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「丁寧な人間関係を構築した先に成功アリ!~『靴を売るシンデレラ』~」【YA73】

『靴を売るシンデレラ』 ジョーン・バウアー 著 灰島 かり 訳 (小学館)
                                                                                                 2023.7.20読了
 

突然ですがみなさんはカントリー・ミュージックって聴いたことありますか?
最近はカントリーも様々な種類があるようで、テイラー・スウィフトが歌うようなポップなものもカントリー・ミュージックのジャンルに入るそうなので、変に古典にこだわらなくてもいいのでしょうね。
 
なぜいきなりカントリーかというと、今回取り上げるYA本の舞台がシカゴからテキサス・ダラスまでドライブしながらひと夏を過ごすロードムービーならぬロードノベルとも言えるお話で、その中に本場テキサスにてカントリー・ミュージックで主人公が踊るシーンがちょっぴり出てくるのです。
 
そ・こ・で、カントリーと言えば『カントリーロード』で有名なジョン・デンバーでしょ。
(オリヴィア・ニュートン・ジョンでも本名陽子でもないです。本家の方です)
 

実は私が高校生の時に、世界史の先生でめちゃくちゃジョン・デンバーに似た人がいらしたのです。
あまりに似ていて気になって、世界史がそんなに得意ではないのに授業が大好きになりました。
“好きと学科点数は比例しない”を体現しましたが(どんな自慢かい!)、きつい思いをした記憶はないです。
 
おかげさまでジョン・デンバーの曲も大好きになり、ベストアルバムまで買って聴いていました。
その中で大好きだったのが、『Annie”s Song(風の中のアニー)』という曲です。
これも、夏!ダンス!明るい!!っていう曲では全くなくて(^^ゞ、歌詞の内容は過去記事でご紹介したバリー・マニロウの『涙色の微笑』のように、めちゃくちゃ愛する女性のことが素敵だ!こんなに愛しているんだ!ということをこれでもかと訴えているような曲です。

( ↓ は「涙色の微笑」を取り上げた記事です)

というわけで今回の“勝手に夏曲”、独断ですが『Annie”s Song(風の中のアニー)』を聴いてみてください。(全然夏曲じゃないのですが…)


余談ではありますが、実はこの曲には多少苦い思い出があります。

私が大学に入って間もなく、サークルの新歓コンパが開かれ新一年生は自己紹介代わりに一曲歌わなくてはいけなくなりました。
 
他の一年生はみんな当時のヒット曲とかアイドル曲を無難に歌ったのに、私はどういう訳かすごく好きなこの曲を英語歌詞で歌ってやろうと思ってしまったのです。
(普段、家で口ずさむほど好きになっていたので大丈夫と思っていました)

出だしはよかったのに緊張していて、すぐに頭の中が真っ白になり、歌詞が全く出てこなくなってしまいました。
 
ただでさえ、「なんで英語の歌?」という空気になっていたのに「それで度忘れ?」という無言のツッコミを感じてしまい、ますます歌えなくなってしまい、穴があったら入りたい心境であったことは想像に難くないですよね。
場がしらけているのは重々わかりました。
空気は人一倍読めるのですが(多分ね)、全くの選択ミスをしてしまったようです。

その後は何を食べて、何をしゃべったかなんてすっかり記憶になく、恥ずかしい思いだけが残ってしまったというイタ~イ思い出です。(大好きなのに…こんな思い出がセットでくっついてくるのです…トホホ)

そんな私の余計な思い出話は置いといて…。

シカゴに住む16歳のジェニは、女の子にしては背が高く体格がよすぎるのをコンプレックスに持ち、逆に美しくモデルの仕事もしている2歳下の妹と看護師の母と3人暮らし。
大好きな祖母は認知症が進み、施設に入れざるを得ず、ジェニはやや心苦しく思っている優しい女の子です。
 
