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理想のパイロット育成を妄想してみよう

理想のパイロット訓練とは、どんなものでしょうか。

Timaruのエアロクラブ

ニュージーランドの南島、クライストチャーチから海岸沿いを南へ200KMくらいいったところに、ティマルという小さな街があります。小さな空港もあって、無管制ですが定期便もあります。

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そこにはやはり小さなエアロクラブがあって、天気のいい日には小さな飛行機がピュンピュン飛んでいます。管制塔がないので、定期便でそこに行くときはその小さな飛行機と「あと5分で着くからよろしく」などと話しながらうまいことやります。

そこのエアロクラブには、訓練生・教官時代に少しだけ交流がありました。私が訓練していた学校ではないのですが、クロスカントリーでよくティマルにやってきて、地上に降りたあと、着陸料を500円くらい払うためにエアロクラブに顔を出すのです。

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白い外観の小さなクラブハウスに入ると、そこには暖炉とカウチ(ソファー)があって、学生たちがゆったりと時間を過ごしていることがよくありました。クラブ歴20年のおじいちゃんから、先週初めて飛行機に乗った高校生まで、実に様々な年齢の「学生」たちです。

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クラブのチーフインストラクターは、30代の気のいい兄ちゃんで、ジェネラルアビエーションを愛し、自身はかなりの経験を持っているにも関わらず、エアラインへ行くことには興味がないようです。IFRはやっていませんが、初等訓練から、尾輪式飛行機、そして基本的な曲芸飛行まで、幅広くやっています。

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私はそこに、パイロット訓練の一つの理想を見ました。

飛行機を教えることを心から愛するチーフインストラクターがいて、年齢、性別を問わず様々な人たちが各々のペースで飛んでいる。最近、週末に飛び始めた若者は、じいさんの飛行経験をソファーで聞き、ある日、ライセンスの取得を決意する。

飛行機の楽しさと厳しさは、細く、長く飛んでいるうちに徐々にわかるものです。いいエアロクラブは、そうやってじっくりと自分と飛行機に向き合う時間を提供します。それは3年か、5年か、10年か。この場合、プロのエビエーターになる決意や適性があるかを判断するのは、そのパイロット自身になります。

プロパイロットになることを、アマチュアパイロットが段階的かつ主体的に選び取れる息の長い環境こそ、理想のパイロット訓練の必要条件ではないでしょうか。

パイロット訓練の現状

翻って、今のパイロット訓練のあり方はどうなっているでしょうか。

日本には、自社養成、航空大学、私大、自費、自衛隊と色々なパイロット訓練ソースがありますが、いずれも「一度も空を飛んだことがない人をごく短い期間でプロにする」ことを目的としています。

私もニュージーランドに航空留学をする前は、自社養成にたくさん応募し、5次も6次もある採用試験を経験したので、その大変さがわかります。それぞれの養成ソースの中で日々、厳しい訓練をされている方々には、尊敬の念しかありません。

それらの訓練生の中に、小さい頃から飛行機に慣れ親しんで、週末たまに飛んでいたような人は、どのくらいいるでしょうか。とても少ないはずです。日本には、冒頭紹介したティマルのエアロクラブのような場所や、そもそもクラブで楽しみながら飛ぶ文化そのものが、それほど一般的ではありません。

そうすると、日本のパイロット訓練生は、飛行機の楽しさ、厳しさを「プロになるための」訓練が始まってから経験することになります。「プロになるための」ものだから、飛行機と自分の人生に折り合いをつける時間は取られていません。雨の日にクラブハウスで先輩から空の怖い話を聞くこともできません。

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「プロなんだから」定められた期間で結果を出さなければならない。だから、訓練は厳しくあるべきだと。ある意味で真実かもしれませんが、それだけが飛行機の厳しさでしょうか。短い訓練で試験に合格することと、機長の責任は必ずしも同義でしょうか。

パイロットには、すぐに「なれる」

そもそも、大学卒業のある一時点で、6回ほど面接や試験をしてわかる「適性」とは何でしょうか。あえて言えば「要領のよさ」かもしれません。飛んだことがない人を限られた期間内でパイロットにする以上、曖昧な基準でしか判断することができないのは、当然でしょう。

つまり、その人が無事訓練を終えてパイロットになる可能性を判断基準としているわけです。一見、当然というか、問題のないアプローチに見えるかもしれませんが、重要な役職に就く人材を雇う時、普通重視するのは実績であり可能性ではないはずです。「プロ訓練」に厳しさや品質を求めるなら、なおのことです。

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繰り返しますが、現在自社養成をはじめとする訓練課程で奮闘している方々のことを否定する意図は全くありません。現実がそうである以上、必死に対応して夢を掴もうとしている人を、私は尊敬します。私の意図は、そういった現実を一度白紙とした上で、理想のパイロット育成環境とは、と問うものです。

私も、飛行訓練を開始する以前に飛んだ経験はありませんでした。あったのは、強烈な憧れだけでした。だから、最終面接で自社養成に落ちた時は本当に苦しかった。今思えば、飛行同好会や大学のグライダーサークルなどでサクッと飛んでみればよかった、パイロットに憧れてるなら、まず、みずから行動してやってみればよかったのです。これこそ「やる」と「なる」の違いです。

なぜパイロットになりたいのか

そうすれば、面接で必ず聞かれる「なぜパイロットになりたいのですか」には、シンプルに、絶対の自信をもって答えられたはずでした。かっこよく空を飛んでみたい、ただそれだけの憧れにもっともらしい理屈をつけて説明せずともよかった。

飛んだことがあれば、一言、「飛ぶことが好きなんです」と言えるのだから。

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調べて見れば日本にはエアロ(フライト)クラブ、ちゃんとあります。

だいたいが自家用操縦士免許の保持者を対象としているようですが、学校が併設されているところは限られているようです。また、飛行機ではなくグライダー(モーターグライダー)のクラブもあります。より気軽に参加できそうです。

しかし、驚くべきことに、航空会社によっては自家用操縦士を自分で取ってきた人をむしろ敬遠するところもあると聞きます。これが事実だとしたら、本当に悲しいことです。なぜなら、自国の航空人材輩出の土壌となるべきジェネラル・エビエーションを、他でもないエアラインが否定していることになるからです。

理想論を捨てて、現実的な提案をするなら、これからパイロットを目指そうという人は、一度グライダーを経験してみるといいと思います。これなら趣味の範囲で敬遠されないでしょうし、料金的にもリーズナブル。面接のネタにもできるでしょう。動力のない飛行機を飛ばした経験は、いつかあなたの人生を救うかもしれません。

ニュージーランドのエアラインのコクピットでは、キャプテンがFOに「前はなにやってたの?」と聞き、FOがどこそこでインストラクターしてました、などと言えばその飛行場のローカルネタで盛り上がったり、エアロクラブの中に一人二人、共通の知人がいたりすることがよくあります。これは、エアラインとジェネラル・エビエーションが繋がっているからこそです。日本でもそうなればいいと思います。

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将来のパイロット不足を憂うのなら、航空業界と当局は日本のジェネラル・エビエーションの振興にもっと真剣になるべきです。なぜ、全ての訓練を国内でできるのが航空大学校のみなのか、なぜ、自社養成ですら一部を海外で行うのか、なぜ、日本にはエアロクラブとエアラインがつながっていないのか。それらを直視して、変えるべきです。

もっともっと、小さい頃から飛行機に慣れ親しんで、本当の意味での「厳しさ」を知っていて、飛ぶことが好きな若者が増えればいいなと思います。

おまけ:ニュージーランドの航空人材の育ち方とCHCに来襲したF16のめちゃ速動画2本

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