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「ふわふわ、ではありません、フワワフワーフです。」最終話(第11話 おかあさんの話)

、のつぎに、、が二つで、、で、ワーフ。フワワフワーフです」

空を飛べるふしぎな生き物 「フワワフワーフ」(ワーフ)
顔やからだをひっこめられたり、手のひらサイズになったり…

ちょっとヘンな生き物ですが、いつも一所懸命であわてんぼうのワーフが巻き起こす、たのしい物語です。

(あらすじと、第1話 「図工室のおばけ」はこちらです)

(第2話「ワーフ、学校へ行く」はこちらです)

(第3話「ワーフ、ショッピングモールへ行く」はこちらです)

(第4話「ワーフ、宅配便をはこぶ」はこちらです)

(第5話「ワーフ、プールへいく」はこちらです)

(第6話「はじめての旅行」はこちらです)

(第7話「クリスマスの夜」はこちらです)

(第8話「いなくなった、ワーフ」はこちらです)

(第9話「パンのにおい」はこちらです)

(第10話「フワワフ村」はこちらです)

11.おかあさんの話


二人は、ワーフのパン屋さんに戻ってきました。朝は混んでいて、窓の外からチラリとのぞいただけだったので、イトは初めて中に入りました。

中は、イトが想像していたパン屋さんとは、かなり違っていて、棚に並べられたパンをトングで取っていく、という売り方では無いようでした。
パン工場にあった、真鍮しんちゅうの、らせん状の滑り台がついた機械を小さくしたようなものが、正面のところにありました。
そして機械には、たくさんのレバーが並んでいて、その横には、イトの分からない文字で書かれたプレートがついていました。

「イト、このレバーをおろしてみて!」

「これ?」

イトは目の前のレバーをつかんで、下に降ろしました。


ガチャン!!


という機械の音が聞こえてしばらく待っていると、すべり台から、にぎやかで楽しげな音をたてて、パンがすべってくるのが見えました。

そして徐々にスピードを上げ、下までくるとポン、と飛び出して、手前のベルトコンベアーのような場所に落ちました。
そこから横に流れていくと、用意されていた紙袋の中に、そのまま入る仕組みになっているのでした。
ワーフの毛皮をしまえる、紙ぶくろポシェットは、おうちがパン屋さんだったからだったんだ!と、イトは気付きました。

「あら、イトちゃん、ワーフ、お帰りなさい!今日のパンは売り切れちゃったけど、イトちゃんの分はちゃんと、とっておいたからね!他のレバーも下げてみたらいいわ」

ワーフのお母さんがカウンターから出てきて、言いました。

「わあ!ありがとうございます!」

イトは順番にレバーを下げていきました。
ガチャン、ガチャンという音は大きかったのですが、不思議と心地よい音に感じられ、クルクル回りながらパンが落ちてくるのが面白くて、イトは夢中になってしまいました。

大きな紙袋いっぱいに、クロワッサン、カレーパン、チョココロネ、コッペパン、ドーナッツ…など、たくさんのパンが詰め込まれました。

「さあ、これ全部あげるから、おみやげに持っていきなさいね」

「ありがとうございます!あの、でも…」

「どうしたの?」

「ひとりでこんなに、食べきれません」

「ああ、それなら…」

そのとき、ワーフのお父さんも、店の奥から出てきました。

「ああ、お帰り!もうすぐここを片付け終わるから、一緒に帰ろう」

「はい、でも…」

「あっ、イトちゃんは、おなかすいたかな?一日、村を散歩してたなら、きっとペコペコだな!あ、もしかしたら、ポットさんのお店でお菓子を食べたかな?あそこのお菓子はおいしいからなあ、ついつい食べ過ぎちゃうんだよな。お、そうか、だからランチは食べなかったんだね」

