心地のいい親密度の話

横須賀から横浜へ向かう午後3時。
横浜駅を1つ前にする上大岡駅で、1組の老夫婦が私の後ろの席に座った。

京急の電車には2つ、種類があって。そのときは2人がけの席が両側、進行方向に堵列された電車だったので、後ろに座ったのが老夫婦であることは声で気がついた。

私は反対側にある傾き始めた太陽の光を眩しく感じながら俯きに本を読んでいたので、その乾いた光に少々集中力を持っていかれていたから、聞き耳をたてるでもなく、老夫婦の会話が耳に入る。

この、老夫婦の会話がなんとも暖かい。

何が暖かいのかと言われると、それはもう、老夫婦の放つ親密度とでも言おうか。2人のヒストリーを感じるような暖かさがあって。

口数は少ないけれど、おばあちゃんの言葉に応えるおじいちゃんの、作る間合いや、声色がなんとも暖かくて。

“この街も大分、姿を変えましたね。”

という声掛けに、これまた心地よく間を置いて

“あぁ。そうだなぁ。”

なんて、応えている声を聞けば、人生の酸いも甘いも噛み締めた熟年夫婦なのだろうなと想像してしまう。

心地のいい親密度を完璧な親密度と言うのなら、まさにこのご夫婦は完璧なようで。

そんな、素敵なご夫婦の、点と点をぽつぽつと残すような会話に、暖かい時間の流れを感じつつ、 電車は横浜駅に着きました。

私は渋谷に向かいます。


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