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産みたくないと言ってもいいですか?〜命懸けの妊娠出産〜72

泣き疲れて寝入った私はガヤガヤと騒がしい音で目を覚ました。ICUは基本個室にはなっているが正面はカーテンで仕切られているだけでカーテンの向こう側は煌々と明かりが付いている。それに隣の部屋の壁は薄く大きな窓もついていて(ベッドからは向こうは見えない位置に)、隣が電気をつけるとこちらにも漏れてくる。

左隣からいろんな声が聞こえてくる。

「大丈夫ですか!?」

「目を開けてください!」

何人集まっているんだろう。女性の声、男性の声それぞれ話しかけたりしている。

(ここはICU、もしかしたらすぐ横には命の危険のある人がいるのかな…)

状況は掴めないが機械の警告音とおそらく看護師さん、お医者さんたちの声、緊迫している。私は急に恐怖を感じ始めた。

(怖い…、すぐ横でもしかしたら人が亡くなるのかもしれない…。)

目が冴えて眠ることができなくなってしまった。どのくらい眠れずにいただろう。看護師さんが点滴を確認しにきた。

「空月さん、眠れませんよね。今、少し騒がしいですから。」

「はい、今って何時ですか?」

「今11時半です。」

(え!?まだ11時半!)

眠っていたのは1時間程だった。夜はまだまだ明けない。

「すみませんが胸が張ってきたので搾乳を助産師さんにお願いしてもらっていいですか?」

「分かりました。伝えて来ますね。」

そう言って看護師さんは部屋を出て行った。隣は少し落ち着いたようだった。話の内容までは分からないが男性の談笑が聞こえてくる。それから数十分胸がカチカチになっていた。

(痛い、自分で搾ろうかな。でもそうすると赤ちゃんに持っていってもらえないし…。)

搾乳しても搾乳器がない為捨てることになってしまう。我慢していると助産師さんが急いで来てくれた。

「空月さん、ごめんね遅くなって!ちょうど出産が立て続けにあって手が離せなくて!」

申し訳ない!と謝られるが、いやいや、こちらがこんなところに来てしまっている為ご足労いただいてこちらが本当に申し訳ない!と謝った。

「いえいえ、おっぱいを赤ちゃんに届けるのも私たちの大切な仕事なんです!さ、搾乳して赤ちゃんに飲んでもらいましょう!」

そう言ってカチカチになった胸を揉みほぐす。これがまた痛い!うううう…と痛みに耐えていると隣からまた機械の警告音が鳴り響きバタバタと人がひっきりなしに動いている音がする。

「こっち早く!」

「〜さん!こちらを見てください!!」

大きな声が聞こえる。すると助産師さんが

「ここはいろいろと騒がしいですね…。」

「はい、なんだか怖いです。」

「そうですよね。」

「産科病棟は静かでたまに赤ちゃんの泣き声とか聞こえるけど空気がゆったりしてました。」

「産科病棟は独特の雰囲気がありますからね。」

「早く戻りたい…。」

「そうですよね!私も早く戻ってきてほしいです!」

おっぱいを搾ってもらいながらそんな話をしていた。おっぱいを搾ってもらいスッキリした。ではGCUに届けて来ますねと助産師さんは出て行った。隣ではまだガヤガヤしている。

(これは、眠れないな。)

と看護師さんを呼び、睡眠薬を出してもらうことにした。看護師さんはすぐに持って来てくれ飲むと十数分後くらいには目がとろんとなりいつのまにか眠った。

沢山の管に繋がれている為寝返りは打ちにくいし仰向けで眠るしかない。何時間かに一回ベッドがブーーーーンと大きな音でエアを取り込み体圧を変えてくれるので背中と腰が痛くなりすぎることはないが音とベッドが膨らむ振動で目が覚める。しかも胸が張るので何時間もは寝ていられない。母子同室していなくても眠れないんだなと思った。

赤ちゃんのお世話がないだけゆっくりはしていられるんだが…。


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