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「ふわふわ、ではありません、フワワフワーフです。」(第4話 ワーフ、宅配便をはこぶ)

、のつぎに、、が二つで、、で、ワーフフワワフワーフです」

空を飛べるふしぎな生き物 「フワワフワーフ」(ワーフ)
顔や胴体をひっこめられたり、手のひらサイズになったり…

ちょっとヘンな生き物ですが、いつも一所懸命であわてんぼうのワーフが巻き起こす、たのしい物語です。 

(あらすじと、第1章「図工室のおばけ」はこちらです)

(第2章「ワーフ、学校へ行く」はこちらです)

(第3章「ワーフ、ショッピングモールへ行く」はこちらです)


4 ワーフ、宅配便をはこぶ


ワーフがイトの家に来てから、二ヶ月ほどが経ちました。
ワーフはイトと一緒に毎日学校に行き、授業を受けたり、みんなと遊んだりしていました。
その間にも図工室にも何度か入らせてもらったのですが、ワーフがどこから来たのか、手がかりはみつかりませんでした。

ただ一度だけ、こんなことがありました。学校の教材室に入ったときのことです。
教材室は、各階にある小さな部屋で、先生と一緒でないと入ってはいけないことになっていました。イトとワーフは、大仏先生と、クラスで飼うことになった金魚のための水槽をとりに行きました。

中は狭く、棚に色々なものが置かれていました。
算数の教材用の、手で針を動かす大きな時計。たくさんの水槽や虫カゴ、習字の道具。図鑑や百人一首。

「コレ、なんですか?」

ワーフが、棚においてあったカゴを指差して言いました。
大きなカゴがいくつか並んでおり、コマやけん玉、羽子板などがおいてあるところに、それはありました。

「ああ、それはビー玉っていうのよ。昔遊びの体験授業のときに使うのよ」

大仏先生が答えました。

そのビー玉は、よくある真ん中に細いすじのような模様の入ったものとはちょっと違いました。中がひび割れて光を乱反射し、色とりどりでキラキラして、とてもきれいにみえました。

「すっごくキレイですね!ボクのすんでたとこのちかくにも、これみたいにキレイなの、たくさんおちてたなあ」

「えっ?うちの近くにこんなの落ちてないけど…。あっ!ワーフの家??思い出したの?」

イトはびっくりして聞きました。

「え?スンデタトコ…あ、すんでたとこ!…ボク、なんか、きゅうにおもいついて、いったんだけど…。そういえば、なんでそんなこと、いったんだろう?」

ワーフにもよくわからないようでした。

「ボク、キラキラしたとこに、すんでたのかなあ…」

ワーフは考え込んでしまいました。


「ちょっとー!聞いてよ!またあの人来たのよ!」

ママがパパに言っているのが聞こえました。イトはお風呂から出て、ワーフとテレビをみている時間でした。

「あの人って、下の階の、えーと、何だったっけ?ハタケ…?」

茶畑ちゃばたけさんよ」

「ああ、あのおばさん」

「そうそう。あのひと、ほんと図々しいというか…」

「こんどは何言われたの?」

「お昼過ぎに来てね、そしたら足を押さえてて『すみませーん、足が痛くて痛くて…悪いけど病院つれてってくださる?』って言うから、なんだか怪しいと思いながら、車だしてあげたんだけど、やーっぱり仮病だったみたいで…」

「何でわかったの?」

パパが聞きました。

「だって、銀行とかあちこち用事を済ませてから、たまたますれ違ったんだけどね。野菜とかたくさん買った袋を抱えて、駅前をスタスタ歩いてたのよ!」

「ママ、声かけたの?」

イトが聞きました。

「それがね、声かけちゃったのよー。かけなきゃ良かったわよ」

「なんで?」

「あら、もう治ったんですか?良かったですねーって、わざと明るく声かけたら、急に『イタタタタ…』 って足を押さえて、『マンションまで乗せて下さるー?』って…」

「また、イタくなっちゃったの?」

ワーフが聞きました。

「ぜーったい違うわ。だってさっきと反対の足、押さえてたもん。ちょうど帰るところだったから乗せてあげたけど、素直に乗せて、って言ってもらったほうがよっぽど良いのに…」

