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コンサルティングファームに勤めたいあなたへ


このnoteはコンサルティングファームに勤めたい人に向けて書きます。理由は、最近コンサルティングファームで働きたいと言い始める知人が多く、そして彼ら彼女らがいち早く事業会社へと転職した私になぜか助言を求めてくれるからです。

毎回同じことしか答えていないので、再現性の高い形で頒布した方が早いのではないかと思い至り、コンサルティングという仕事に対する自分の考えを文字に落とすことにしました。

以下は簡単なDisclaimerです。

  • 私がコンサルティングファームに勤めていたのは2019年から3年程度です。その程度の経験から語っているものと受け止めください。

  • 所謂「総合コンサル」に勤めていましたので、本稿におけるコンサルティングファームやコンサルタントという単語は断りのない限り「総合コンサル」を指すものとお考えください。

  • インターネット上でコンサルティングファームにおけるキャリアについて書かれたものを一通り眺めましたが、あまり実感を伴うものがありませんでした。そこで、この記事はなるべく自分の身の回りの人たちの発言や近況をオーバーラップさせながら、コンサルティングファームで勤務する人たちに共感してもらえる内容に仕上げるよう務めました。

  • この記事は私自身の経験や感じたことに基づいて書かれており、所属する組織や団体の見解を一切代表しておりません。ひとえに、私個人の経験が、キャリアについて真剣に考えている方に何らかの示唆を提供できることを願って記したものです。

  • 私のキャリアについては以下のnoteにまとめていますので参考にしてください。


コンサルティングファームに勤めたいあなたへ


あなたは就職活動を控えた学生か、はたまた今の仕事を変えたいと思っている社会人でしょうか。どちらにせよ、私がお伝えすることは変わりません。コンサルティングファームに向いている人の条件は以下の2つを備えていることだと考えています

①人生において労働から得る収入が高いことが幸福度に極めて強く影響する
②仕事の内容に大きな関心がない



条件①:人生において労働から得る収入が高いことが幸福度に極めて強く影響する


順々にみていきましょう。

まずは①「人生において労働から得る収入が高いことが幸福度に極めて強く影響する」です。

一昔前のコンサル業界がどうだったかは寡聞にして存じ上げませんが、少なくとも現在のコンサルティングは士業と違って、独占性や専門性を持たないアドバイザリーサービスです。

コンサルタントは、弁護士や税理士のように資格を根拠に専門的な業務を独占的に実践するわけでも、海千山千のベンチャー経験者の様に何らか特筆すべき体験や経験を根拠に業務を行うわけでもありません。このような業務特性は、おそらく独占業務を有する資格を持たず、また高度に専門的な経験やスキルを持たないあなたの、現在の市場価値を大幅に上回る収入を得るチャンスを高めます

以下はコンサルティンファームの新卒の給与を比較した表ですが、他職種と比べて突出して高い給与をもらえることがわかります。高等教育で学習した内容を一顧だにしない日本の新卒就活市場において、新卒の学生が業務で発揮できる専門性や独占性は皆無なわけなので、いかにコンサルティングファームがあなたの現在価値を「高く」見積もって買い取ってくれるかがわかります。



条件②:仕事の内容に大きな関心がない


コンサルティングファームの高い給与水準に係る事情は、二つ目の条件「仕事の内容に大きな関心がない」と合わせて考えるのが大切です。

実のところ、コンサルティングファームが何をしているかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。確かに、巷には〇〇コンサルタントみたいな人が百花繚乱とばかりに溢れかえっていますから、普段関係のないところで仕事をしている方には、判然としない印象を与えるかもしれません。

簡単にいえば、コンサルティングファームは「何でもやっている」というのが正解だと考えます。もう少し正確にいうと、コンサルティングファームが受注する仕事は、「クライアント企業が自社で保有/内製する必要性が低いと考えている」スキルや能力を必要とするものです。

例えば時限的に組成されるプロジェクトのマネジメント(いわゆるPMOと呼ばれるサービスラインです)が良い例です。プロジェクトは一般的に目的が達成されれば解散します。そのため、特定のプロジェクトを進めたり、管理するためだけの人を雇用するインセンティブは一般的に高くありません。だから、一時の支出と考えて、外注費で賄う方が長期的に見て得だと考えられがちです。


コンサルティングとITの関係:日系企業の「IT投資」は何を意味しているか

もう少しだけコンサルティングサービスの現状に対する解像度を高めるために、日系企業とITの関係に注目してみましょう

日系企業の多くは、これまでITを競争力の源泉として捉えてこなかったため、システム構築や運用を行う能力を内製化するための投資を行わずに、長きにわたってSIer等のITベンダーにシステム構築を外注してきました。

