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俺のために踊れ ~映画『コットンクラブ』〜

『コットンクラブ』
監督)フランシス・フォード・コッポラ
出演)リチャード・ギア、ダイアン・レイン、グレゴリー・ハインズ

あらすじ)1929年ニューヨークのハーレム街。ジャズクラブで演奏していたミュージシャンのディキシー・ドワイヤーは、ギャングのボス ダッチの命を偶然救ったことから、心ならずもダッチの下で働く羽目になる。ピアノ演奏を頼まれたパーティで、ダッチが抗争相手のボスを刺殺するのを目撃、またディキシーは、居あわせた美しい歌手ヴェラがダッチの愛人であることを知り、呆然とする。

ヴェラへの想いとダッチへの憎しみの間で身動きが取れず泥沼にはまったかのようなディキシー。しかし、コットン・クラブのオーナー オニー・マドゥンから映画の仕事を持ちかけられる。これをきっかけにディキシーはダッチの元を去り、映画スターへの道を歩みはじめるのだった。

俺のために踊れ
 1984年作というと、30年近く前の作品となるが、古びた印象が少しもなく、何度観ても主演のリチャード・ギアのチャーミングなこと、悪女役といっていいダイアン・レインの小さな顔が魅惑的で美しいことにはうっとりとしてしまう。舞台はハーレム街に実在し、デューク・エリントンなどを輩出した高級クラブである cotton club 。1930年前後の話で、あからさまな人種差別のあった時代だ。白人ギャングがオーナーであるクラブでは、ダンサーやミュージシャンはすべて黒人だが、客は白人のみで黒人は入店禁止。ギャングたちの縄張り争いの舞台であるクラブに、成功への野心を抱いて出演する黒人ダンサーたち。そこで生まれる肌の色を超えた愛。ひょんなことからギャングの世界に巻き込まれたディキシー・ドワイヤーも、成功と愛する女を手に入れられるのか?

 映画の見どころとしては、ディキシーの成功と愛の行方、ギャングたちの抗争、そして黒人たちの音楽やダンスの圧倒的なパワーだ。

 ギャングの抗争ということで血なまぐさいシーンはもちろんあるが、ジャズのリズムと陽気なタップの靴音、華やかなショーシーンに観る人は心は踊らせることだろう。とりわけタップダンサーとして有名になっていくサンドマンのダンスシーンは、物語の展開に効果的に取り込まれていて印象深い。最後のソロ『靴の旅』は、それまでの陽気な靴音とは異なるが、ダッチの最期を静かに彩どり、タップダンスの魅力を十分に味わうことができる。音楽の力もさることながら、超人的な脚さばき、靴音がこれほど繊細に喜びや悲しみをあらわせるものかと感動してしまう。

 このサンドマンを演じるのが、今は亡き、俳優でありダンサーであり振り付け師であった多才なグレゴリー・ハインズ。アフリカ系アメリカ人であるグレゴリ―・ハインズも、作中にあるような肌の色からくる困難に直面することは多かったのだろうか?

 サンドマンの『靴の旅』とともに、印象深いダンスシーンがある。ディキシ―とヴェラがダンスフロアで踊るシーンだ。

 主人公ディキシ―は白人であり、音楽の才と端正で甘いマスクによって見出され、やがて映画界の新星になってゆく。一方のヴェラはまだ二十歳にもならない若い女だが、その美貌を武器にギャングのボス ダッチの愛人となる。自分のクラブを持つという目的のためだ。ディキシーはヴェラに惹かれながらも、妻のある男、しかも冷酷なギャングと寝ているヴェラが許しがたい。ヴェラはヴェラで、ダッチにあごで使われ、若い頃には自分と大して変わりないことをしていたディキシーを軽蔑する。
 たがいに惹かれながらも反発しあっている、そんな時のダンスシーンだ。

「俺のために踊れ」

 ディキシ―は思うままにならないヴェラを堪忍袋が切れた(!)という感じで平手打ちし、乱暴にヴェラを振りまわすように踊る。床に倒れたヴェラは、なおも引きづりまわされる。ドレスが破ける。立ち上がり、ディキシーを引っ叩こうとするヴェラ。ふたりを見つめる好奇の眼差し。

 このシーンは、後に続くベッドシーンよりある意味官能的に映る。私にSMの嗜好はないのだけれど・・・。男が女に手を上げてもいいのか?―9割のケースは許されないとしても、この場合は許されるんじゃない? 金と権力しか信じていない女には必要な薬?

 俺のために踊れ。そこにあるディキシーの激しい恋情。男のエゴとナルシシズムに満ちているようで、 しびれるようなセリフに響くのはさすがセクシーなリチャード・ギア。さすがハリウッド。(日本人じゃこうはいかない)そして、リチャード・ギア演じるディキシ―はルックスがよく、楽器がうまいだけの男ではない。ふたりのロマンスの行方は伏せておくとして、ギャングのボスにも怯まず自分の女を守ろうとするディキシ―の姿は伊達じゃない。ヴェラが言うようにtough guyなのだ。

 フィクションだが、オニー・マドゥンやダッチ・シュルツら実在のギャングが登場するのは興味深い。また、ディキシ―・ドワイヤーはコルネット奏者のビックス・バイダ―べッグを、サンドマンと恋に落ちるライラはジャズ歌手のレナ・ホーンをモデルにしている。当時のニューヨークハーレム街の活況を知る手がかりになるだろう。

  『コットンクラブ』
 タイトルそのままに、華やかでドラマティックなエンターテイメント作品だ。
 2013年 DVDにて初鑑賞
(この記事は、SOSIANRAY HPに掲載した記事の再掲載です)

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