見出し画像

100mの教科書 ~理論・実践・考え方~

割引あり



はじめに

「走る」は全てのスポーツの基本であると言われています。そして様々なスポーツに共通して必要とされる能力、それが『スピード』です。これは「走る」に限らず、「投げる」「跳ぶ」「打つ」「蹴る」などの動作全てに要求されることです。スピードを出すためには、どう動くか、どう動かすか、どの動作のポイントが分かれば誰でも自分の持てる能力を最大限に発揮できます。本テキストでは「走る」にフォーカスしてポイントを学んでいきます。

「走ることを極める」それが陸上競技の100m走です。陸上競技種目の中でも絶対的な存在感を放つ100走は、単純な ”ただ真っ直ぐ、全力で走る” というシンプルな種目ですが、たった0.1秒、0.01秒という時間を縮めるために、アスリートは何年もの膨大な時間を費やし、生活の全てを懸けます。それでも県大会、ブロック大会、全国大会、日本選手権、世界大会のファイナルに立てるのはたった8人または9人だけです。その可能性を最大限に広げるためには、アスリート本人及びそのコーチ陣がしっかりと理論を理解して、それを実践する必要があります。たった10秒間に全てをかけるスプリンターたちへ『今よりも大きく成長するためのキッカケ』となるテキストを作成しました。

走るという運動は誰でもできる基本的な運動であるからこそ、なんとなくでも指導できてしまうのです。しかしアスリートにとっては誰でも指導できるからこそ、誰に出会うかでその後の競技パフォーマンスが大きく左右されてしまうのではないでしょうか? 「でもやはりやるからには勝ちたい!」そう思うのがアスリートであり、特に自我の強いスプリンターだと思います。そのためにも指導者はしっかり学んでアスリートのパフォーマンス向上をサポートしていってほしいと願っています。

本テキストとは筆者が学生の頃に知りたかった内容を詰め込み、また指導者が知っておくと現場で活用できる、なぜ?の理論をまとめた内容になっております。筆者の経験をはじめ、論文やさまざまな組織のメソッドなどを引用し作成しております。皆様の競技人生および指導に本テキストが少しでも役に立てたら嬉しいです。

※本テキストは技術を理解するためのものであり、読者の競技力向上を保証するものではありません。

Physical Edu.  
代表 本田創大 CSCS,*D
S&Cコーチ/スプリントコーチ



~ 読者の声 ~
※許可を得て掲載しています。

【広島県 作業療法士(20代女性)】
ケーススタディを交えて記載されており、陸上競技初心者でも理解しやすい内容になっていたと思います。学生さんなど陸上競技を始めたばかりで、方向性が分からない方にぜひ読んでいただきたいテキストですね。
満足度:★★★★⭐︎

【東京都 中学校教諭(30代男性)】
なぜ記録が伸びないのかを理解できました。特にこれまで私自身も、生徒たちにもスピードを落とさないような練習として走り込みを行ってきましたが、まず考えるべき区間が間違っていたと反省しました。翌日から練習メニューの内容を見直し、新しい取り組みを始めました。値段が値段でしたので購入を迷いましたが、購入してよかったです。ありがとうございました!
満足度:★★★★★

画像168

【奈良県 陸上教室コーチ(20代女性)】Instagramストーリーより
※ご本人より許可を得て掲載
満足度★★★★★



1. スプリントの概要

~スプリントの定義~
スプリントとは、最大速度またはそれに近いスピードで実行していることを言います(自転車のロードレースでもゴールライン間際の全力漕ぎもスプリントと呼ばれます)。つまり、スプリントは歩行やジョギングとは明確に区別されます。
歩行動作は常にどちらかの足が地面に接している時間があり、ランニングに変わると両足が完全に地面から離れている時間があります。つまり、どちらかの足が常に地面についている時間があるかないかの違いです。競歩という種目にはロス・オブ・コンタクトというルールがあるのは、「歩く」競技だからです。

~速度~
日本語の「速度」を示す言葉はスピードです。しかし英単語では ”SPEED” の他に ”VELOCITY” があります。この2つは通常同じ意味で使われますが、それぞれ意味合いが異なります。

VELOCITY:the speed of something in a given direction.
SPEED:the rate at which someone or something is able to move or operate.

つまり”VELOCITY” はベクトル量で、"SPEED" は速度の割合です。車の走行メーターは表記はV(VELOCITY)です。


~スピードの構成要素~

画像155

本テキストはクローズドスキルのスポーツである陸上競技のセパレートレーンのトラック種目である100m走を扱います。したがって、5番目のアジリティ能力については記載していません。直線方向のスピードについてのみを解説していきます。


1-1. 100mにおける4つの能力

1. スタートの能力

画像10

スタート能力は『慣性を突破する能力』のことを言います。つまり、走り出す前は完全に静止した状態なので全力疾走をする場合はそのゼロの状態からいち早く速度を上げなければなりません。その能力に長けている選手はいわゆるスタートが速い選手と呼ばれます。
地球上の物理法則として "慣性の法則" がある以上、我々が素早く動き出すときには大きなエネルギーが必要になります。一瞬で大きな力を発揮できるアスリートはスタート能力が非常に高いです。陸上競技ではブロッククリアランスでイメージさえますが、サッカー・アメフト・ラグビーのようなフィールドスポーツやバスケットボール・ハンドボールのようなコートスポーツでもこの瞬間的に素早く動く能力はとても重要です。

2. 加速

画像11

加速度はメートル/秒/秒(m/s/s)で表され、"スピードの変化率" を指します。注意したいことは「加速=スピード」ではないことです。たとえ物体が高速で動いていたとしても、正の速度変化をしていない場合は加速ではありません。車も信号待ちから発信するときは0km/hの状態から加速していきますが、公道を走るときには50km/hくらいで走り続けると思います。50km/hという速度を維持している車は加速しているわけではないということになります。速度変化がありませんので加速度はゼロです。
加速はアスリートが最高速度に達するための前段階となる非常に重要な区間です。カールルイス選手(USA)を育てたTom・Tellez氏は、加速が100mのレースにおいては64%を占めると説明しています。加速区間で進むことができる距離はスキル、力の大きさ、力の発達速度、運動学的要因、サーフェス、天候などに大きな影響を受けます。
トップスプリンターでは、平均的に約50~60m前後で最高速度に達します。このトップスピードにつなげるための最重要区間が加速区間であるとも言えます。ここを上手くアプローチできるかどうかでその後の・・・(続きは5章で)

3. 絶対スピード・トップスピード

画像12

最高速度はアスリートが達成できる最速・最高強度の状態です。最高速度は上げようとすればするほどスピードが上がらないというドツボにハマります。エリートスプリンターは約70m付近でトップスピードが現れますが、一般のアスリートは50m前後から最高速度が見られます。そして一旦最高速度に乗ってしまえば、それ以上スピードが上がることはありません。ではどうすればいいんだ!?
この区間は・・・、そしてトップスピードを高めるためには・・・(続きは6章で)

4. スピード耐久性

画像13

スピード耐久性は可能な限り長い時間にわたって最高速度を維持し、それに耐える能力のことです。
多くのスプリンターが直面する課題として、なぜ100m後半で失速してしまうか、なぜ後半に伸びないのかというものがあります。その理由はいたってシンプルで、理解できれば解決策を考えることができます。(続きは7章「スピード耐久性」にて)


ここから先は

104,353字 / 227画像 / 14ファイル
この記事のみ ¥ 4,480〜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?