三題噺1【かご・マイホーム・即興】
「さて、今日はどんな家にするか。」
俺はささやかな家財道具一式の入ったかごをを両手いっぱいに持てるだけ持ち、本日の家を建てるのにちょうどいい場所を目の前にしてひとりつぶやいた。
今日は一日中つめたい雨が降っている。
人気のない、川べりの橋の下が今夜の俺のマイホームだ。
これから毎夜のジャズ的即興が始まる。
目を閉じ、浮かんできたのは山中のロッジ。(ゆうべは簡素な茶室だった。)
暖炉に燃える炎が、パチパチと音をたてている。
ふかふかのクッションのソファと、テーブルには暖かなコーヒー。
大きくてよく懐いている犬が足元に寝そべっている。
よし。
俺は持っていたかごを適切な位置に配置していく。
大きめのかごはいくつか寄せてソファに。
別のかごには赤いTシャツをかけ、暖炉に。
薄っぺらで汚れた毛布は丸めて足元に。
そしてあちこちへこんだステンレスカップに水を注いだ。
俺はまた目を閉じ、足元の毛布をそっと撫でる。
犬の気持ちよさそうな息遣いが聞こえる。
窓の外は雨だ。
淹れたての、熱々のコーヒーをすする。
静かな、いい夜だ。
※「三題噺(さんだいばなし)」:3つのお題を元に、即席で演じる落語のこと。落語では作り方にいくつか決まりがあるようなのですが、ここでは細かいルールはあまり気にせず、3つのワードから発想したお話をゆるりと書いています。
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