期は、夜中から鳥が鳴きはじめる。真っ暗闇に似合わない、可愛い鳥の声が朝までずっと聞こえている。駐車場の明かりをお日様と勘違いしているのか、夜型の鳥なのかよく分からない、けど可愛いから良い。

今は掛け持ちのバイトをしている。一方では1・2歳児にぶら下がられて、5歳児にタックルされる毎日。一方では常連のおじいちゃんの腰痛の話を聞きながら、煙草の煙に包まれる日々。

どちらも遅刻はできない。
毎日、6時には時計のアラームがなる。

スクランブル交差点を渡ったら、
きっと私はこけるだろう。
薄暗い場所が好きだ、
夜の東京を見たら卒倒しそうだ。

都会に憧れるけれど、私にはここがあっている。そう思う。しょうゆは甘くないと嫌だし、気を抜くと訛りがでてしまう。

毎日を大切にできている感覚は無いし、日記だって全然続かないけど、

頻繁に忘れたくないことは案外起きたりする。

帰り道に信じられないくらい笑ったから、
これは絶対覚えとこ!悲しいことあったらこのこと思いだして笑お!って思ったけど、帰ってお風呂に入ったら全部忘れる。

赤ちゃんの夜泣きが続いていたある日、ノイローゼのような状態になってしまったお母さんが、子どもが大きなったとき、きっとこの日を愛おしく思いだす日があるはずから、だから今は踏ん張ろうと奮起するみたいな内容の漫画を読んだ。

泣いてしまった。

みいつけた!のスイちゃんが卒業した。(正確にいうと変身らしい)スイちゃんと思い出を振り返る特番を観て

泣いてしまった。

気づいたら、心の支えになっているものがあったり。気づいたら、自分の弱いものが動物の感動ものだけではなくなっていたり。


劇的な変化は無い。毎日が単調で、職場で会う子どもたちの語彙の数や、できたよ!って言葉に驚いて、時間の流れの早さにふと気づいたり。

自分のことではなく、誰かの人生をなぞって、何かの実感を得ることが多くなった気がする。


不都合は無い。ただちょっと寂しい。


常連のおじいちゃんに私の先輩がNISAのやり方を教えてほしいと頼まれていた。私の先輩は「10年後とかだよ、結果出るの。10年後もうスマホ持てないでしょ」ってあしらってた。

何も無い、

大きな変化も、

劇的な出来事も。

でも、私はこの日々を何年後かに思いだして、
ちょっと泣いちゃうと思う。

気がつかないうちに、私の生活に仕事が密着していた。憂鬱だったはずの朝が離れがたくなっていた。

せんせい!って笑いかけてくれる子どもたちの顔を思いだして、忙しいときに決まって話しかけてくる常連さんのこと思い出して


だから、特別じゃない。遠出しない朝も少しは大切にしてやりたい。いつかの自分のために。

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