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≪intermission⑩≫ 子どもに本のたのしみを

                          2006.4.21記録

今回もまたまた、かつて勤めていた図書館で出会った人について書こうと思います。
大きな図書館になる前の、公民館図書室でのことです。
 
当時狭い中にびっしり本棚があり、古い本がぎちぎちに並んでいました。
受付のテーブルと平成の頃にやっと導入されたパソコンは、オリジナルのシステムで図書原簿(蔵書リスト)に受け入れと削除くらいしかできず、貸出・返却はまだ手書きの受付簿に利用者本人に記入してもらう方式で、今思うと本当に面倒だったと思います。
 
そもそも町民のほとんどが図書室の存在を知らないし、知っている人は本当に本好きな方だと思われ、一日の利用者数は一人のスタッフで対応できるほどでとにかく少なかったのです。
(三人のスタッフがシフト制で、午前・午後と交替でやっていました)
ですから、少ない利用者の中で強烈に記憶に残る方という存在もいらっしゃいます。
 
ま、そのようなローカルで極小の図書室勤務の中で記憶に鮮明に残る出来事を、今回は書いてみようと思います。当時、日記形式でかつて利用していたブログに書き残していましたので、それを転載・加筆いたします。

最近(2006年当時)うちの図書室に、ちょっと気になるおばさまを見かけるようになりました。
年はもう50代か60代前半と思える方のようで、お孫さんを一人連れて来られていました。
 
そのおばさま、おそらくご自分の読みたい本を探しに来られているようなのですが、見ていると2~3歳くらいと思われるそのお孫さんもどうやら絵本を借りていきたい様子は明らかでした。
 
普通は「はい、じゃあ何か好きな絵本を選んでごらん。」とかなんとかいうセリフが聞こえてくるのですが、その、おばあちゃんと言える立場の方ですか、孫にいうセリフが
「ダメ!○○ちゃんは本なんか読まないじゃない!」(おっ!?ええっ!?)
 
で、その男の子はどうしても借りたいとダダをこねているのです。(当然といえば当然か)
でもそのおばさま、
「もう!!○○ちゃんは!言うこと聞かないならママのところに連れてってあげないよ!」
としかりつけて、最初にお見かけしたその日は自分の読む本を借りただけで無理やり連れて帰られました。
そりゃあもう、その男の子はずっとダダをこね続けていました。
「絵本!絵本かりる!!」って。
 
私は悲しくなりました。なんで借りてあげられないの?って疑問がわきました。
利用は一人5冊までOKです。
おばあちゃんは、ご自身の分を3冊くらい借りられたからあとの2冊くらい絵本を借りられたはずなのです。
どうして借りてあげられなかったのか?せめて1冊だけでもいいのに。
 
ひとこと声をかけてあげるべきだったのか?と少し悩みました。
でも保護者つきの場合、あまりこちらの意見を押し付けられないというジレンマがあります。
 
そしてまた後日、同じこのふたりが入ってこられました。おまけに今回はおじいちゃんもいっしょ。
おばさまはいつものように自分の読みたい本をもくもくと物色中。
そして例の男の子はおじいちゃんに手を引かれ待っている様子です。
そのうち、「ボクも本借りたい!」とやはり言い出しました。
 
「ダメダメ!○○ちゃんはもう!言うこと聞かないならママに言いつけるよ!おじいちゃんと外で待ってて!」
とおばさまの声がとんできました!
で、無理に手を引っ張って外に連れ出そうとするおじいちゃん。
男の子はすっかり機嫌を悪くしてぐずりだす始末。
「借りたい!!絵本借りたい!!」
 
なんて悲痛な叫びでしょう。
そうして孫を外に追い出したあとのおばさまはゆっくり本を物色。
でも一連の騒ぎを私が見ていたのをおばさまが気づいたのでしょう。
 
「ホントに言うこと聞かなくて。あの子はね、本をしっかり読むことができないんですよ。読んであげてもすぐ飽きるから、ページをペラペラペラ~って自分でめくってしまうんですよ。」と言い訳めいたことをおっしゃったのです。
 
なるほど、それでわかりました。
最低一度は読んであげようとはしたことがあるんですね。
で、自分たちの思い通りに聞いてくれなかったから懲りて、勝手に封印しちゃったんですね。
 
「そうですか。まあ、あのくらいの年齢の子は個人差があって、しっかり読み聞かせを聞いてくれる子と、そんなに興味を示さない子といろいろですから。初めは本人が気に入るような絵本や、あまり長くないお話のものとか、文字がほとんどないものもありますから、そのあたりから始められたらどうでしょう。」とアドバイスしてみました。
 
「そうねえ…でも、何冊かいろいろ与えてみたけど、どれもすぐ飽きてダメだったのよね~。なんども同じところに戻ってまた読んで~って言ったりするし、すすまないのよね。」
 
はいはい、子どもは繰り返しが好きですから!
同じフレーズを繰り返す絵本とかもすすめてみたのですが、おばさまはどうにも興味を示さないんです。
 
そこで何か遊びながら読めるようなものはないかと探して
『きんぎょが にげた』(五味太郎・作  福音館書店)
をすすめてみました。
金魚鉢からにげだしたきんぎょが、いろんなところに姿をかくして、どこにいるのか当てっこするという遊びができる絵本です。
 
するとおばさま、これにはちょっと心を動かされたようで、
「ふ~ん…これなら少しは喜んで見てくれるかな…?」
とその本1冊は借りていってくれましたよ。よかった~~。ほっと一安心でした。
 
どんなに読んでくれなかったり興味を示さなかったりしても、そばに絵本があるのと全くないのでは、その子が本好きになるか運命を左右しかねないと思います。
おおげさではなく、小さい子どもの先の未来なんて対応次第で予測不能ですから、できるのであれば本を周りにおいてあげてせめて自分で選ばせて欲しいし、手の触れるところに絵本があるという環境をつくってあげてほしいです。
買いそろえるのは大変ですから、そのために図書館(室)は存在するのです。
 
 
それにあんなに借りてもらいたがっている子どもを、脅して借りさせないなんて、かなり衝撃でした。
あのような対応ばかり受けていると、トラウマが高じてあのお子さんは本嫌い、図書館嫌いになってしまう可能性だってあるのに。
 
またおじいちゃん、おばあちゃん、お母さん、お父さんもいっしょに来て絵本を選んでほしいなと思っていましたが、なにせシフトで仕事していてその後はお会いできていませんでしたので、果たしてお孫さんが絵本を気に入ってくれたかどうかわからないままというのがちょっぴり心残りです。
 
あの男の子、そのまま本好きになってくれているかなあ?
もうすっかり大人になった頃ですね。


 



もう一週間前にいただいたのですが、記事アップのついでにしようとしていたので今頃です。
まさかの児童書『ジベルニーのシャーロット』の方でいただいてしまいました。みなさま、いつもありがとうございます。

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