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「自分の思いを閉じ込めてしまいがちなあの日々~『水槽の中』~」【YA68】

『水槽の中』 畑野 智美 著 (KADOKAWA)
                          2018.8.23読了
 
突然ですが、夏になると思い出したり、ふと口ずさんだりする好きな曲がいくつかあります。
その歌詞の内容は“夏”とは関係がないのですが、なぜかそのメロディの持つ雰囲気だけで、勝手に“夏”を思い描いてしまいます。
 
よかったら今回の記事から当分、そんな私だけが“夏”と感じるイメージソングを聴きながらお読みください。
今回は、まだ幼い時にラジオから流れてきていい曲だなあと思ったアルバート・ハモンドの『カリフォルニアの青い空』です。
夏とは関係ない内容だと思いますが、ほら、カリフォルニアだし、青い空だし、夏っぽいじゃないですか。てへへ…
 

梅雨もまだ半ば、でも今週末は中休みで晴れ間が出る模様です。
そんな時は、カラッとした曲でも聴きながらお洗濯もいいですね♪

桜並木が坂道に沿っていて、海も見える近くのその風景に魅了されこの学校に入学を決めた高校2年生の遙|はるか
中学時代は陸上に打ちこんでいましたが、自分の記録の限界を知り、高校生になってからは帰宅部です。
別の中学でしたが試合でよく見かけていた友・マーリンも、同じ高校に入学後は同じように帰宅部を続けています。
遥にとっては数少ない気の合う友達です。
クラスメイトで考古学部の男子・バンちゃんとアルトとは、気安く喋れる仲間。
 
ところで遥は、別に不登校したいわけではないのに、時々急に学校をサボりたくなります。
 
ある日学校へ行こうと家を出たのに、やはりこの日もどうしてか足が学校へは向かわず、水族館へと来てしまいました。
同じ日たまたまいっしょにサボってしまったアルトとはそれまで単なる友達だと思っていたのですが、その日からやや気になる存在となりました。
決してイケメンというわけではないのに…。
 
「でも自分には憧れのかっこいい3年生の先輩がいるんだ!」とひとり納得して、自分にとってアルトはやはりただの友達だと思いこむのでした。
 
その後日マーリンとともに学校内にあるバラ園で昼食を食べていた時、二人は学校一かわいいクラスメートの川西さんがひとり、密かに動画撮影をしているところを目撃します。
その動画はネット上にアップされたあと、思わぬ形で学校で有名になってしまいました。
 
川西さんは将来アイドルを目指し、その練習の意味で動画を撮りアップしていたのですが、校則違反に抵触すると学校で問題になってしまいます。
 
しかしそこで救いの手を差し伸べたのがアルトでした。
バンちゃんによると、アルトのあこがれの人が川西さんだといいます。
そして、その事件からアルトと川西さんは急速に接近していくのでした。
 
そんな二人のことを遠巻きに見ながら、遥の気持ちは穏やかではなくなっていきます。
しかし遥は自分の気持は心の奥底に押し込めてしまいます。
 
夏の花火大会の夜、いきさつ上ふたりきりになったってしまったアルトと遥。
その時のある突然の出来事に、ふたりの仲が一気に離れてしまうのでした。
 
いったいアルトはなぜ?
どういう気持なの?
何を考えているのか、わからない…。
 
 
 
何も変わらない日常に時折不安になったり、恋なのかどうか、自分でもよくわからない気持ちに揺れる心を持て余しているのです。
 
多感な時期に起こるちょっとした事件や、ありがちだけど共感できる青春の一コマ。
切ない気持ちが染みる、少女の頃の記憶がよみがえります。

表題の“水槽”は、時々遙がサボタージュする場所である水族館を指していると思いますが、遙のついついぐっと押し込めてしまいがちな心の中をイメージしているのではと思われます。
 
もっと自分を出してもよさそうだけど、他人のことを先に思いやって、そのせいで自分はモヤモヤしてしまうという上手くいかない心の状態は、青春時代だけとはいわず大人になった今でも、複雑な人間関係の中で生きる私たち大人でもよくあることです。
 
そんな大人にはどこか懐かしくも、また現実問題としてもひどく共感できるのではないでしょうか。
 
わかっていたはずの意中の人物の心が突然読めなくなってしまう不安や疎外感に、振り回されてしまう自分が自分でもよくわからない主人公のように、閉じ込められてしまった思いに溺れてしまわないように、時々心の状態を確認することも重要なんですよね。
 


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