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「夢とあこがれが現実になるまでの途中で出会う苦悩…『映画化決定』~」【YA65】

『映画化決定』 友井 羊 著 (朝日新聞出版)
                           2018.4.5読了
 
高校生のナオトは漫画を描くのが好き。
今は離婚して家にいない父親の影響で、小学生の頃から描いていましたがその頃、天から何かが下りてきたかのように無心に描いたひとつの漫画があまりにも完璧すぎて、その後どんなに描いても、その作品を超えるものが描けないでいました。
 
ある日学校で、教室の机に置いていたその作品のネーム(漫画のあらすじをコマ割りで大雑把にかいたもの)を描いたノートを、ある女子生徒に勝手に読まれてしまいます。
この傑作だけは、幼馴染の杏奈にさえ読ませていなかったというのに。
 
そしてその読んだという女子生徒ハルから、突然この漫画を映画化したいと頼まれてしまいました。
絶対に断るつもりだったのに、学校の映画部についつい関わっていくうちに、その申し出を承諾するはめになってしまいます。
 
なぜなら、ハルは中学生の頃から映画監督としての天才的な才能を発揮し、数々の賞を総なめしていた天才少女だったのです。
おまけに彼らが通う映画部には、天才ハルがいるためか、高校生が使用するには高度すぎるほどの本格的な機材が十分に備わっていました。
 
映画化が決まり、配役もオーディションを行い幼馴染の杏奈がまさかの主人公に抜擢され、原作者として見届けたいナオトも制作に加わることになります。
 
 
映画化するに当たり、よくある原作からの様々な変更が余儀なくされたり、役者が(杏奈だが…)途中で役者魂に開眼したり、映画を制作するなかで様々な過程を経験していくうちに、間近にいたナオトにもいろんな心の変化が現れてきます。
 
またハルの、高校生なのにいい作品を作るためには妥協しないやり方の中に、本格的な制作者としての心構えを見出し、自分の作品ときちんと向き合うようになるナオト。
 
それは、自分と母親を残して出ていってしまった、そして自分に漫画というものを教えてくれた父親の過去と今を見つめ直し、小学生のときの作品を超えられない自分の内面をも知ることにもなるのでした。
 
そんな中で、ハルが映画製作途中で倒れてしまいます。
 
部員やナオトたちに秘密を抱えていたハル。
 
そして、どうにか映画が完成した時、ハルはみんなに大きな仕掛けを施していたのです。
誰もが、読者も含めてその仕掛けに引っかかっていました。少なくとも私は…。
 
数年が過ぎ、当時の部員たちと連絡をとりあううちに、その仕掛けの秘密を知ることになるナオト。
 
最後にナオトはやっと小学生の時の作品を超えられそうなものがひらめくのです。
それはきっと、世に出たら「映画化決定」となるのに間違いありません。
 


 
今のYA世代が、一度は夢みる漫画家やメディア関係の職業に注目した作品です。
あこがれの職業と考えるきっかけはひとりひとり違います。
ここでは主人公は漫画をこよなく愛していますが、そのきっかけは父親という存在。
これはまさに特別な思いの詰まったきっかけではないでしょうか。
 
しかしそのあこがれを純粋に現実化する過程で、ナオトは小学生の時からずっと苦悩の連続で、そうそう甘くないことを思い知らされてしまいます。

逆に、ハルは早くからその才能を発揮し、天才と賞賛・認知され、思うように自分の描きたいものを映像化していこうとします。
 
でも現実はそれほど上手くいくばかりではありませんでした。
しかし、その現実を受け入れながらも、未来にまで思いを寄せているハルはなんと強い女の子なのでしょう。
そして映画部に集うメンバーたちも、天才ハル監督の名に恥じぬよう頑張っていい作品を作ろうとしています。
 
そのようなハルと関わったことで、ナオトは大人になっていけたのではないでしょうか。
お互いに関わることで良い影響を及ぼしあう若い時の仲間。
そんな友だちや仲間を今の子どもたちはどのくらい持てるでしょうか?
 

それは私たち大人でも言えることですね。
ここnoteで出会えた方たちは、リアルでお会いできないのにとても素敵な方たちばかりで、皆さんが書かれている記事が少なくとも私の心には良い影響を与えてくださっていると思います。

果たして自分が読んでくださっている方々に、いったいどのような影響を与えているのか、そもそも影響などあるのか、あったとしてもマイナスになっていないか、この時点でふとそんなことを考えてしまいました。
 

今、現実世界でちょっと悩ましいことが起こっており人間関係の複雑さを痛感していますので、ちょっとネガティブな最後になってしまい申し訳ありません。
子どもたちにはっぱをかける前に「自分、がんばれ」と言いたいです。
 
 


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