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恐怖のチェイサー<夫婦世界一周紀95日目>

楽園に見えていたのは滞在初日だけだった。いやはやニウエ、とんでもない国である。

事態の異常を察知したのは、二日目の夕方に差し掛かった時だった。

自転車を漕いで宿を目指していると、家の前に犬が座っているエリアがあった。

野良犬だ。とはいえ、この道は行きに通っているし、その時は問題なく通ることが出来た。多少怖さはあるものの、スピードを緩めずにその道を突っ切ろうとすると、座っていた犬は突如吠えたてながら僕の自転車目掛けて追いかけてきた。

やばいと思って全速力でペダルを漕ぐと、それに呼応するように犬は援軍を呼び、僕の自転車を追いかける犬は二匹、三匹と増えていき、結局4匹のよだれを垂らした犬が自転車めがけて襲ってきたのである。

のび太が泣きながら犬に追いかけられているシーンを見て笑っていた自分を思い出して泣きそうになる。犬に追いかけられるということがこんなに恐怖に煽られることとは思いもしなかった。

渾身の力を込めて漕ぎ続けるも、本気を出した犬のスピードはパンクしている僕の自転車に劣るはずもなく、気がつくと自転車の先に犬は回り込み、僕がやってくるのを待ち構えていた。

ブレーキを踏むこともできず地面に足を打ち付け、足の親指から血が吹き出る。じりじりとにじり寄る猛犬たちにおののいて、自分が今までの人生で出したことのないような情けない悲鳴をあげ、自転車ごと転びそうになると、たまたま近くを箒ではいていた住人がその箒で犬を追い払ってくれた。見てみるとその住人も血相を変えている。どうやら犬に追いかけられて怖いのは旅行客だけではないらしかった。

ほっと一息ついてさあ宿へ急ごうと漕ぎだすと、あろうことかまたもや猛犬は僕をみるなり襲ってきたのだ。ふくらはぎはぱんぱんで、もう逃げる気力もない。今度こそ万事休すかと思うと、傍から飼い犬が颯爽と飛び出し、野良犬を一網打尽に追い払ってくれた。まさに九死に一生を得たのだ。

その日からニウエの旅は野良犬の恐怖に怯える毎日になった。ハワイのようなおっとりな国なんて幻想だ。調べてみると、幾人もの日本人が野良犬の餌食になり、尻に大きな歯型をつけられて帰国した者もいるという。

背に腹はかえられない。予想外の出費だがレンタカーを借りることにして、僕たちは徒歩を極力なくすことにした。ニウエでは国際免許証の他に、ニウエ独自の免許を申請する必要がある。SONYのハンディカムの小さなカメラで写真を撮り、何十年前のものだろう…と思うようなcanonのプリンターで印刷した、手作り感満載の免許証だ。ラガーマンのような警察官に囲まれ、写真を撮ったことは、帰国してからはいい思い出になるに違いない。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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