茶畑さんはイトの達の部屋の下の階の、五十代くらいの独り暮らしのおばさんでした。
白髪まじりのおかっぱ頭で、猫背で前につんのめるようなかっこうで、いつも近所をせかせか歩き回っていました。ひとのうわさ話や悪口が大好きで、なにか面白い、得する話はないかと、常にかぎまわっているのでした。


ある朝、イトが学校に行くために玄関を出ると、茶畑さんにばったり会ってしまいました。茶畑さんは下の階なので、上に来る用事はあまりないはずなのですが、なぜかよく遭遇しました。

「あらあ、イトちゃんおはよう!」

「…おはようございます」

「まあ、これなあに?」

茶畑さんは、イトのトートバックに入ったワーフを見つけて、言いました。

「あ、これは…」

「こんな時期にマフラー?きれいねえ!ちょっとさわらせてくれる?」

「あ、え、いえ、ちょっと…」

イトは慌ててトートバックの口を押さえました。茶畑さんの手が、もう少しでワーフの毛皮をつかみそうでしたが、ちょっとのところで間に合いました。

「あの遅刻するんで…」

イトは慌てて走り出しました。ワーフがぐっすり寝ていたのは幸いでした。でないと茶畑さんに返事をしてしまわないとも限りません。

「あらあ!そう?引き留めちゃって、ごめんなさいねー。行ってらっしゃーい!」

かん高い声で叫ぶ声が、後ろから聞こえました。


しかし茶畑さんはついに、どこから耳に入ったのか
『白い毛皮の雪だるまみたいな生き物が、夏野家にいる』
という情報を手に入れました。

そんな面白そうなもの、好奇心旺盛な茶畑さんは、当然見てみたくてたまりません。

「きっとあのとき、手提げの中に入っていたのが、例のそれね。どうやったら見られるかしらねえ…」



そして数日後、ついにチャンスがやってきました。

ワーフは、夕焼けの空が好きで、晴れた日は必ずベランダに出て、眺めることにしていました。少しずつ暗くなり、雲がオレンジや紫に染まっていくところは、何度眺めても飽きませんでした。
自分の半透明の白い毛皮に、辺りの色がほのかに写り、それがそよいで波打つのを見るのも好きでした。

下の階の茶畑さんの家にも、同じ位置にベランダがあります。
ワーフは飛べるので、ベランダの手すりに腰掛けたり、時々浮かんだりして見ていたので、茶畑さんが少し身をのりだしたら、ワーフが少し見えたのでした。

