産みたくないと言ってもいいですか?〜命懸けの妊娠出産〜71

夕飯から数分過ぎた時、病棟にいるときに来てくれた循環器の波多野先生が来てくれた。

「空月さん、どうですか?ICUはガヤガヤと忙しないと思いますがここなら安全なので、安心してください。血をサラサラにする点滴を24時間ずっと流しています。ある程度血栓が小さくなって今の緊迫した状況が落ち着けば病棟に戻れますので。少し辛抱してください。」

すると波多野先生が

「血圧を測ったり採血で毎回刺さなくていいようにしますね。」

というと左手首に麻酔をする。点滴を刺すだけに麻酔?と思っているとこれかんじますか?と先の尖ったピンセットで軽く押す。ううんと首を振るとじゃ、刺しますねーと言って針を刺すんだが、凄い角度で針をかなり奥の方まで刺した。

「Aライン確保できたから。」

波多野先生が看護師に伝える。

「ちょっと深いところにあるので痛くなるかもしれませんが少し我慢してくださいね。」

と言うと先生は看護師さんに色々と指示してから、また見に来ますねと出て行った。左腕から2本、右腕から1本の点滴、心電図、尿道カテーテル、指先にはパルスオキシメーター、鼻からは酸素が3リットル入っている。さまざまな管がまた増えた。それらの機器の数値が上の方のモニターに映し出されている。

(なんか自分が凄い重病人なった気分だな。)

すると急にブーーーーンとベッドが唸り出したと思うとベッドにエアーが吹き込まれる。

(え!?え!?何?何?)

ブーンと膨れたベッドからフシューーーっと空気が吐きだされるとずっと寝っぱなしで痛くなった背中が楽になった。

(ベッドに空気を入れて体圧を変えてくれたってこと?)

しゅ、しゅごい!!!さすがICUと感心したがそれほど寝っぱなしの動けない人しか来ないような所なんだと思った。

(私動けるけど…?)

自分の状況がよく飲み込めていないので本当になぜここにいるのかが理解できていない。

その後胸が張ってきた。そのことを看護師さんに伝えると数分後助産師さんが来てくれた。顔馴染みの助産師さんが来てくれたことで心がホッとした。

「空月さーん!無事でよかったですー!夜勤で出勤して来た時に空月さんのこと聞いて驚きましたよー!」

と言って涙を流してくれた。私もそう言ってもらえて涙が出た。

「しっかり母乳搾って、赤ちゃんに届けますからね!」

とギュッギュと搾ってくれた。痛みに耐えた…。

「母乳量増えてますね!」

「よかったです!」

「では、早速赤ちゃんに飲んでもらえるようにGCUに届けて来ますね!」

と助産師さんは出て行った。まだ一度も吸ってもらっていないおっぱいから出る母乳。私は母親として授乳することも出来ずICUで横になっている。情けない…。涙が溢れる。出産して4日も経つのに赤ちゃんに会えた時間は30分もない。今まで産みたくないと言った報いなんだろうか。看護師さんがカーテンを開ける。

「空月さん、消灯なんですが睡眠薬は必要ですか?」

「いえ、今まで飲んでなかったのでいいです。」

「眠りにくければいつでも用意できますので言ってくださいね。」

「分かりました。」

「ICUはテレビカード無しでテレビ見放題ですので消灯過ぎても少しなら見ていてもらっても大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。」

看護師さんが出て行った後テレビをつけるが見る気が起こらず目を瞑った。

「早く家に帰りたい…。」

ポツリと声に出したら寂しさが押し寄せて来た。ICUでは基本スマホは電源を落とさないといけないらしいがこっそり看護師さんが見てない時に見るのは目を瞑ってくれるらしい。スマホを見ると夫からLINEが入っていた。

『大丈夫?大変だったね。ゆっくり休んでね。』

『うん、大丈夫。連絡はなかなか取れないけど頑張る。』

と返信するとスタンプでファイト!と帰ってきた。電話したい。声が聞きたい。話したい。会いたい。

声を殺しながら泣いた。泣き疲れて眠ったようだ。

そこから長い夜が始まった。


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