ミュージカル好き救急医の独白 vol.79
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

みなさん, ”危険な胸痛”覚えていますか？覚えていない方は『75. 危険な胸痛とは？』を読んで下さいね. どこかで見た台詞…, まぁいいですね. 今回はその中から肺血栓塞栓症（はいけっせんそくせんしょう）を取り上げます.
エコノミークラス症候群って聞いたことがあるでしょうか？いわゆる飛行機に乗っていて突然呼吸が苦しく…ってな病気です. エコノミークラスだけでなく, ビジネスクラスやファーストクラスでも起こるため, ロングフライト血栓症と呼びましょうと, 日本旅行医学会から提言が数年前に出ていましたね. 一般に6時間以上の長時間フライトに伴う病気という意味づけがされています. 院内や在宅で寝たきりの患者さんでも起こることから, 座っていようが寝ていようが, とにかく長時間動かなければ起こり得る病気です. 今日はそんなお話を.

日本旅行医学会からの提言はこちら↓
http://jstm.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2016/04/5.提言.pdf

今回のミュージカル

レ・ミゼラブル
ミュージカルの一般的な公演時間は一幕, 二幕併せて大凡2時間半程度, 幕間入れて3時間というのが一般的です. マチネ（昼公演のことです）が12時 or 13時から, ソワレ（夜公演のことです）が17時 or 18時開演が一般的です.
レ・ミゼラブルも初演時と比べると現在の公演時間は10数分短くなり, 全体で3時間以内におさまっています. 今ではなかなかそんな時間はありませんが, 数回, マチソワでレミゼを観に行ったことがあります. マチソワとは, マチネとソワレ共に劇場へってことです. なんて贅沢！計6時間劇場で座りっぱなしだと, 血栓ができてそして...ってなことで, 今回は肺血栓塞栓症のお話.

救急外来あるある

81歳女性（AXさん）が, 自宅でTVを観ている最中に胸苦しさを自覚し, 心配した娘さんと共に救急外来を受診しました.

Dr.S：「今日はどうされたのですか？」
Pt.AX：「なんだか苦しくて…」
Dr.S：「胸が痛く苦しいのですか？」
Pt.AX：「はい. 今は少し落ち着きましたが…」
Dr.S：「何をしているときに苦しくなったのですか？」
Pt.AX：「TVで私が好きなミュージカル界のプリンス, 井上芳雄さんの歌を聴いているときに突然…」
Dr.S：「足をケガされているようですが, それはどうされたのですか？」
AXさんの娘：「あ, それは10日ぐらい前に家の中で転んで捻挫してしまって.」
Dr.S：「なるほど…」

肺血栓塞栓症とは

簡単に言うと, 肺の動脈が血栓という血の塊で詰まってしまう病気です. 血栓がどこからか飛んでくるわけですが, そのほとんどは下肢や骨盤内の静脈で形成されたものです.
通常我々は寝ているときも寝返りを打ちながらもぞもぞ足を動かします. 日中は歩き同じ姿勢でずっといるということは基本的にはありません. そのため, 日常生活の中で血栓ができることはないと考えてOKです.
しかし, 冒頭でもお話しした飛行機内でも起こるのです. 飛行機って, 一度座るとなかなか移動しづらいですよね. トイレに行こうかなと思っても, もう少し我慢するか...って考えあまり動かず, そもそもトイレに行かないようにあまり水分を摂取せずにずっと寝ている方もいるでしょう. ロングフライト血栓症が6時間以上と時間が加わっている点からもわかるとおり, 国内線の様に数時間のフライトでは飛行機内で血栓ができることはあまり心配いりませんが, 国際線, それも長旅の時には注意するという認識でOKです.

血栓ができないようにするためには

飛行機に乗ると, 離陸前に必ず動画が流れますよね. それを自分には関係ないと思わず, きちんと観ることが大切です. 
AXさんは精査の結果, 肺血栓塞栓症でした. 飛行機に乗ってもいないのになぜできたのでしょうか. 話を聞くと, 足を捻挫してからあまり動かず, トイレに行くのも億劫で水分も少なめにしていたようです.
入院患者さんでは, 最近では必ず血栓ができないように弾性ストッキングなど予防をとることが徹底されています. ベッド上に長らくいることになるので, 普段の生活と比べれば確実に血栓はできやすくなりますからね.
Stay homeが続いてはいますが, 適度な運動など規則正しい生活は心掛けましょうね.
日本旅行医学会が, 予防のために以下の7つを提唱しています. 参考にして下さい.

♪明日は革命 蕾のうちに 摘み取れ学生 どうせ死ぬのだ♬
『One Day More』