「あ!あの生き物、ついに見つけた!あら、よく見えないわねえ…」

茶畑さんは、あれこれ思案をめぐらせ、何か思い浮かんだようでした。

「う、ううん!」

茶畑さんは咳払いをしました。

ワーフはキョロキョロしました。

「う、うううん!」


「…だれか、いるんですか?」

ワーフがしゃべったので、茶畑さんはびっくりしました。ますます面白いじゃないの!と、目を輝かせ、大喜びで声をかけました。

「ちょっとアンタ、飛べるんならこっちにおいでよ」

「え、どこですか?」

ワーフはどこから声が聞こえたのか、わからないようでした。

「ここよ、下、下!」

「ああ、そこですね!こんにちはー!」

「はやく、こっち!」

「でもボク、かってにいったら、いけないとおもうんで、ママにきいてきまーす!」

「あらいやだ、大丈夫だからこっちおいで!ほら、お菓子あげるから!」

「でも…」

そのとき、ママの声が聞こえました。

「ワーフ!ご飯できたわよー!」

「ハーイ!じゃあボク、しつれいします」

ワーフはお腹がペコペコだったので、さっさと部屋に戻り、茶畑さんのことは忘れてしまいました。

「もう少しだったのに!…まあ、いいさ。また作戦を考えよう」

茶畑さんは、今日のところはあきらめたらしく、部屋に戻ると乱暴にガラス戸を閉めました。


それから数日間は、曇っていたり、雨だったりと、夕焼けは見えない日が続きました。けれども、茶畑さんの執念深さは折り紙つきで、狙った獲物は逃さないのでした。

その日は久々にきれいに晴れ上がり、夕焼けも一段と美しかったので、ワーフはベランダに出てきました。
そこへ、待ち構えていた茶畑さんが声をかけました。

「ちょっと、ちょっと、来ておくれ!」

「…ボク?」

「そうそう、アンタだよ」

「でもボク、かってにいくのは…」

ワーフがママに聞くために、部屋に戻ろうとしたときです。

「あっ!あらーっ!いたたたたたた!!」

「えっ!どうしたんですか?」

「腰が痛くて…動けないのよ!いーたたたたたた!」

「たいへんだ!ボク、うちのひと、よんできます!」

「あー!だめだめ、呼んでこなくていいから!ちょーっとだけこっち来て、起こしてくれるだけで良いから…あーもう!痛くて動けない…!」

ワーフは迷いました。けれども、これは緊急事態だ、と思ったので、急いで行ってあげることにしました。

「だいじょうぶですか?ほら、ボクのてに、つかまって!」

「助かったよ、よっこらしょ。…まあ、ほんとにアンタ、ヘンな生き物だねえ!こんなの見たことないよ。どれどれ」

茶畑さんは、ワーフの毛皮を、ごしごしなでまわしました。夏野家のベランダを見張りながら、醤油せんべいを食べていたので、ワーフの毛皮が少しべたつきました。

「ほんとふわふわだねえ!袋に詰めて、クッションにしたいくらいだよ。ところでアンタ、名前、なんていうの?」

「フワワフワーフです」

「あ?ふわふわ…?」

「フワワフワーフです。フ、のつぎに、ワ、がふたつで、それからフ、で、ワーフ、フワワフワーフです。」

「ふわー…ふわ」

「みんな、ワーフってよびます」

「あ、そう。ならそう早く言ってよ。ワーフさんとやら」

茶畑さんは、片手に持っていたせんべいのかけらを口に放り込むと、

「そうだ、お近づきの印に、これあげるから、ついでに洗濯物取り込むの、やってくれる?」

と言って、食べかけのせんべいの袋を、ガサガサとふりました。

「えっ、でもボク、はやく、もどらないと…」

「いーじゃないの、それくらい!アンタ、飛べるんだから簡単でしょ。あ、ほら、あいたたたた…腰がいたいわあ!」

茶畑さんは再び、ベランダにしゃがみこみました。
ワーフは、茶畑さんが気の毒になったので、洗濯物をとりこんであげました。

「それから、あとは…」

「ワーフ!…あれ、どこ?いないの?」

そのとき、ワーフを呼ぶ、イトの声が聞こえました。

「やっぱりボク、たすけをよんできます!」

「あー!いーの、いーの!呼ばなくて!」

「…ホントに、だいじょぶなんですか?」

「大丈夫、大丈夫」

「そうですか…じゃあ、おだいじに!」

ワーフは、急いで部屋に帰りました。



「ワーフったら、夕焼けも見ないで、どこ行ってたの?」

イトに聞かれたので、ワーフは一部始終を話しました。

「えーっ!!茶畑さん、ぜったいに仮病だよ!」

「ケビョウ?」

「そう、仮病。ほんとは腰なんか痛くないのよ」

「えっそうなの?」

「ぜったいそうよ!」

イトがママに話すと、ママはカンカンになって怒りました。

「ワーフが良い子なのをいいことに、ほんと油断もスキもないんだから!ワーフ、今度はだまされちゃだめよ」

「あっ、そういえば、おせんべいののこり、あげるっていってたけど、くれなかったな」

「残りって、食べかけじゃないの?!なにそれー!そんなのいらないわよ、もらわなくてよかったわ」

ママは怒りが収まらない様子でした。

「ワーフ、もしまた茶畑さんに呼ばれても、絶対に行っちゃだめよ。何やらされるか、分かったもんじゃないわ」

しかし、さけたいと思う人ほど、なぜか会ってしまうもので、それから一週間後の今日、なぜかワーフは、茶畑さんに頼まれた荷物を運んでいるのでした。


***


今日は日曜日でした。イトはママと美容院に行っていて留守でした。(ワーフの毛は、のびてボサボサになることはありませんでした)
パパはいたのですが、リビングのソファーに横になって、ぐっすり眠っていました。

ワーフも、トートバッグの中で眠っていたのですが、玄関からガタン、という音が聞こえた気がして、目を覚ましました。ふわふわ飛んで行ってドアののぞきあなをのぞいてみると、なぜかそこに茶畑さんがいたのでした。
ワーフは、玄関のドアを開けました。

