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コンサル流、キャバクラの使い方

お嬢とすき焼きディナーのはずが、社長からの呼び出しにより急遽クラブMに向かうヒルズ氏。ともに呼び出されたギャル氏の様子から、ただのキャバクラでないことを察知。恐る恐る扉を開けるのであった。(前回


やあ。今日はあまり前置きをしたくない。何せ私は今、極めて機嫌が悪い。大体だ、私はお嬢とサクッと飯をしたかっただけなんだ、それがどうしてキャバクラの前にいるんだ?
、、、っと、前置きが長くなりそうだ。さて、扉をあけるか。


◆軽い違和感

「お待ちしておりました」

外の扉を開くと、まず黒服の男性が迎えてくれる。話は通っているようだ。
入ってすぐ、また扉がある。

「どうぞ」

うやうやしく中に通される。

店内は薄暗く、いかにも高級会員制クラブの様子。バニーガールの女性が歩いている。まあバニーガールくらいなら、、、

おや?

何か、違和感を感じる。

「ああ、ようやくきたね」

社長だ。奥のVIP席でくつろいでいる。
両脇に容姿端麗な女性たち。

なんというか、この店は女性の美人度が異常値だ。いや、種類が違うと言った方がいいのか。いわゆるキャバ嬢メイクをした女の子がほとんどいない。どちらかというと、ランウェイで颯爽と歩くモデルのような、超小顔に抜群のスタイル、異常にツヤツヤな黒髪、、、

「ここ、モデルや芸能人の卵が在籍してるんだよ」

ギャル氏がこそっと横でつぶやく。

なるほど、売れないモデルの稼ぎ場か。

「まあまあ突っ立ってないでこちらに」

はい、と二人そろって社長の席に向かう。
この空間にパンツスーツの男女2名。
まるでSPにでもなった気分だ。

◆社長の性癖

「僕はここの会員2号。アジ〇ン不動産の会長が1号なんだけどね、がはは」

設立からずいぶん世話を見ているのだよ、と満足げに目を細める。世話ってどうせそれ会社の経費だろうが、と言いかけ言葉を飲み込む。

社長の昔話を聞きながら、確信する。
いや、見て見ぬふりをしていたのだ。
先ほどから感じる違和感の正体に。

ここの女の子たち、バニーガール以外は全員普通の服を着ている。今からお見合いか両家顔合わせにでも行くんですか?と聞きたくなるような清楚系お嬢様ルック。いわゆるキャバ嬢ドレスを着ているものは一人もいない。

チェックのスカートに白のボウタイシャツ、グレーのタンクワンピースに薄黄色のカーディガン。

そして、さらに認めたくなかったが、、、

女の子の半数以上が、
木村佳乃似だ。

認識した瞬間、背筋に悪寒がはしる。

自分好みの女の子に彼氏のお家初訪問的な恰好をさせ、そして親くらいの年の自分の周りにはべらせる。

薄暗い店内とのギャップ。

闇が、、、深すぎる。

ちらりとギャル氏を見ると、やっと気付いた?とでも言いたげな目で軽くうなずき返してくる。ああ、やっと理解したよ。これならスリットがっつり入ったキャバ嬢ドレスのお姉さんに囲まれて「おぱーい♪」叫んでくれたほうが気が楽だ。

こんな社長の性癖全開の空間にいると、自分の精神まで蹂躙されている気分になる。ファンタジー小説でいう"精神汚染"と呼ばれる攻撃だ、ギャル氏、そして私よ、気を確かに持て。

◆舞台装置

「ところで君たち、プロジェクトの話だが」
ああ、さっさと話してくれ、帰りたいんだよ。

「あ、ひろこちゃん、この人たちね、うちのエース中のエースなんだよ」
早よ話さんかい。

「で、、、今日の会議はどう思った?」

ど、
どう思っただと?

そりゃお前、お前の、だ、だだ、だだだだんこ、、、だめだ、思い出すな!
深呼吸だ! すーはーすーはー、、、

ひ、非常に有意義な打合せでした先方契約担当からも既にプロジェクト範囲見直しの了承を得ております!

「そうかそうか、その調子で進めてくれ」
満足げな社長。

ああ、そうか。
我々は舞台装置として呼ばれたのか。
木村佳乃似のモデルたちの前で、社員に指示を出してる俺すげーだろ?なんて腐った欲を満たすための舞台装置。
吐き気がする。

「うちの事務所は優秀な人間が集まっているんだ」

また別の女の子に声をかける社長。
事務所? 社長はそんな名前で弊社のことを呼んでいたか? またもや軽い違和感なのだが。

「君たちも、また遊びにきなさい」

は?
なんでキャバ嬢がコンサル会社に遊びに来るんだ? 女の子にも迷惑だ。下手したらコンサル以上の単価を持つ方々だぞ。何を言っているのか。

「「「 はいっ 」」」

唖然としている私の前で目を輝かせ元気よく答える女の子たち。なんだこれは、、、軽く眩暈がする。

「折角だから飲んでいきなさい、あ、カラオケもどうだい?」

いえ、結構ですと言いかけた時には社長、高速で3曲入力しマイクを握りしめている。社長の言う「どうだい?」とは「俺の歌聞いてかない?」という意味らしい。

SNAPを歌う社長によいしょし、時折仕事の話という舞台装置を挟み、謎の事務所アピールを聞くーー。


この精神汚染空間から解放され、まだまだ明るい六本木のシャバに出た時、日付はすっかり変わっていた。


「すき焼き、、、 行く、、、か?」

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Twitter: @soremaide

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