近年、日系企業が文字通り没落の一途を辿る中で、IT投資やシステムの内製化を叫ぶ声が大きくなってきています。実際に、企業がIT投資に費やす予算は増加基調にあることがITRの調査を見れば一目瞭然です。しかし、先ほど述べた通りシステム構築や運用を行うためのIT人材を、多くの日系企業は社内に有していません。また、IT人材を競争性の高い価格で市場から獲得する様な、人材投資のドラスティックな方向転換もできていません。


内部人材がいない状態で行われる内製化やIT投資は、結果として、コンサルティングファーム宛に「ベンダーロックイン状態の解消」や「スパゲティ状態になっている内部システムの刷新」といった形で外注されることになります。これが、コンサルティングファームで実践される「システム案件」の実態です。

なお、こうした日系企業のIT投資をめぐる状況に関して理解を深めたい方は、長年日系企業へのITアドバイザリーサービスを務められている及川卓也氏の著作を購読されることをお勧めします。

今後10年以上は、コンサルティングサービスはこうした日系企業の「IT投資」の恩恵を受ける形で潤っていけるものと想像しています。それは、コンサルティングファームが相手にする大規模な日系企業の多くが、IT人材を「自社で保有/内製する必要性が低いと考えている」ためです(そして私はその状況を大変由々しい事態だと捉えています)。

この認知フレームが続く限りにおいて、あなたはコンサルティングファームに大枚を叩いて外注されるIT投資の恩恵を受け続けることができるでしょう。


あなたはなぜ「大金」をもらえるのか

IT投資はあくまで一例ですが、コンサルティングファームの提供価値はこのように「クライアント企業が自社で保有/内製する必要性が低いと考えている」スキルや能力の提供にあります。

あるスキルの実際の市場価値(=内製化を通じて競争優位を確率するために本来拠出すべき金額)に対して、企業が実際にそのスキルを内製化するために割いている資源(=そのスキルを持っている人を雇用するために実際に投資する金額)が少ないほど、そのスキルが外注によって賄われる可能性が高まります。両者の差分が大きい領域ほど、コンサルティングファームの収益性やバーゲニングパワーが高まります

ただし、先ほども言った通りコンサルティングファームは専門性や独占性を持たない集団で、「何でも屋」です。スキルの市場価値と内製化資源の差分が大きい領域であれば、何でも貪欲にこなしていきます。士業や本物のプロアドバイザーしか行えない専門性の高い領域や独占業務に手を出すことはできませんが、逆にいえばそれ以外は何でもやるということでもあります。

このような構造は、あなたがコンサルティングファームにおけるキャリアで専門性や独占性を有するスキルを獲得する機会を大きく限定します。あなたは基本的には、先ほど述べた条件に該当する案件を、分野や領域を問わず順繰りに割り当てられてていくことになります。そのため、あなたのキャリアは基本的には受動的に形作られていくことになります。

しかし、利益が出る領域であれば仕事を選ばないコンサルティングファームの柔軟さや貪欲さこそが、専門性や独占性を持たないあなたが市場価値に照らして桁違いの大金をもらい続けることができる理由です。自分のキャリアに主体性や一貫性を持つことができる可能性が限定されるのは、仕方のないことだと割り切るしかありません。

そのため、あなたがコンサルティングファームでの勤務を通じて満足度を高めるためには、①人生において労働から得る収入が高いことが幸福度に極めて強く影響する②仕事の内容に大きな関心がない、の両者を兼ね備えていることが非常に重要になります。

要するに、あなたは仕事を通じてお金を得ることにかなり強い幸せを見出し、「やりたい仕事」のような社会人自我を持たない人間である必要があるということです。


私はなぜコンサルティングを離れたのか


ここまではある程度客観的な事実や観測できることをもとに文章を書くよう務めてきましたが、今からはコンサルティングファームの中で私が感じたことを主観を交えて記載します。結論から言うと、私がコンサルティングを離れたのは②仕事の内容に大きな関心がないを満たすことができなかったのが大きな理由でした

コンサルティングファームの提供価値が、「クライアント企業が自社で保有/内製する必要性が低いと考えている」スキルや能力の提供にある以上、コンサルタントが裁く仕事は「外注されるべき仕事」だと判断されたものになります。そして、「外注されるべき仕事」だと判断されたものが、クライアント企業において意味のある成果を残すことや、後世につながる資産を生むことはとても困難だと感じました。

