そらこ

何回か同人イベントに参加しているだけの一般人です。小説とか犬とか日記とかを書こうとおも…

そらこ

何回か同人イベントに参加しているだけの一般人です。小説とか犬とか日記とかを書こうとおもっています。だいたいずっと何かから逃げてる。 BOOTHhttps://sososorako15.booth.pm/items/4328534 奇跡的になにかご依頼あればお待ちしています。

最近の記事

【短編小説】翼をくれよ

ピアノの旋律が美しくはじまりを奏でる。 興味がなくて半開きのままの目をなんとか閉じないように気をつけながら、口を開く。 「今私の願い事が叶うならば、翼が欲しい…」 歌に乗せると無くなる違和感は、文字で考えると、やけにわがままに、俺には映る。 この歌がどんな風に作られたのかなんて知らない。だからこんな風に残酷に思えるのかもしれないけど、だからって誰かに責められたとしてもそこには何の責任も伴わない、と思う。 この歌の主人公は、やけに利己的だなあとずっと考えていた。 富

    • 【短編小説】「無理しないでね」という言葉の難しさ

      「まあ、無理せず」 課長からそう肩を叩かれた。窓の外は真っ暗になってもうしばらく経つ。 とりあえず、ありがとうございます、と返事をしたけど、無理ってなんだよと口内で悪態をついた。 パワハラなんてされたことも無く、評判も良い課長なので、別に心から嫌がっているわけじゃない。課長自身もこの部署に赴任してきたばかりで、たまに自分の方が『先輩』とからかわれるくらいだった。そんなこと知らねえよ、という先方からの連絡にも誠実に返事をしている。すごいと素直に思う。 無理しないって、ど

      • 【短編小説】桜の降る昼は

        先週まであんなに満開だった桜は、もうかなり葉桜に変わってしまった。桜並木だった公園の一角は、夏に向かって準備しているように、太陽をさんさんと浴びていた。天気も良くて、正直暑い。桜の花びらの絨毯がそこかしこにあるけど、体が春と夏の間で困惑している。 声が聞こえたので目を向けると、花見をしそびれてしまった人たちが写真撮影をしている。かくいう自分も、そこに混ざりたいくらいだった。仕事が忙しくて、この公園にきたのは久しぶりだった。 あいにく、3才になったばかりの娘にスマホを奪われ

        • 【短編小説】ポニーテールを眺めるだけの夜があったっていいのに

          頭のてっぺんに近いあたりで髪を結んでいる、華奢な体が目に入った。ポッキーみたいな足がショートパンツから生えている。 体の線とは裏腹に快活そうに、少女は親らしき男性と喋りながらアイスを選んでいた。羨ましいとまでは思わなかったけど、選べば誰かが買ってくれるのってすごいことだよな、と改めて感じる。 少女はこっちの視線にも気が付かず、一瞥もされなかった。父親(多分)との距離が近く、仲の良さそうな雰囲気がまぶしい。 朝からフル稼働していた自分の体に、急に重力がのしかかってきた。ど

        【短編小説】翼をくれよ

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        • おしらせ
          5本
        • 日記
          5本

        記事

          【短編小説】知らない私を私は知らない

          1Kの間取りの部屋は、1人で暮らすぶんにはちょうどいい。孤独や不安を抱えている今の自分にはありがたい大きさだった。 明日は遅刻しないように、壁に着ていく服を、ハンガーにかけていた。本当は私服でいい会社だけど、入社式があるからスーツを用意している。その服をベッドの上で、三角座りして眺めている。 さっきまで、つい数週間前まで実家の自分の家で観ていた、推しているVtuberの投稿動画を眺めていた。そこまでは良かった。そしてその後、全く関係がないように思える、フリー素材を使った昔

          【短編小説】知らない私を私は知らない

          【短編小説】にじむ空

          センチメンタルが襲ってくるから年度末は嫌いだ。 好きな人だけが課から居なくなって、嫌いな人だけが課に残ってしまった日の帰路、寄り道したくて知らない道路をうろうろしている。 あと一週間後の四月の自分が想像できなくて嫌になる。 落とし穴でもあって、気がついたらその穴に落ちてくれたらいいのに。 そう思いながら、にじんだ空を仰いだ。 おわり

          【短編小説】にじむ空

          【日記】しっぽ

          犬のしっぽがたまに、ジョイントでくっつくパーツみたいに見える時があるよ。 そんだけ。 おわり

          【日記】しっぽ

          【日記】光と散歩する

          よる、犬の散歩にいくと、犬が黒いので光だけがぽーっと浮かぶ時がある。 そんな時わたしは、光と散歩してる気分になるのだった。 おわり

          【日記】光と散歩する

          【おしらせ】頒布物の紹介【文学フリマ広島6】

          2024/2/25(日)に開催される文学フリマ広島6に参加させて頂きます!F-3にいます 諸事情で12時頃には退散する予定です🙇‍♀️ 設営等については、X(旧Twitter)で更新予定です。 【頒布について】 ①小説「眠れない夜明け 眠らないあした」 ②ときめくジャンルしおりくじ ※くじとありますが、欲しいものがあればくじをせずご購入頂いても大丈夫です🙆‍♀️ 価格も以前より見直したので、もし以前購入いただいた方で、奇跡的にまた来ていただけることがあれば、ぜひ前に

