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「話がわかりやすい」って何?

特に採用面接においての話だが、面接官と候補者の間にある認識違いの最たるものは、「どんな話がわかりやすいか」というものだ。

よく面接官は面接後、「彼の話はわかりやすかった/わかりにくかった」と評価の論点にしている。それで合否が決まったりもする。


候補者は、抽象的でシンプルな理屈で表現することが「わかりやすい」と思っている人が多い。

「私はストレス耐性が高く、達成意欲が高いので、どんな困難な目標でも最後まで諦めずに執着心を持って取り組み、やりきります。それだけは自信があります」

確かに「言っていることはわかる」という意味ではわかりやすいとも言える。しかし、採用面接では、これは「わかりにくい話」になってしまう。

なぜならば、面接官がわかりたいのは「言っていることの意味」ではないからだ。「意味」のような抽象的なものではなく、彼らが知りたいのは具体的な「イメージ」なのである。

抽象的な話は「多義的」で一つのイメージに定まらない。だから、数字や固有名詞を出すなどして、具体的な話をしないと、伝えたいイメージが伝わらない。

面接官はイメージがわかないことを「わかりにくい」と言っているのだ。


イメージを知りたい理由の根本は、採用面接は自己アピールの場であるから、候補者はいろいろ良いことばかり言ってくるということにある。

だから、それらが「本当か(信憑性)」「どの程度か(レベル感)」を確かめなければならない。そしてそれを確かめるためには具体的な話を聞いて、イメージを作らなければならない。


いくら聞いても具体的なディテールが出てこなければ信憑性は低い。本当にやった人はディテールを聞けば思い出せる。嘘を付いている人や、人の手柄にタダ乗りしている「あれ俺サギ(あれは俺がやったと、周辺的人物のくせに中心的人物のフリをする)」はディテールを話せない。

また、具体的でなければレベル感はわからない。「カフェで接客のアルバイトをしていました」では、個人経営ののんびりした店で常連客相手に深いコミュニケーションを取りながら仕事していたのか、東京駅のスタバで多数の外国人含む1日1000人のお客様を3人で回しているのかでは、使う能力も難易度も違う。


だから、話を(採用面接において)わかりやすくするには、ともかく「具体的に」だ。

サルでもできるアドバイスだと思うかもしれないが、それが実は難しい。ほとんどの人が全然できていない。


というのも、日本においてはコミュニケーションの高さは、「相手の言わなかったことを、想像で穴埋めして理解する」こととされることが多いからだ。

「以心伝心」「あうんの呼吸」「一を聞けば十を知る」「打てば響く」…全部そう。俳句のように世界一短い詩を持つ民族におけるコミュニケーションのうまさとはまさに「全部言わない」「余韻を残す」ということなのだ。

むしろ、なんでもかんでも説明しつくそうとする人や説明してもらいたがる人は「味わいがない」「深みがない」「ものわかりが悪い」などと評されてしまう。


だから、日常的にはふつうの日本人は話をぼかしてしまう。曖昧な婉曲表現を使う。事実そのものでなく、比喩表現を用いる。

しかし、これらは全て採用面接では(極端に言えば)NGなのである。

私たちのテニスサークルには、昔からやっている上級者と大学から始めた初心者が半々ぐらいいたのですが、両者の間には壁がありました。

たぶん、いや絶対に物理的な「壁」などはなかっただろう。これは比喩表現だ。上級者が初心者を見下していて一体感がなく話しづらい雰囲気のこととかを指しているのだろうが、それならそう言わないといけない。

さらに具体的にはどんな言動から「見下している」「一体感がない」「話しづらい」のかを説明しないとイメージは定まらない(日本人の性として、曖昧表現でも勝手にイメージはできる、してしまうが)。

そのイメージが定まらないと、「壁」を乗り越えて解決したという話の難易度、すごさは全く伝わらないので、評価がしにくい、となる(それか、素人面接官の場合、本当はそれだけの情報ではイメージできるはずはないのに、勝手に印象で想像して評価してしまう)。


ここまで説明すれば、いかに「単に具体的に話す」というだけのことが難しいか、わかってもらえたのではないか。かく言う私もなかなかできないのだが、わかりやすく話すのも一苦労なのである。


ただ…本当はプロ面接官であるというならば、「彼/彼女の話はわかりにくい」とか言ってる場合ではなく、ちゃんと掘り下げて聞いて具体化してわからないといけないのだが、それはまた別の話。

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