私は、ある企業にとって本当に必要だと判断される能力は、競争力の源泉として内製化されているものだと思っています。その前提に立つと、「外注されるべき仕事」として残るのは内製化が困難なほど希少性が高い専門的なスキルを要求されるものか、必要でないと判断されたものになります。そして、先ほどから申し上げている通り、コンサルティングファームが受注するのは多くの場合、後者に類する仕事です。(「必要でないと判断された」ということが、その仕事の本質的な価値が低いと言うことを意味しているわけではもちろんありません)

ある企業にとって内製化の必要がないと判断された能力やそれを要求される仕事は、多くの場合当該企業のメンバーに「重要でない」、あるいは「自分ごとではない」という感覚を持たれています。なので、コンサルティングの仕事の多くは、相手企業に必要な当事者感覚(オーナーシップ)を引き出すことに大変苦労します。そのことが、価値ある成果を出すことを困難にしている大きな要因だと考えます。

このことは、主観的な自己効力感の問題と大きく関わっています。クライアント企業において「意味のある成果」が何かを決めるのは、コンサルティングファームではなくクライアント企業自身です。そのため、私が自分のやっている仕事をどう思っていようがその成果や意義はまったく揺るがないのですが、そのことと「自分がやっていることが意味のある成果を残している」と感じられるかどうかは全く別次元の問題です。要するに、やりがいを感じるのがとても難しい仕組みになっています。

また、コンサルティングは、多くのアドバイザリーサービスがそうであるように、人間が車輪となって回す仕事です。ソリューションやプロダクトを売っている会社であれば、売り物のスケーラビリティに応じた収益が、投下した労働資源を上回って流入してきます。そのため、収益性を高めたければ、売り物をなるべくスケーラブルになるように改善し、良い車輪になってくれるように労力を費やせばよいわけです。

一方で、コンサルティングが売り物にしているのは、各人の稼働時間分の処理能力です。そのため、人が働いた分以上に収益がスケールすることはありません。コンサルティングファームが収益性を高める方法は、人の稼働率を高く維持することや単価を高めることになります。高稼働率高単価を目指すために、コンサルタントは相当な時間を仕事に費やすことになります。その勤務実態は極めてハードです。人間には個体差はあれど性能限界がありますので、割と早めに頭打ちになるフェーズが見えてきます。人間を車輪にするビジネスは、人間のスケーラビリティがそのまま限界になっているので、「根性で限界突破」のような体育会的発想になりがちです。それもまたつらみがあります。

要約します。コンサルティングファームで働くことは、私にとって「意味がある成果を残している」と感じることが難しい仕事を、隙間なく次々とこなしていくという体験に感じられました。成果がプロダクトやソリューションの様な目に見えるものとして残らないことも、働くモチベーションの維持が難しくなった理由です。


どんな人にコンサルティングを薦めるか


ここまで読んできて「え⁉️」と思われる方もいるかもしれませんが、私はコンサルティングファームを最初のキャリアに選んで本当に良かったと感じています。というのも、①人生において労働から得る収入が高いことが幸福度に極めて強く影響する②仕事の内容に大きな関心がない、という2つの条件に、学生時代の私はぴったり当てはまっていたからです。

そして、ある程度上昇志向が強い学生の多くがこの2つの条件を満たしていると思います。お金は欲しいけれどやりたいことは特にない。そう言った方に対して、コンサルティングファームは素晴らしい環境を与えてくれると思います。

また、先ほど人間が「車輪」として回る仕組みについて言及しましたが、このような仕組みが、あなた個人の「情報処理能力」を極めて高いものにすると思います。個人としてのポータブルなスキル(私はこれを情報を摂取/解釈/加工/伝達する能力に集約されると思っています)を高めたいのであれば、コンサルティングファームはとても良い修行の場だと思います。

最終的に私がコンサルティングファームを離れる決断をしたのは、自分にやりたい仕事があるんだ!という「社会人自我(?)」的なものが芽生えたからに過ぎず、それもこれもコンサルティングファームで色々な経験を積ませてもらったおかげだと考えています。そして、社会人自我のような生ぬるいことを考える人には、やはりコンサルティングファームは向いていないのだと思います。

良い意味で、仕事はお金をもらう手段だと割り切り、自我と切り離して考えられる人がコンサルタントに向いているのだなと、この記事を書いていて改めて思わされます。そして、どれだけ自分の中でどれだけ仕事と自我が癒着しているのかを思い知っています。なんだか、あまり健全な話ではない気がしますね。

最後に、あなたが今キャリアについて真剣に考えていて、コンサルティングファームで働くことを検討しているのであれば、あなたの人生において仕事がどんな価値を持っているのか、今仕事に何を求めているかを立ち止まって考えてみることをお勧めします。この記事が、あなたのキャリアをめぐる長い思索と冒険の一助になることを、心から願っています。

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