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誰でもできる。空間のネーミング・スキル

昔から「名は体を表す」と言われます。名付けはコンセプト・メイキングの要であり、アイデンティティの確立であり、ブランディングそのもの。親が子供に名前つけるとき、どんな人であって欲しいか願いを込めたり、料理店のオーナーがコンセプトを店名で表現したり。ネーミングとは、誰もができるクリエイティブで楽しい行為です。

私自身、息子の名前をつける時は人生で一番悩みましたが、とても楽しく豊かな時間でした。息子の「昴(スバル)」という名前には、「たくさんの星のまとまりである昴のように、個人の中にある"複数の個性"を大事にしてほしい。多感で複雑な人間という存在に寛容で優しくあってほしい」という願いを込めました。

これまで、ロフトワークがプロデュースしてきた空間も「KOIL(コイル)」「100BANCH(ヒャクバンチ)」「AkeruE(アケルエ)」など、唯一無二の名付けに取り組んできたことから、場に名前をつけることへのこだわりは、常にLAYOUTメンバーにも伝えています。

今回、そのネーミングの技法について共有しましょう。技法といっても、とても簡単なことです。誰でもできます。まず鈴与株式会社の本社につくった共創オフィスの名前「CODO(コードー)」を題材に二つの技を紹介しましょう。CODOは、鈴与のこれからの変革を表現する本社リニューアルの中で、プロジェクトの核となるコンセプト空間です(写真)。

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名づけの手がかりとして、「そもそも」や「もともと」を深掘りします。まずは温故知新で考えてみること(技法1)新しく作る場が、元来はどのような場であったのか、何を残し未来につなげるのかに洗い出してみると、ネーミングのヒントが見つかります。鈴与は400年を超える老舗企業。長年、培ってきた経営理念に対して新しい取り組みが流行に流されないよう配慮することは、新しいことを始めるからこそ大事にしたいものです。様々なキーワードを経営目線で挙げ、優先づけして絞った言葉が「ともいき」でした。鈴与には、兼ねてから「ともいき」という経営スローガンがあります。「共に生きる」「共に行く」という意味の「ともいき」。Co-Creationや Co-Working, Co-Living...があるならば、ともいきは、「Co-Doing(Co-Do)」と言い表せる(やや強引)。そして、この空間がもともとは本社の「講堂(こうどう)」であったこと。入社式や社内行事として使われてきた大講堂をリノベーションして社内外が共創する「新しいコードー」にアップデートする。変わらない「ともいき(Co-Do)の精神と生まれ変わる「講堂(コードー)」を掛け合わせてCODOと名付けました(ダブル・ミーニングです)。一つの空間に一つの名前しか付けられないけれど、名前の背景には複数の想いがあり、複数の意味を沢山込めたい時、日本語のような英語+英語のような日本語の掛け合わせで解決する。このリミックスが技法2です。

逆にやらないことは、英語そのもの(例えばS-Labo)、または英語由来の造語(Spacy)や略語(SZY)などは、読み方に揺らぎがあるし、共感を生みづらいのであまりおすすめしません。ただ日本語のままだと野暮ったくなるし、英語の方がその後のデザインに応用しやすい。そこで三つ目、英字を組み替える手法を使って新しさをつくる。文字をランダムに組み替える(アナグラム)、または倒語(リバース・スペリング)にしてみる(技法3)。パナソニック・クリエイティブ・ミュージアム「AkeruE(アケルエ)」は、この技を使いました。

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アケルエというネーミングは、立地の「有明(アリアケ)」と子供たちが新しい時代の夜明けをつくる、好奇心の扉・未来への扉を開ける、そして現代に風穴を空けるなどの期待を込めて「アケル=明ける・開ける・空ける」をベースにしています。AkeruEを開設する有明は「(新しい時代の)夜明け、明け方」という由来があり、またパナソニック自体が、「未来感、期待感を象徴する夜明け、地平線から太陽があがる 直前の空=有明」からコーポレートカラーにブルーを選んでいる(技法1:温故知新)。

子供のたちの「ひらめきをカタチにする」「クリエイティブなミュージアム」がコンセプト。子供の創造性には「ひらめき=いいこと考えた!」がキーワードだと考えていました。そして言葉探しをしているうちに見つけた「Eureka(エウレカ=ギリシア語で、わかった、ひらめいた)」。「有明 × アケル × エウレカ」をリミックスそしてリバース・スペリングを技法1〜3を同時に行い「アケルエ=AkeruE(逆から読むとEureka)」と集約。これを思いついた時は「エウレカ!(ひらめいた!)」と脳内で叫びました(笑)。

リミックス、温故知新、アナグラム...3つの技法を混ぜすぎることもまた危険を孕みます。が、複数の視点を統合していくことにデザインする面白さがあります。唯一無二の名前をデザインするという行為は、空間デザインと同等に楽しく、創造的な行為。もちろんネーミングよりも前に、どのようなコンセプトの場づくりをしたいか議論することは、欠かせません。しっかり議論できたならば、コンセプトを体現するネーミングにおいてアイデアを出しし、垂直統合させていくことは決して難しいことでなく、幾度か訓練すると誰でもできるようになるはずです。(ただしクライアントとの最終的な合意形成は別問題!)ぜひ、ユニークなネーミングに挑戦してみてください。

最後に、技法はなんであれ「その場に集う人々が末永く愛せるネーミングを考えましょう。」...これが一番難しいですね!

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