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約束の地<夫婦世界一周紀86日目>

業務用カメラと三脚を持って歩いた9年前を思い起こしながら、ハワイ島空港の荷物受け取り場はあの時と同じような生温い風が絶えず吹いていた。

ニューオリンズからロサンゼルス、オアフ島と乗り継ぎ、ハワイ島に到着した時には午後11時を回っていた。これからレンタカーを借り、ぐるっと半周してキャプテンクックにあるairbnbの宿を目指す。今回の宿はタイニーハウス(狭小住宅)だ。写真の感じからしてワクワクするが、ハワイ島にはゴキブリが沢山いる。ちょっと怖い。

人生初の左ハンドルの運転で、尚且つ深夜。早朝に出発してからすでに20時間が経過していた。集中力も完全に切れていて怖いが、運転せざるを得ない。レンタカーでは当初乗る予定だったヤリスではなく、日産の大きめなセダンが用意されていた。頭が働くはずもなく手続きをしてしまってから、レンタル料金が当初の想定よりも100ドル近く高かったことに気が付いて気持ちが沈む。いつまでも旅は慣れない。

街灯が50mおきに付いている一本道は、常に曲がりくねっていた。深い森が広がる場所と、月明かりで黒い輪郭がくっきりと浮かぶ火山石の場所を行ったりきたりしながら、10分に一度の間隔で対向車とすれ違う。ハワイ島はすでに寝ている。海と緑の島の面影は夜には一切なく、しんと静まり返っていて、大声をあげる気も起きないような静けさが覆っていた。

最後の方はもうあまり覚えていない。気が付いたら宿の駐車場に車を置き、まるでラピュタの機械兵のような手足が長い宿のオーナー、ロバートさんが部屋を開けてくれた。こじんまりとした6角形の家の中には大きなベッドが横たえている。隠れ家のようにも見えるここを起点に、僕の九年ぶりの夢を果たしに出るのだ。

期待に胸を膨らませて、ベッドの中に入った。ふかふかで優しいベッドだった。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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