「はい、すごく美味しくて…」

「ポットさんのお菓子と、ウチのパンは最高だからなあ。イトちゃんのお父さんもお母さんも、きっと気に入ると思うよ」

「あのでも、私、どうやって帰ったらいいか…」

「どのパンが一番すきかな?イトちゃんはきっと、ドーナツかな?いや、もしかしたら、シンプルにクロワッサンか…」

「ほらほら、お父さん!!まーた、ひとの話をぜんぜん聞かないんだから…!!」

お母さんが言いました。

「イトちゃん、パンはおうちの方へのおみやげだから、たくさんあっても大丈夫よ」

「でも私、どうやって帰ったら…」

「あっ!そうね!そうだわ、私ったら、全くもう!気が回らなくて、ごめんなさいね!夜ごはんは、みんなで頂きましょう」

「みんなで?」

「そうよ、ワーフがとってもお世話になったんだもの。イトちゃんのお父さんとお母さんにも、ごあいさつしたいと思っていたのよ。やっとできるわ!」

そのとき、ワーフが言いました。

「だって、どうやってよぶの?」

「あら、そういえばワーフは知らなかったわね…あら、もうこんな時間!とりあえず家に帰ってから、ゆっくり説明するわね」


お店の後片付けをしたあと、皆は家に戻ってきました。

晩ごはんのシチューをお父さんが作っている間に、お母さんが二人に説明してくれました。

「イトちゃんは、自分でこちらの世界に来れたのよね」

「はい」

「どうして来れたのか、わかった?」

「えーと…」

イトは、一所懸命思い出そうとしました。机に座っていたこと、貯金箱を眺めていたこと、ワーフからもらった、ワーフの毛皮のキーホルダーを持ってたこと、あとは…

「ワーフが気に入ってた、私が描いた絵を見てたような気が…」

「そうよ、それで、条件がそろったのね」

「条件?」

「そう。ワーフがあげた、心のこもったプレゼントと、イトちゃんが描いた、こちらの世界の絵よ」

「えっ?!ワーフの世界の絵じゃないです!だって、私が小さい時に描いたものだし…」

「いいえ、その絵は、イトちゃんがそのとき夢に見た、こちらの世界の、この家の絵だったはずよ」

「夢なんて、覚えてないけど…。でも、なんで見たことないのに、夢にでてきて、しかも私、絵に描いたのかな…」

「それは私にも分からないんだけど、こちらの世界には、よくあることなの。子供のときに突然いなくなって、そのあとに、こちらの家が描かれた絵が現れるのよ。そうしたらその子は、どこか違う世界に留学しに行った、ということになるの」

「えっ!突然いなくなっちゃうなんて…みんな、心配しないんですか?」

イトはびっくりして言いました。

「もちろん心配になるけど、必ずまた会えることを知ってるし、しかもとても成長して帰ってくるから…」

「でもワーフは、自分がどこから来たのか、覚えてませんでした。二度と帰れないってことはないんですか?」

「それは大丈夫よ。でも、留学した世界では、こちらの世界の記憶はほとんどなくなるの。どうしてか分からないけれど…。新しい世界になじむためかもしれないわね。
しばらくしてから、こちらの世界が描かれた絵が、またいつのまにか消えてしまうの。そうするとその子供は、近いうちに帰ってくるのよ」

「じゃあ、あのえが あれば、イトのせかいと、いったりきたり、できるってことなの?」

ワーフが聞くと、お母さんが言いました。

「ワーフが、こちらに帰ってきてから描いた絵、あるでしょ?」

「うん。ボクのへやにはってあるよ。でも、イトが かいたえじゃ ないけど…」

「それでいいのよ。それから、ワーフは、イトちゃんの家族にそれぞれ、自分の毛皮で作ったキーホルダーをあげたのよね?」

「うん!クリスマスプレゼントにね!それぞれ、リボンの いろを、かえたんだよ」

「思いのこもったもの…そのキーホルダーね。それと、絵と、それから、お互いに会いたいっていう気持ちがそろえば、世界がつながるのよ」

「じゃあそれがあれば、これからは、好きなときにワーフに会いに来れるってことですか?」

「ええそうよ。一度つながってしまえば大丈夫。いつでも会いに来てね」

「やったーっ!」


ワーフがとびあがって、くるんと一回転しました。イトも、思いがけない答えに大喜びでした。

「さあ、さっそくお父さんとお母さんを呼んできて、一緒に晩ごはんにしましょう」

イトとワーフは、二階のワーフの部屋に、飛んでいきました。そして、ワーフが描いた、イトの家族の絵の前に立ちました。

「でも、どうやって帰るんだろう…?」

イトが言いました。

「よくわかんないけど…ボク、とびこんでみる!」

「えっ?!ワーフ大丈夫?」

「だいじょうぶだよ!」

言うなり、ワーフは、絵に向かって飛び込みました。

…ドシン!!