「あらあ、ワーフくん、偶然ねえ!」

茶畑さんは上機嫌で、ワーフの毛皮をバシバシ叩きました。

「こ、こんにちは」

「ちょうどいいところにいたわね、ちょっとそこで待ってて!」

ちょうどいいところって…?と、ワーフは不思議に思いましたが、そう考えている間に、茶畑さんは小走りで自分の部屋に戻ると、小さな段ボールを持ってきました。

「これ、このあいだ通販で買ったんだけどさ、あ、サプリなんだけどね。なーんか効いてる気がしなくて、返品しようと思ってんのよ。でも、返品のときは送料かかるっていうでしょー」

「…ツーハン?」

「で、よく見たらこの会社、すぐ近くなのよー。それじゃーわざわざ配送料かけんのもバカらしいじゃない?ねえ、アンタもそう思うでしょ?」

「…プリ?」

「でもさ、このとおり、足は痛いし、腰は痛いし…。それにもともとアタシ、運転免許、持ってないし…」

「ソーリョ?」

「だからさあ、悪いんだけどアンタ、この会社まで行って、この荷物届けてきてくれない?ここんとこに住所、書いてあるからさあ。
アンタ、飛べるんだからすぐよねえ。ほんと悪いわねえ、助かるわあ。でも、確実に届けてよね。そうじゃないと商品の代金、もどってこないんだから。
あ、もちろんタダとは言わないわよ。ほら、これあげるから。ちゃんとアンタにお金払ったんだから、確実に届けてよね。じゃあ、よろしくねー」

茶畑さんはワーフの手のひらに、百円玉を握らせると、段ボールを押し付け、行ってしまいました。
ワーフは何がなんだかわからないうちに、荷物と百円を受け取ってしまいました。


「こまったなあ、ボク、どうしたらいいんだろう…」

リビングのテーブルに段ボールと百円玉を置くと、ワーフは考え込みました。
ワーフは「サプリ」も「ジューショ」も、なにもかもわかりませんでした。ただ、この荷物をもとの持ち主に返してほしいことと、それをしなければ、何かのお金が返ってこない、ということだけわかりました。
パパに、どうしたらいいか聞いてみようかとも思いましたが、気持ちよさそうに眠っているので、起こしたら悪いかな、と思いました。

「とにかく、いってみよう」

ワーフは荷物を持って、イトの部屋から外へ飛び出しました。


出発してみたものの、ワーフはどこに行ったらいいか、全くわかりませんでした。
荷物の段ボール箱は、ワーフの頭くらいの大きさがあったので持ちにくく、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ飛んでいると、すぐに腕が疲れてしまいました。

「あそこで、ちょっとやすもう」

ワーフは、四階建てのビルの屋上に降りました。そこでもう一度、段ボールを眺めてみました。
側面には大きく羽ばたいているハトの絵が描かれていて、その横に、

『奇跡のサプリ!ひざゲンキ』

と、派手なピンクの文字で書かれていました。

上には、送られてきたときの伝票が貼られたままになっていました。ワーフは、難しい漢字や言い回しさえなければ、文字は読めるので、茶畑さんの名前は、読み取ることができました。

「どうすればいいかなあ…」

ワーフは本来、誰かの役に立ちたいと思うような性格でしたが、今回の茶畑さんの頼まれごとは、引き受けなければ良かったなあ、と思い始めていました。
とはいっても、むりやり押しつけられてしまったので、どうにもならなかったのですが。

