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④アドレナリンの次の一手を知ろう!

アナフィラキシーを認識したら, アドレナリン筋注, そして細胞外液の投与のためにルートを確保する, 姿勢は臥位, でしたね.
多くの場合, これらを速やかに行うことができれば対応可能なことが多いですが, それでも血行動態が改善しない場合にはどうしたらよいでしょうか?

アナフィラキシーの7 rules

アドレナリン筋注後も症状が改善しない, どうする?

アドレナリンを0.5mg大腿外側に筋注し, 細胞外液も投与しているものの血圧が低い, そんなときはどうするべきでしょうか. 筋注で効果が乏しいのであれば静注する?それも間違いではありませんが, まずはもう一度アドレナリンを0.5mg筋注しましょう(1).
アドレナリン0.5mg筋注後, 5分経ってもバイタルサインが不安定な場合には再投与が原則です. 5〜15分と記載されているものもありますが, 15分待つ余裕はないことも多いでしょう. 5分経過し, 血圧が低い状態が継続しているなど血行動態が不安定であれば再度投与するとよいでしょう(もちろん細胞外液投与も忘れてはいけませんよ).

アドレナリンを繰り返し筋注したのに症状が改善しない, どうする?

アドレナリンを再投与したにもかかわらず症状が改善しない場合にはどうすればよいでしょうか. さすがにアドレナリンの静注..., この場合には選択肢にはなり得ます. 実際にそのような対応を推奨しているものもありますが, アドレナリンの静注は不整脈などのリスクも高く慎重に対応する必要があります(1).
アドレナリンを繰り返し使用しても症状の改善が乏しい場合にはグルカゴンを使用しましょう. グルカゴンはβ受容体を介さずに心筋のcAMPを上昇させ, アナフィラキシーに対しても効果を発揮します. β-blocker内服中の患者での有効性が有名ですが, 内服をしていない症例でも効果を発揮します(2). 副作用の嘔吐には注意する必要がありますが, 使用しやすい薬剤であり覚えておきましょう. 成人なら1-5mgを5分かけて投与です.
合言葉は
『アドレナリン・アドレナリン・それでもダメならグルカゴン』
です(3).

アドレナリン静注

前述したことを実施しても状態が安定しない場合にはアドレナリンの静注の出番です. アドレナリン静注を開始する際の推奨量は1〜10μg/min. 実際には, アドレナリン1mg+生食100mL(10μg/mL)を0.5-1.0mL/kg/h程度で開始し, 適宜増減します(ex. 50kgであれば, 25-50mL/h). 細胞外液 500mLなどが繋がっている場合には, 残量を意識して混注し調整することもあると思いますが, とにかくアドレナリンを静注する際には, 症状, バイタルサインを慎重に診ながら対応する必要があります.

アナフィラキシーに対するアドレナリン静注


アドレナリンを繰り返し筋注しなければならない症例, stridorなど気道狭窄を示唆する所見が認められる症例では, 人を集めて対応することを忘れないようにしましょう. 抗菌薬や造影剤など静注薬によるアナフィラキシーはあっという間にショックに陥ることや気道狭窄が進行することがあります. そのような状態へ陥ってからでは苦慮するため, 危険なサインを見抜き, 人を集めることやコンサルトのタイミングを逃さない様にしましょう.

備えあれば憂いなし

アナフィラキシーを認識したらアドレナリンの筋注, そして細胞外液の投与を行うことは必須です. そして, アドレナリンの1回の投与で不十分な場合にはアドレナリンを再度筋注する, これも異論はないと思います. その後, グルカゴンを静注するのか, アドレナリンを持続静注するのか, この辺りは施設によっては対応が異なるかもしれません.
みなさん, グルカゴンが救急外来の, または院内のどこにあるか知っていますか?アドレナリンは救急外来ではしばしば使用するため把握していても, グルカゴンは知らない方も多いのではないでしょうか. アドレナリンは救急カートなど目立つところにいくつも入っていると思いますが, グルカゴンは冷所保存のため, どこにでもあるわけではありません. また, 数が沢山準備されているとも限りません. どこにあるかわからない方は必ず事前に確認しておきましょうね. グルカゴンを直ぐには準備できなければ, アドレナリンの静注を行うしかありませんから.

グルカゴンの保管場所をチェック

足し算ではなく引き算で!

アナフィラキシーの多くはアドレナリンの筋注+細胞外液投与で対応可能です. しかし, 一定数ショックに陥り対応に苦渋することもあります. そのため, 最悪の事態を想起しつつ引き算的な感覚で対応しましょう. 具体的にはアナフィラキシーを認識したら, 頭の中には以下の様なことを想起し, 不要なモノを消していくのです.
・アドレナリン準備:1mgを最低2本準備(筋注×2, 静注用)
・細胞外液:場合によっては2ルート, それとは別に生食100ml(アドレナリン静注用)
・グルカゴン:保管位置を把握し, 数分で準備できるように
・気道確保:必要あれば酸素投与, 気道狭窄を疑う場合には外科的確保の準備
※抗ヒスタミン薬, ステロイドは必須のモノではなく, 投与する場合も急を要するモノではないので焦って準備する必要はありません.

参考文献

#1. McHugh K, Repanshek Z. Anaphylaxis: Emergency Department Treatment. Immunol Allergy Clin North Am. 2023 Aug;43(3):453-466. PMID: 37394252.
#2. Campbell RL, Li JT, Nicklas RA, Sadosty AT; Members of the Joint Task Force; Practice Parameter Workgroup. Emergency department diagnosis and treatment of anaphylaxis: a practice parameter. Ann Allergy Asthma Immunol. 2014 Dec;113(6):599-608. doi: 10.1016/j.anai.2014.10.007. PMID: 25466802.
#3. 坂本壮. 救急外来ただいま診断中. 中外医学社. 2015.

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