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産みたくないと言ってもいいですか?〜命懸けの妊娠出産〜68

車椅子を押してもらいナースステーションの横を抜ける時、ひとりの助産師さんが

「GCUですか?いってらっしゃい!」

と笑顔で見送ってくれる。GCUは一つ下の階になるためエレベーターを待っているとちょうど退院の方が家族と対面したようだ。生まれたての赤ちゃんを抱っこした女性とその両親だろうか。嬉しそうな顔で助産師さんが向けるカメラに笑顔で答えている。

(私ももうすぐ退院になって夫と笑顔で帰るのかな?)

ワクワクするような、不安なような、なんとも言えない気持ちになっていく。エレベーターが来たので車椅子を押してもらい箱の中に入ると理学療法士さんが

「大丈夫ですか?呼吸苦しくないですか?」

と体に付けられているモニターを見ながら確認を取ってくれた。

「大丈夫です。ちょっと赤ちゃんに会うのに緊張してます。」

私は苦笑いで答えた。GCUに着くと検温と消毒をしっかりとして入っていく。そして小児科の先生が出迎えてくれると

「赤ちゃんなんですが、今日の朝も少し呼吸が止まってしまって、すぐに処置したので今は元気にしています。ちょうどミルクの時間なので見ていってくださいね。」

といい赤ちゃんのところへ連れていってくれた。赤ちゃんは看護師さんに抱っこされて泣いている。哺乳瓶を口に咥えさせると、んくんくとどんどん飲んでいく。すると看護師さんが

「このミルクはお母さんが今朝頑張って搾ってくれた母乳です。美味しそうに飲んでますね。」

と看護師さんは優しい笑顔で赤ちゃんと私を見た。私は夫に見せる為動画を撮りながら母乳をあげることのできない自分に不甲斐なさを感じていた。そうしているうちにどんどん呼吸が荒くなっていく。座っているのがやっとの状態になってきた時理学療法士さんがモニターを見ながら

「そろそろお部屋に戻りましょうか。」

と声をかけてきた。ほんの10分だろうか。もう少し見ていたい、でも今すぐ横になりたい。どうしてしまったんだろう、私の体は…。すると看護師さんは

「赤ちゃんのことは任せて下さい。しっかり大切に見ていきますので。お母さんもしっかり休んでくださいね。」

と言ってくれた為、私は病室に戻ることになった。帰りに車椅子では息も絶え絶えだったが、病室に戻り横になると少し楽になったので病室で待っていてくれた夫に赤ちゃんの様子を話し、動画を見せた。夫は可愛い可愛いと言って嬉しそうに動画を見ていた。

その後何時間かいてくれた夫も明日は仕事だからと帰っていった。1人の病室はしんと静まり返り自分の呼吸音だけが大きく響いていた。

この日夫は後何日かで退院して赤ちゃんとの生活が始まると疑っていなかっただろう。そう、私もまさか自分が…とはこの時思いもしなかった。

次の日朝から担当医の大野先生が来たことから自分が大変な状況にいることを知った。


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