「そうだ、だれかに、きいてみよう」

ワーフは、ビルの上から荷物を持って降りていきました。
そこはちょうど駅前の広場でした。駅ビルやバスのロータリーがあるので、多くの人でにぎわっていました。

ワーフが、誰に聞いたらいいかな、と迷っていると、小さな女の子が、ワーフを指差して叫びました。

「ね、ね、ママ!ママってば!あれなに?」

「あれって?」

「ほら、あそこに飛んでるの!」

「えっ?…あらほんと、何かしら?」

他の人たちも、口々に言いました。

「なんだ、あれ?」

「ぬいぐるみ?」

「なんか持ってる!」

ワーフが着地すると、人だかりができてしまいました。

「あの…すみません。」

ワーフは声をかけたのですが、みんなになでられたり、もみくちゃにされてしまいました。

「あの、これ…どうやって…とどければ…」

ワーフの声はかき消されてしまいました。ワーフはこのままじゃ荷物がつぶされちゃう!と思い、慌てて浮かび上がりました。

歓声があがり、女の子は手を振りました。ワーフは女の子に手を振りかえし、集まった人達にむかってピョコンとおじぎをすると、荷物を抱えて飛び立ちました。


ワーフはとりあえず、あてずっぽうに飛んでみることにしました。
バス通りぞいに進んでいくと、男の子が一人、立っているのが見えました。

「あ!あれは…小机こづくえくんだ!」

小机くんは、イトのクラスの男の子でした。

「こーづーくーえーくーーん!」

ワーフは声をかけて、目の前に着地しました。

「お、ワーフじゃん!おれ、これからスイミングなんだ。ワーフは何してんの?それ何?」

「あのね、にもつ、とどけるようにって、たのまれちゃったから…でも、どうしていいのか、わからなくて…」

「どこに届けんの?」

「…わかんないの」

「えーっ、なんだよそれ。いいからちょっと見せてみな!」

小机君は、箱に貼られた伝票を見ながら言いました。

「あ、これは、『かーめのっ、かーさん、たあーくはっいっびん』だな」

小机くんは、『カメのかあさん宅配便』のCMで流れる節をつけながらいいました。

「かめのかーさん?」

「ほら、ここんとこに、カメのマークがついてるでしょ」

小机君は、伝票の端の方を指差しました。

「これが、運んでくれるんだよ」

「えっ?!カメのかーさんが?…でもそれじゃ、おそくないですか?だってカメだし…あ、でも、おかあさんだから、すこしはやいの?」

「わははは!本物のカメじゃないよ。このマークの車があるから、それに乗せて運んでくれるんだよ」

小机君がそう言ったとき、ちょうどスイミングスクールのバスが来ました。

「じゃ、またな!」

「ありがとう!」

ワーフは元気よく飛び立ちました。

「あのマークのくるまに、のせればいいんだ!」

ワーフはなんだか大きな勘違いをしたまま、バス通りをゆっくり飛んでいきました。すると、カメのマークのトラックは、すぐに見つかりました。

「ああ、あれだ!」

エプロンをしたカメのキャラクターが、でかでかと側面に描かれていたので、すぐにわかりました。トラックは配達中らしく、駐車していて、運転手は乗っていませんでした。
ワーフは、四角い荷台のコンテナの上に着地しました。

「ここにのせればいいんだな」

ワーフは真ん中あたりに、荷物をそっと置きました。

「これで、よし!」

ワーフは飛び立ちました。少し上空まで飛んでから、振り返ってみると、ちょうど運転手がトラックに乗り込んで、出発したところでした。

コンテナの真ん中にのせた茶畑さんの荷物が、ゆっくり遠ざかっていくところを見ながら、ワーフは嬉しくなりました。
お金も返ってくるし、茶畑さんは喜ぶに違いありません。
屋上や、トラックにすわったので、毛皮はすっかり灰色に汚れてしまいましたが、ワーフはとても満足でした。


「ワーフ、ワーフったら!一体どうしたの、こんなに汚れて…」

ワーフは、ママの声で目を覚ましました。

朝から大冒険だったワーフは、帰って来るなり、自分のトートバッグでぐっすり眠り込んでいたのでした。

「あ…おかえりなさい…」

「どこかに行ってたの?パパに聞いても、寝ていて知らないって言うし…」

「え…えっと…んーっと…ああ!そうだ!ぼく、にもつ、とどけてきたんだ!」

「荷物?なんの?」

そこでワーフは、みんなに今日の一部始終を話しました。

「えー!?」

「なにそれ?!」

「ずうずうしい…!」

みんな口々に言いました。けれども、話が最後の宅配便のトラックの上に荷物を置いてきたところになると、みんな黙ってしまいました。

「えーっと…ワーフ」

パパが言いにくそうに切り出しました。

「宅配便は、お店に頼まないといけないんだよ。トラックの上にのせても、届けちゃくれないんだ」

「ええーっ!じゃあ、あのにもつ、とどかないの?!どうしよう、ボク、しっぱいしちゃった…」

ワーフはがっかりして、美しい毛皮も少し、しぼんだように見えました。

「ワーフは全然悪くないわ!気にすることないわよ。だいたい茶畑さんがいけないんじゃない。ワーフを利用しようとするからよ」

そうは言いつつママは『カメのかあさん宅配便』に問い合わせてくれました。トラックのいた大体の時間と場所とを言って探してもらったのですが、今のところ荷物は見つからない、とのことでした。
落ち込むワーフを、イトはなぐさめました。