「イタッ!」

「ワーフ、大丈夫?!」

「…うーん、うん、だいじょぶ…」

「もう、ワーフったら、あわてすぎだよ。きっと何かほかにも、しなきゃいけないことがありそう…」

「んー…どうすればいいのかなあ」

二人は考え込みました。

「ねえワーフ、さっき、おかあさん、なんて言ってたっけ?」

イトが言いました。

「えっと、なんだっけ?あ、おうちの え と、たしか…あいたいって、おもうこと…」

「あとは、えーと…心のこもった、プレゼント…あっ!ワーフのキーホルダー!
でも、私がワーフの世界に行くときに持ってたものだから、違うかなあ」

「そっか…」

「うーん……」

イトは部屋の中を見まわしました。

「あっ!」 

イトが叫びました。

「もしかしたら、ママがワーフに作ってあげた帽子じゃない?」

「ああ!あのクリスマスプレゼントの!」

ワーフはサッと飛び上がると、壁のフックにかかっていた、青色の三角帽子を持ってきました。

「イト、いこう!」

「えっ、もう?!わっ、わわわ…!」

あわてん坊のワーフは、帽子をかぶると、イトの手をさっと取って、壁の絵に向かって飛び込みました。

イトは、ぶつかる!と思って目をつぶりました。けれど、ぶつかると思った頭は大丈夫で、衝撃はおしりに走りました。


ドシーン!!!


「いたっ!」


イトがしりもちをついたところは、イトの部屋の床でした。
大きな物音を聞きつけたイトのママが、あわててドアを開けました。

「あらっ?!イト、なんでいるの?!どうしたの?大丈夫?!………あっ!!ワーフ!!!

すぐとなりに浮かんでいたワーフは、イトのママの腕に飛び込みました。

「ママ!ママ!!ぼく、またこれたよ!」

「ワーフ!!急にいなくなっちゃったから…」

ママは、ワーフを抱きしめました。

「ママ?イト?どうした?」

パパも部屋に入ってきて、ワーフを見て驚きました。

「パパ!!ただいま!!」

パパもママもワーフも、嬉しくて泣いていました。

しばらくして落ち着いたとき、

「パパ、ママ、私まで急にいなくなってごめんね、心配したと思うんだけど…」

と、イトが言いました。するとママが、

「えっ?お友達と遊びに行ったんだと思ってたわ。朝早く、パパが送ってったのよね?」

「え?そんなことしてないよ。…え?」

「だって、このメモ…私が起きたら、枕元にあって…」

イトがいつも使っているメモ用紙に、イトの字で、お友達と遊びに行くことや、パパに送ってもらうことなどが書かれていました。

「え…?!私、こんなの、書いてないけど…」

不思議でしたが、とにかくこのメモのおかげで、パパやママに心配をかけずにすんだのでした。

イトは、ワーフの世界に行ったこと、そこであったことを簡単に説明しました。そして、

「今から晩ごはんを一緒に食べようって、ワーフのお母さんが言ってるよ!」

と言って、パパとママを驚かせました。

「…だって、どうやって行くの?」

ママが言いました。

「かんたんだよ!ほら、クリスマスのときに、みんなにあげた、ボクのケガワのキーホルダー、もってきて!」

みんなでイトの描いた絵の前にならび、パパとママとイトは、ワーフがくれたキーホルダーを握って…
目の前がゆれ、頭からぐいっと引っ張られるような感覚がしたと思ったら、もうそこは、ワーフの家の前でした。

展開の早さに、パパが驚きのあまり言葉もないのにくらべ、ママは、

「すごい!」
「かわいい家!ヨーロッパみたいねえ」
「うわあ、あちこち探検したい…!」

などつぶやきながら、きょろきょろしていました。

そこへ、ワーフのお母さんが飛び出して来ました。

「まあ!ようこそいらっしゃいました!ワーフが大変お世話になって…!あなた方が家族になって下さらなかったら、ワーフはどうなっていたことか…ワーフの母のフワワフワーネです!」

「よくおいでになりました!私はワーフの父、フワワフワークです。
うちはパン屋なんで、自慢のパンをいつか食べて頂きたいと思ってたんですよ!ほら、もうテーブルに用意してありますよ!クロワッサンもおすすめですが、ドーナツも…いや、でもバケットも食事に合いますし…
あ!近所にはおいしいお菓子やさんもあるんですよ!今日はもう遅いから、村の中を案内できないのが残念だなあ。あ、そうそうそれから…」