父のアルコール中毒が原因で両親が離婚し、母を助ける為にも靴屋でアルバイトを始めました。
優秀な店長の教えにより、靴屋の店員はお客に対してどうあるべきかを叩き込まれ、接客態度は誰にも引けを取りません。
 
ある日、この靴店のチェーン展開をする会社の年配の女性社長がジェニが働くシカゴ店に様子を見に来ます。
ジェニの客対応を見極め、16歳で運転免許を取得済みなのを確認した社長は、自分のドライバーとして抜擢し、夏休みにテキサスにある本社まで運転するように依頼します。
 
その前にジェニの働く店に、酔っぱらった父親が大きな声を出しながら訪れ、父のことは好きだけど酒浸りで迷惑をかける父に幻滅もしており、一時期でもいいからこの街を離れたい気持ちもあり、社長に同行することを母親に許してもらいました。
 
大きな車・キャデラックを運転するのは初めてですが、何とか高速道路も無事に運転していくジェニ。
社長の指示で、あちこちの支店に立ち寄ります。

そして同じチェーン店ながら店長によって客に対する接遇が異なるのを観察し、靴屋が人々に与える影響なども学びながら靴屋に勤めていることを誇りに感じるようになります。
 

そもそもどうして本社までわざわざ行かなければならないのか。
それは、社長の息子である副社長が、今急成長を遂げている安売りのチェーン店を展開している会社と統合合併の話を進めているのを危惧してのこと。
 
どうやら副社長は、来たる株主総会にて合併を発表し正式に株主に認めてもらい、現社長を退任させようと企てていたのです。
 
ドライブをして各店舗をまわり、ディスプレイや店員と客のやり取りを監察し、全てを学んでいくジェニの前に世界で一番優秀なカリスマ・セールスマンと称されるハリー・ベンダーというダラス店店長が現れます。

また社長の盟友で元靴モデルのアリスが旅に加わり、ジェナを見た目にも変身させてくれ、精神的にも自信を持たせてくれたのです。
 

そしてついに本社ビルにて行われる株主総会の日がやってきました。
果たして社長が築いてきた品質第一・お客様第一の会社は、激安チェーン店と合併してしまうのでしょうか。
社長は会社に残れるのでしょうか。
 
そして、ジェニの未来はどうなるのでしょう…。

今回の本は珍しくビジネスに関わる物語となっており、その中で16歳の主人公が、経験といろんな人物と出会うことで成長していくサクセスストーリーです。
 
若い頃から夫と二人で靴店を一から始め、全国チェーン店にまで築き上げた経営手腕と、安いだけじゃない店のモットーにより客の求めるものを見抜き丁寧な接客で顧客を獲得してきたという自負を持つ老社長。

しかし老齢には勝てずたよりの夫も先に失い、傷ついた体をも鞭打って動くには心許ないにもかかわらず、上質スキルを持った伝説のカリスマ店員と昔からの親友、そして信頼のおける相棒となったジェニを伴って、利益のみを追求しようとする息子の牙城に切り込んでいきます。

その間、まさかの衝撃の出来事も起こってしまいます。
 
しかしながら社長は本社にたどり着くまでに、「この店のディスプレイとこの店員の接客態度は全然ダメだろう」という場所と、「カリスマ店員のいる店」の違いを確認させ、営業とは何かをジェニに教え込みます。

そもそもジェニには父親譲りの営業の才能が備わっていました。
アル中のため愛想をつかしている父ですが、その営業能力はジェニも認めています。
 
このひと夏の長いドライブを通してコンプレックスをも克服し、大人社会に敢然と突入していき自分に自信を持ったジェニは、困った父親を更生させるために厳しい決断をするのです。
 

ここまでの環境に身を投じるなんてことはそうそう巡り合えるものではありませんが、主人公たちに心が没入し読み進めていくごとに、高揚感と達成感を共有できて、すっきり爽やかな読後感を持てます。
 

現代のどこかもやもやした世界に生きる若い子たちには、努力した後の成功を自ら手に入れるという体験が必要だとしみじみ思います。
 


 


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