「ワーフのせいじゃないじゃないよ。無理やり頼まれたのに、一生懸命やったんだから」

「ボク、100えん、もらっちゃったし、かえしにいって、ちゃばたけさんに、あやまらなくっちゃ…」

「ワーフは悪くないのに、なんで謝らなくっちゃいけないの?」

イトは怒って言いましたが、ママが言いました。

「とにかく、百円返しに、茶畑さんのところに行きましょう。それから、ひとこと言ってやらなくちゃ」

灰色に汚れた毛皮を一度脱いで、きれいに洗ってから、ママとワーフは茶畑さんの所に行きましたが、どうやら留守のようでした。

「しかたないわね、後でもう一回行きましょう」

けれども茶畑さんは、その後も家に行ってもいなく、町内会の旅行に出ていることがわかりました。ワーフは事情を話せないままになってしまいました。


***

ピーンポーン


それから三日後の朝早く、インターホンがなりました。画面には、茶畑さんが映っていました。

「ママー!茶畑さんだよ!」

イトが言いました。その声で起きてきたワーフは、この間のことを思い出して、気が重くなりました。

「まあ、荷物のこと聞きにきたのかしら。ワーフは悪くないんだから、ひとこと言ってやらなくちゃ!」

ママはエプロンのひもをきゅっとしめて、戦闘体制に入りました。

ドアを開けると、なぜか上機嫌の茶畑さんが立っていました。

「どーも、おはようございます~!ワーフくんはいますか~?」

「えっ…あ、おはようございます。ワーフはいますけど…」

「あの…ボク、ここです…」

「あらあ~ワーフくん!この間は荷物、ありがとねえ~」

「あ、でもボク、そのことでおはなしが…」

「いいのよ、いいのよ~!それよりこれあげるわね~」

茶畑さんは、「奇跡のサプリ!ひざ元気!」と、でかでかと印刷された小さなサンプルの袋を、ワーフに渡しました。

「あの、これは…?」

「昨日ねえ、この会社のひとがうちに来て、このサプリとか、他にもドリンクとか栄養食品とか、た~くさんくれたのよ~!もう、びっくりしちゃって…」

「え、でも…」

「なんでもねえ、あのスマホ?あのなにかにね、これが映ったらしいのよ~」

茶畑さんは一方的にまくしたてると、「また何かあったらヨロシクねえー」と言って、一方的にドアを閉めて、行ってしまいました。


茶畑さんの話を総合して、後でママがワーフとイトに説明してくれました。

「なんかね、SNSで、トラックの上に乗った荷物の写真が話題になったらしいの」

「えすえぬ…?」

「写真とか文章をのせてね、パソコンとかスマホとかで、色んな人が見られるようになってるものよ。それで、たまたまあのトラックの上に乗った荷物の横に、ハトがとまって羽ばたいたところを、誰かが写真を撮ったんだって。
そしたら、あのサプリの絵のハトと、偶然おんなじ羽ばたきかたで…ほら、これ」

ママは、スマホの写真を見せました。

トラックの上に、小さな段ボールが乗っている写真がアップで写っていました。箱の側面には『奇跡のサプリ!ひざゲンキ!』という文字と、羽ばたくハトのマークが描かれていました。
そしてその横に、それと全く同じポーズで羽ばたく、本物のハトが写っていました。

その目線や色、首をかしげた形などもそっくりだったので、その写真には、
『奇跡のハト!ハト元気!』
とタイトルがついていました。

「この写真、テレビでもとりあげられたみたいで、このサプリ、今すごく売れてるんだって」

「でも、ちゃばたけさん、それあんまりきかないから、かえす、ってボクにいってたけど…」

「タダでもらえたから、きっといいのよ。あのあと結局荷物が見つかって、サプリの会社に届いたんですって。
それで、茶畑さんに連絡が行って、宣伝になったからお礼に、って色々商品を持ってきたらしいの。
でも、茶畑さん、ワーフが返した百円はさっさと受け取ったわねえ。まったく、ワーフがどんな思いで荷物を運んだと思ってんのよ!」

ママはいつまでも怒っていましたが、ワーフは、もし、このまま荷物がどこかにいってしまっていただけだったら、どうなっていたんだろう、と考えていました。
でも、考えても仕方がないことなので、すぐに忘れてしまいました。

(第5話「ワーフ、プールへ行く」へつづく)


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