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『SHŌGUN 』衣装デザイナーカルロス・ロザリオ氏インタビュー聴き起こしメモ

今回取り上げるのは『SHŌGUN 』の衣装(「衣裳」という字を使いたくなりますが違いますよね)デザイナーであるカルロス・ロザリオ氏の最新インタビュー。物語性豊かな衣装の制作過程が大変詳しく語られています。番組公式が公開前に宣伝用ビジュアルとして使ったのは衣装のクローズアップだったのですが、それを見た時「こういう細部をまず出してくるということは余程自信があるらしいぞ」と楽しみになったことを思い出しました。すごい情報量だったので箇条書きで以下、聴き起こし訳を置いておきます。


・『SHŌGUN 』での仕事は「ドラマシリーズ10話」というより「映画10本分」のボリュームだった

・衣装部は総勢125名ほどのチーム。撮影が行われたバンクーバー在住のスタッフが大半。バンクーバーには大きな日系/日本人コミュニティーがあり彼らの知識にも助けられた。アシスタントのひとりも日本人(ケンイチ・タナカ、半年で全具足のデザインをしなければならなかった時にリサーチを担当してくれた)で、一緒に働いた面々も日本にルーツがある人多数

・準備期間は5カ月。リサーチ段階では美術館や博物館の所蔵品を調べたり関連書籍を何冊も購入。生地の紋様の意味も学んだ。当時の日本の服飾における「言語」を知るためにもリサーチは重要だった

・初期によく相談をもちかけた相手は日文研副所長の歴史監修フレデリック・クレインス教授。知りたいことがあると何でも聞いていた。資料としたのは過去の日本の時代劇ではなく、戦国時代の日本の絵画。監督の目を通したフィルターに影響を受けるのを避けたかった、とのこと。そういえば落葉の方の初登場時の打掛は16世紀の日本の絵画から描き起こしたという話も別インタビューで聞いた覚えが

・デザインは歴史面での正確性と、衣裳を通して語られるべきキャラクターの内面的なストーリーとのバランスをとりつつ行なった。番組のハートともいうべき鞠子は感情面、心理面でのストーリーテリングを最も重視したキャラクター。他のキャラクターはより史実寄りだったりとそれぞれに違うバランスを割り当てられているが、ジェームズ・クラベルの原作にも歴史的に正しくない部分があるため、そこに遊びを入れる余地が生まれたのは幸いだった。作中の戦国時代末期は江戸時代との端境期にあたるため、時代的な遊びの余地もある

・日本の貸衣装を利用するという手もあったが、イメージに合わなかったので全衣装をいちから作るべきと主張。独自の世界観を作るためカラーパレットを重視していたとのこと

・非常に高価だけれど「世界のどこにもない独自性」ある日本の生地を使わなければ番組が成り立たないとスタジオを説得、追加予算ゲット。準備期間中は毎週1、2回プロデューサーたちと打ち合わせの場をもち、毎回プレゼンを行なってキャラクターごとのコンセプトや衣装のプランを説明していたという

・日本の生地を無駄にできないため、落葉の方の追加衣装が必要になった時は急遽端切れで扇型のパッチワークをつくり、打掛に仕立てた。大坂城の一番の権力者である彼女がメインキャラ全員の衣装の端切れを集めた衣装を着るのは面白いアイデアだと思ったそう。鞠子の打掛にも端切れの裏地を活用したものがあり、どちらも今後のエピソードに登場予定

・『Shogun』の衣装を各地で展示するツアーの可能性についても言及が。「まだごく初期段階だがそういう話もある」

・鞠子や藤、菊の衣装の中には、とても複製できないような作りだったため例外的にレンタルしたものもある(とはいえ98%ほどは新たに仕立てたらしい)。とくに茶屋のシーンで菊が着用する衣裳は、訪れる客に夢を見せる場所のファンタジー性を象徴するにはピッタリで、カルロスが一目惚れしたもの

・撮影期間は2021年9月末から2022年夏まで。雨が多く寒いロケ。レイヤーの多い衣装を着込んでいたキャストのひとりは「おかげで上に分厚いコートを着なくても暖かい」とも言っていたとか

・他部署でコラボレーションの機会が最多だったのはプロップマスター(小道具統括)のディーン・アイラートソン。彼との連携を密にしたことでキャラクターに生き生きした魅力が出た。細部へのこだわりがキャラクターに現実味と奥行きをもたらすので小道具部門とはいつも緊密に協力している

・ヘアデザイナーのサナ・セッパネンはキャラクターの髪紐に打掛の生地を必要としていたので、彼女の分はキープしておくようにしていた。打掛と髪紐は常におそろい

・真田広之が制作初期に招聘した日本からの指導役について「長年日本でヒロの衣裳を担当していたコガさんという方」がいたという証言あり。東映京都撮影所衣裳部の古賀博隆氏のこと!? 

・さらに長年ハリウッドで活躍する衣装デザイナー&着付け師、押元未子も指導役として数週間参加。人脈フル活用だ…

・原作で虎長側は「茶色の軍勢」、石堂側は「灰色の軍勢」」という描写があったので、ふたりのイメージカラーはそれに従って決まった

・メインキャラクターにはそれぞれカラーパレットの他イメージ属性も考えており、石堂の場合は「火と土」。差し色にオレンジがあるのはそのため

・虎永の場合も、茶色に特別感を加える色として銅や金をイメージカラーにした。帯や紐で差し色に使ったのはバーガンディ。ゴージャスさや裕福さ、人々の頂点に立つ者にふさわしい色合いを考えたとのこと

・樫木薮重の陣羽織に使った羽根はワタリガラス(別インタビューでは「swan」とも。このインタビューでははっきり「raven」と言っています)。自分のルールで行動する薮重には他の武将と一味違う雰囲気を出した。一応虎永陣営に身を置いている樫木家が茶系ではなく緑系の色合いを使っているのは独自色を出すためで、鎧にも樹皮のテクスチャをもたせて背景の自然とマッチさせた。オーガニックな雰囲気を演出したのは、江戸期(たぶん元禄期のイメージ)になると服飾が豪華絢爛なデザインに変わるため。戦国時代末期が時代の端境期にあたることを意識した

・ロドリゲスはヨーロッパ人らしい服装をしているが、「長年日本で暮らしている雰囲気をそれとなく出すため」ブラウス代わりに小袖を着せてみた

・オランダ船の海賊たちの衣装はレンブラントの絵画から着想を得た、色調抑えめでざらつき感がありダークな色合い。長いこと船内で暮らしていたキャラたちなので作りもシンプルに、くたびれ感を出すためにテキスタイルアーティストたちが汚しを頑張ってくれた。本当に絵画のような仕上がりになった