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新規事業のつくり方―アセットを活用するか、リーンに立ち上げるか

※本記事は、2017年12月に書かれた↓の記事のリライトになります


こんにちは。ランサーズの曽根(@hsonetty)です。「事業・戦略編」の第2回。前回の「戦略」に続くテーマとして、今回は「新規事業」について書かせていただきます。

新規事業についてですが、今回の話は、完全なるゼロイチで起業してサービスを立ち上げるという話というより、既存事業をもっている企業がいかに新規事業を生むことができるか、という点にフォーカスを絞って書いていきたいと思います。


1. 「新規事業を殺すのは既存事業」


前回、経営戦略の歴史をたどる中で、その主眼が「ポジショニング(外的な市場機会)かケイパビリティ(内的な組織能力)か」の対立から、「イノベーション」や「起業家論」に移ってきたという話をしました。

イノベーションや新規事業を考えるうえで有名な著作の一つとして、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』がよく挙げられるかと思います。

いわく、大企業の陥りやすい罠として、「顧客の声に耳を傾けすぎると選択を間違う」「合理的な判断の積み重ねが偉大な企業を滅ぼす」などなど、金言がたくさん。

合理的な判断をすれば、海のものとも山のものともわからない新規事業に対するROI(=投資対効果)はわりにあわない(ように見える)し、既存事業の規模からすると新規事業のサイズ感は桁が2-3桁違うこともあるある。

ではどうすればよいのか。『イノベーションのジレンマ』に書かれている、破壊的イノベーションの成功原則をすごくシンプルにぼくなりにまとめると、以下のようになります。

▼見えない市場・顧客のニーズに向き合う「独立した小さな組織」
▼最初からうまくいくと考えず、早期の失敗を「学習の機会」ととらえる
▼既存の主流の事業・組織と同じプロセスや価値基準を持ち込まない

基本は、既存の価値観にとらわれすぎないよう、小さく実験する、ということですね。

個人的に一つ上記に追加するならば、「撤退線をしっかりと引く」ことが重要だと思います。

サイバーエージェントなどはこの撤退基準(例:リリース後4か月を経過した時点で、コミュニティなら300万PV/月、ゲームなら1,000万円/月を超えていなければ撤退検討)を明確に社外にも公開していたりしますよね。

サイバーエージェントの場合、それまでにチャレンジしてきた新規事業の成功や失敗の場数を踏んできた経験があるからこそ、明確に撤退の基準がひけるのでしょう。

ここまで明確に基準を設定できなくとも、原則論として、「特区」的に新規事業を意図的に「放任」する一方で、ある一定の規律は重要になると思います。


2. 「アセット活用型」と「リーン立上型」


とはいえ、撤退基準も何も、まずは実際にどのように新規事業を生んでいくかですよね。

新規事業を生むといったときに、「自分たちだけではできない」と判断して買収(M&A)や提携(JVなど)を行うケースもありますが、ここでは自分たちでサービスを立ち上げるケースについて書きます(M&Aについてはまた次々回に書きたいと思います)

自社内で、どうやって新規事業をイチから立ち上げるか。

ランサーズのタレント社員として、自分の起業した会社(Uni’que)を経営しながら、複業でプロダクト・バリュー・マネージャーをしている若宮さんという方がいるのですが、彼の話がとても参考になるので、紹介したいと思います。

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いわく、新規事業のつくり方には2種類ある、と。

1つは、アセット活用型。語学留学もしくは豪華客船のようなもので、計画的で、お金の心配はなく、安全だが監視や制約がある。

もう1つは、リーン立上型。バックパック旅行もしくはボートのようなもので、行先も未定で、保証はなく、危険もあるが自由な「自分探し」に近い。

トップがこのどちらのタイプでいくのか腹決めをしていないと、新規事業はうまくいかず絶対に混乱するというのが彼の持論です。

ぼくもこれまでのキャリアの中で新規事業の立ち上げに何度も携わってきましたが、そのほとんどがアセット活用型でのつくり方だったので、実際に彼と新規事業のつくり方について話をしている中で、何度もハッとさせられたのを今でも鮮明に覚えています。

「スタートアップとして別会社でゼロイチ立ち上げるつもりでやりなよ」
「今までのやり方は全く気にせずにやってみよう」
「せっかくだし、今後の新サービスの立ち上げの見本になるといいな」
「結構資金使うだろうし、いつ投資回収できるか知っておきたいね」
「何もない中で立ち上げるより、既存の顧客基盤いかした方がいいよ」
「エンジニアリソース足りないなら、既存のチームから回すしかないね」