          【おしらせ】頒布物の紹介【文学フリマ広島6】

          【日記】いぬのこと

          犬の散歩に行っていたら、同じ黒柴を飼っている人に遭遇した。 その人とは、よく夜に会う。 いつもどおり、犬たちのほうが先にたーっと近づいていく。飼い主たちが、ひっぱられてなんとなく挨拶する。私はこんばんはー、と聞こえるようにいうけど、その人はいつもあまり私へ挨拶せずに、うちの犬の名前をよぶ。 「a(うちのいぬ)ちゃんも服着てないねえ。うちの子も着ないんだよお」 と、相手の飼い主が言った。 冬になると、服を着て歩く犬が増える。他に柴犬を飼っている人はたくさんいて、なんと

          【日記】いぬのこと

          【短編小説】明日世界が終わるとしたら

          明日が世界の終わりだと思って生きてみよう、という広告を見たことがある。 そのくらい本気で生きようと言われても、そんなことしたら、会社爆発させてるよなあ。 世紀末が見える予感しかしない。 だから結局、明日もちゃんと続くと信じて生きた方が平和だ。おかげで今日も、仕事終わりのチューハイがうまい。 そう思いながら、今日も『酒場放浪記』を観る夜です。 おわり

          【短編小説】明日世界が終わるとしたら

          【短編小説】吐血

          口から血を吐いてぎょっとした。 左手で咳を受け止めて、何か違和感があった。痰だけかと思ってなんとなく手のひらを眺めたら、想像してなかった色があったのでええ、と思わず叫んでしまった。 サイズにしてみれば驚くほど小さいが、赤い点のようなものが、手のひらについていた。 その瞬間に、いろんな走馬灯まがいの映像が脳裏に現れる。 結婚もせず、親に小言を言われてもフラフラとかわして、友達ともゆっくりと疎遠になった。 今はもう有り難いことに、1人で生きていける。 その代わりこんな時、底

          【短編小説】吐血

          【短編小説】何が悪い

          「なんかそれ、大丈夫?疲れてるの?」 嘲笑を含んだような顔をされている、と思った。自意識なのかもしれないと心の中で自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、足がすくんでいくような感覚に陥る。 そうかな、と返すのがやっとだった。合っていた目を逸らす。逸らしていると思われないように、ちょっと視線を外しただけを装って、相手の、エプロンの上に安全ピンでついている名札のあたりをぼんやり眺めるふりをした。 加藤と印刷された名札は、もうかなりかすれていた。 パイプ椅子に座っていて良かった

          【短編小説】何が悪い

          【日記】自分のために傘を差す

          ある日、5〜6人で屋外にいると、急に雨が降ってきた。 その時傘をカバンに入れていたのは私だけで、何人かは車から取ってきますねと席(外なので席も何もないが)を外した。その間に私は、母から貰ったはずの折りたたみ傘を取り出した。 一応一番年下のような、後輩のような気がしていたので、なんとなくこの中で一番上の人の頭の上に傘を持っていく。 「ああ、いいよ気にしないで」 そう言って遠慮された。いやいやどうぞ、などとやりとりしている間に、車から傘を持ってきた人が帰ってきた。2本しか

          【日記】自分のために傘を差す

          【短編小説】キャビネットの奥

          事務室のキャビネットからファイルを出したら、知らないメモが、自我を持ったようにぽろっと出てきた。 『田中さん チェックお願いします 長崎』 丸い字で丁寧に、メモにピッタリ当てはまるように書かれていた。 書いた人も、宛てられた人も知らない。 ここに入社して3年目の自分は、いま働いている人たちの中で1番下っ端だ。 人数の多い会社では無い。なかなか顔が覚えられない自分でも、さすがになんという名前の人がいるかは把握している。 だからまあ、昔いた人なんだろうと思った。 誰

          【短編小説】キャビネットの奥

          【短編小説】まぶしい

          「行こう!」 大きな口を開けて、玲那が笑った。 昔、「くちさけおんな」とひどい悪口を言われて泣いていた玲那の面影は、もうどこにもない。 お互い就職してからしばらく会えてなかった。今日は久しぶりに、二人で学生時代よく行っていた食堂に向かっているところだった。 お店の目の前に来てやっと、今日が休みだという張り紙を発見する。 「どうしようかね」 そう言って私がさきに、周辺のお店を検索してみる。 学生時代によく来ていた場所とはいえ、この食堂以外は、大学構内で過ごしていた

          【短編小説】まぶしい