「お父さんっ!!もう、お客様が困ってらっしゃるでしょ?早く中にご案内して…」

ワーフのお母さんが言いました。

「ああ、そうだった!!いけない!悪いくせが出てしまって…すみません。おしゃべりがついつい、止まらなくなってしまうんですよ。どのくらい止まらないかって言ったら…」

「だから!!お父さんったら!ほんとにすみません…ささ、中にお入りくださいな」


その晩は、ワーフのお父さんに負けないくらい、みんなのおしゃべりも止まらなくて、あっという間に過ぎてしまいました。

そろそろ帰る時間になったとき、ワーフのお父さんが言いました。

「あの、お願いがあるのですけど…」

「はい、何でしょう?」

パパが言いました。

「ワーフ、まだまだそちらで学ぶことが、たくさんあると思うんです。またしばらく、そちらで過ごさせてもらうわけには、いかないでしょうか?
あ!もちろん、ご迷惑だったら、断ってくれて良いんですよ!でも、こうやって直接頼んじゃったら、なかなか断りづらいかなぁ…あ、でももちろん、遠慮はなさらずに…」

「お父さんったら!またひとりでしゃべり続けて…すみません!」

ワーフのお母さんが言いました。

「いえいえ、そんな、謝らないで下さい。それより…なんて言いました?」

「えーと、ワーフが…」

「ねえ!ワーフがまたうちに来てくれるってことでしょ?!

イトが叫びました。

「もちろん、夏野さんが良ければの話で…」

「良いに決まってるじゃない、ねえ!お父さん!」

ママが言いました。

「もちろん、こちらは大歓迎です!みんな、ワーフ君が大好きなんです」

パパが言うと、それまで目を見開いて聞いていたワーフが叫びました。

「ボク、またイトのおうちに、すめるんだね!!ほんと?ほんとにいいの?」

「もちろん、いいんだよ。大歓迎だ」

パパが言いました。

「やったあー!!」

イトも一緒に、天井まで浮かび上がって、くるくる回って喜びました。

いつから行くか決まったら連絡しますね、と言うワークさんたちに手をふり、イトたちはワーフの部屋から帰ってきました。


「ワーフ、元気そうで良かったな。でも、不思議なことが起こりすぎて、頭がパンクしそうだ。空中に浮かべるって、あんなに楽しいものだったとはなぁ」

パパが言いました。
ワーフの家には、二階に上がる階段がないので、パパとママも飛んだのですが、特にママは嬉しそうに何度も行ったり来たりしていました。

「ほんと!子供の頃からの夢だったの…!ああ、次は外を飛んでみたいわ!…でも今度は、うちにみんなで来てもらおうね。イト、ワークさんに、パンの作り方、教えてもらうんでしょ?」

「めちゃくちゃ楽しみ!」

「あら?これ?」

リビングのテーブルの上に、大きなバスケットが置いてありました。上に掛けられた布を取ると、たくさんのパンが現れました。

「そういえば、お土産にパンをくれるって言ってたから、きっと届けてくれたのね」

ママが言いました。

「ワーフのお父さん、あわてんぼうだから、忘れちゃったんだね!ワーフにそっくり」

イトはバスケットに顔を近付けました。

「いいにおい!ほら、こんなにたくさんある!明日の朝ごはん、楽しみ!」

リビングには、パンの良いにおいがただよいました。

ママが一つずつ、テーブルの上に置いていきました。

「クロワッサンでしょ、これはチョココロネ、フランスパンにコッペパン、ミルクパンかな?ベーコンと卵のパンにドーナッツ、それから…」

テーブルの上にパンの山ができました。
そしてママが最後に取り出したのは、フワフワしていて、真珠色に輝く毛皮の……

「ワーフ!!!!!」


「あっ!ボク…あれ?ここ、イトのいえだー。ボク、またねちゃったみたい…」

「すぐに帰らないと、お父さんとお母さん、心配するわよ!」

ママが言いました。

「ううん、だいじょうぶだよ!だってボク、まちきれなくて、きょうから  いきたいって、いったの。ほらこれ、おとうさんからの、てがみだよ!」

手紙は、ワーフの世界の言葉で書かれていました。

「向こうの世界の字かぁ。読めないなぁ…あれ?!」

パパが手紙を開いたとたん、ぼんやりと字が消えて、こちらの世界の言葉に、変換されたようでした。

手紙には、またしばらくワーフがお世話になること、いつでも遊びに来てほしいことなどが、書かれていました。

「やったー!!ワーフ、また一緒に学校行こうね」

「うん!たのしみ!」

ワーフが帰ってきて、夏野家はまたにぎやかになりました。



今日もフワワフワーフは、イトの家にいます。

ちょうど今、お気に入りのトートバッグにもぐりこんだところです。
キッチンからは、ママが夕ごはんを作る、ガチャガチャというにぎやかな音が聞こえていました。

カーテンの隙間からは夕日が差し込んで、ワーフの真珠色の毛皮をやさしく照らしていました。

                              (おわり)


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