どの会話も、それ一つひとつは正しそうに聞こえます。でも、これらを全部、真正面から受け止めていかそうとすると、このアセット活用型とリーン立上型のはざまに陥ることになります。

だからこそ、このどちらのタイプでいくのかの腹決めが必要なのです。

たとえばアセット活用型でいうと、僕が楽天にいた時に自分でビジネスコンテストに出したアイデアや、実際に立ち上げに携わった新規事業はまさにこのモデルでした。

楽天で成功した新規事業のほとんどは、アセットを活用して、先行する国内外の成功モデルを素早くコピーする”Fast Follower”的なやり方だったと個人的には思います(たとえばSquareのモデルを日本でクイックに立ち上げた楽天スマートペイは、ポイントや金融サービスのオペレーション力を最大限活用して成功した良い事例)。

ランサーズで直近の10月に立ち上げた「Lancers Top」のサービスもまさにこのアセット活用型の典型例で、(名前からしてそうですが)ランサーズのブランドや顧客基盤といったアセットをフル活用して今まさにスケールさせています。


3. 小さな失敗を重ねて、実験ループを繰り返す


一方で、リーン立上型は、ふつうに考えると大企業にはなじみにくく、確率論的なモデルです(ぼくもこのモデルでの新規事業の立ち上げ経験は、ベンチャーに来るまでほとんどありませんでした)。

そもそも「リーン」という概念は、エリック・リースの『リーン・スタートアップ』から来ているものですが、その本質は、小さな失敗を重ねて育てる以下のサイクルにあると思います。

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社内で数か月かけて「あれやこれや」議論していたことが、市場に投入して反応を見ただけで数週間、早ければ数日で仮説検証し、すぐにピボット(=方向転換)できる。

実際に、今年の7月にランサーズで立ち上げた「pook」のサービスも、βローンチまでの検討のスピードと、βローンチ後の仮説検証における構築⇒計測⇒学習のフィードバックループのスピードでは、目覚ましい違いがありました。

ここでの肝は2つ。

▼売上などの結果指標を追わないということ(結果につながる前の先行指標を追う)
PRや広告による盛り上がりに惑わされないということ(顧客の反応に敏感になる)

最初に「(新規事業は)既存の主流の事業・組織と同じプロセスや価値基準を持ち込まない」と書きましたが、どうしても同じ尺度で横並びにしたくなるもの。

そこであえてぐっとこらえて、売上のような結果指標ではなく、小さくてもコアなファンが、そのプロダクトなりサービスのユニークな価値にどれだけ敏感に反応しているかを計測する(よくいう「100人の”LIKE”よりも1人の”LOVE”をつくる」)。

このサービスのユニークな価値というところですが、『リーン・スタートアップ』の実践的なツールとしてビジネスモデルを練るときに使われる「リーンキャンバス」においても、「独自の価値(UVP=Unique Value Proposition)」が一番難しく、一番書きづらい。

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9つの項目がありますが、この中でも重要なのは、どんな顧客セグメントのどんな課題を、(既存の代替サービスにはない)どんな独自の価値をもって解決するのか、の3つだと思います。

この③のユニークな価値をどう定義するか、についてはいろいろと語りたいこともあるのですが、これは別の機会に譲ります(前に触れた若宮さんが、コアバリュー・カウンセラーとしてユニークさに関する面白い記事を書かれているので興味のある方はぜひ読んでみてください)。

リーン立上型には失敗がつきものではありますが、皆さんもぜひ、(アイデア→)構築⇒(プロトタイプ→)計測⇒(データ→)学習(→アイデア)のループをまわしながら、新規事業や新サービスにどんどんチャレンジしてみてください。


今回のポイント


というわけで今回のまとめです。

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偉そうなことを書き連ねましたが、新規事業って本当に難しい。既存事業を見ながら新規事業をつくるのはいつでも悩ましい。失敗も多い。その苦しみと、でもそこを突き抜けたときの喜びと、新たな仮説があたってコアユーザーがついたときのワクワクが、もっとたくさんの人に広がっていくといいな、と思っています。

※注:その後の新規事業の振り返りについては↓の記事をぜひご覧ください

次のテーマは予算策定/事業計画になります。10年ちょっとのキャリアの中で、さまざまな事業の予算モデリングを数十回はやってきた経験をもとに書きたいと思います。

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