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「脊髄損傷」についてあなたに知ってもらいたいコト 【#キナリ杯】

あなたは脊髄損傷をご存知でしょうか?一度はお聞きになったことがあるかと思います。しかし、その実態は全く分からないのではないでしょうか?

確率は低いものの、脊髄損傷は誰しもがいつ受傷するか分かりません。普段と同じように朝家を出て交通事故に遭遇し脊髄を損傷する、仕事中の不慮の事故、最近では転倒のような軽微な外力によっても頚髄を損傷してしまう高齢者が増加傾向です。

もし、あなたが突然、脊髄損傷になったら?

もし、あなたのご家族が突然、脊髄損傷になったら?

もし、あなたの大切な人が突然、脊髄損傷になったら?

あなたに知ってもらいたいコトがたくさんあるんです。

ぜひこの機会に現在の日本における脊髄損傷医療・リハビリテーションについて理解を深めていただきたいと思います。

このnoteを読んでいただくことで以下の点が理解できると思います。(*脊髄損傷の全てが理解できるわけではありません)

1.脊髄損傷のあれこれ

2.脊髄を損傷してから自宅へ帰るまでの流れ

3.日本の脊髄損傷に関わる医療保険制度(2020年度から改定された診療報酬について)

4.日本の脊髄損傷を取り巻く医療・リハビリテーション分野での課題

5.現在の私の取り組み

6.脊髄損傷医療・リハビリテーションの未来(私の希望も含めて)

それではよろしくお願いします。(*1:このnoteは脊髄損傷当事者、そのご家族や関係者、一般の方、全ての皆さんへ向けてお話させていただきます。2:長くなってしまったので目次からご興味のある章だけ読んでいただけるだけでも嬉しいです。)


自己紹介

初めまして。簡単に自己紹介をさせていただきます。私は理学療法士(地域の中核病院に位置付けされている総合病院でリハビリテーションに従事してます)という仕事をしています。病院で脊髄損傷者(頚髄損傷者・胸髄損傷者・腰髄損傷者。慣例的に頚髄損傷者は頚損;ケイソン、胸髄損傷者(キョウソン)および腰髄損傷者(ヨウソン)はまとめて脊損;セキソンと言われることが多いです)のリハビリテーションに関わらせていただいております。医療・リハビリテーション分野での脊髄損傷を取り巻く課題は非常に多岐にわたります。私は回復期リハビリテーション病棟(あとで詳述します)で脊髄損傷者のリハビリテーションおよび退院支援を仕事にしております。

普段、SNSでの情報発信は脊髄損傷当事者・ご家族や理学療法士等のリハビリテーション職に向けて行っておりますが、今回は岸田奈美さん企画の #キナリ杯 に便乗させていただき、「脊髄損傷」についてあなたに知ってもらいたいコトとして当事者だけではなく広く一般の方にもお話を聞いていただきたいと思い、このnoteを書かせていただきました。

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脊髄損傷を負った芸能人

さっそくお話を始めさせていただく前に、まずは脊髄損傷を負った芸能人の方々を数名ご紹介させていただきます。

クリストファー・リーブさん

映画『スーパーマン』でおなじみのクリストファー・リーブさん。1995年の落馬事故で頚髄を損傷されました。クリストファーリーブ麻痺財団(Christopher Reeve Paralysis Foundation:CRPF)を設立され脊髄損傷等の中枢神経系の障害に対する治療開発の研究助成に尽力されました。

滝川英治さん(Twitter公式アカウント:@eiji_takigawa

俳優。2.5次元俳優として活躍されてました。滝川クリステルさんの従兄弟。ドラマ『弱虫ペダル Season2』(BSスカパー!)の撮影中の事故で頚髄損傷を負われました。受傷後の様子がドキュメンタリーで描かれています。非常に貴重な映像作品ですし、何より滝川さんの何事にも一生懸命に取り組む姿に誰もが何かを感じることができると思います。私がいろいろお話するよりもこのような作品をご視聴される方が良いかも知れません。以下にリンクを貼っておきますのでぜひご覧になっていただきたいです。

滝川英治ドキュメンタリー👇

それでも前へ https://youtu.be/s7XwUK5KeFA

それでも前へ プラスワン https://youtu.be/MGYi9S4Y1LY

高山善廣さん(Twitter公式アカウント:@Takayamado

プロレスラー。PRIDEでのドン・フライとの殴り合いは伝説ですよね。2017年の試合中の事故により頚髄を損傷されました。

谷垣禎一さん

自民党前幹事長。2016年、自転車運転中に転倒し頚髄を損傷されました。元関脇・豪風(押尾川親方)の断髪式で、立ち上がり大銀杏にはさみを入れた姿は印象的でした。

猪狩ともかさん(Twitter公式アカウント:@igari_tomoka3

仮面女子のメンバー。2018年に強風で倒れてきた木製の案内板の下敷きとなり受傷されました。車椅子での始球式の写真がめちゃくちゃ良い写真だったのであげたかったんですが著作権の関係で断念しました。今も変わらずご活躍されています。


1−1 脊髄損傷のあれこれ:メディア報道の危うさ

メディアが取り上げる「脊髄損傷」の危うさ、鵜呑みにしてはいけない

あなたは脊髄損傷と聞いて何を思い浮かべますか?

車椅子に乗っている人、歩けなくなる、足が動かない、手は動かせる、交通事故や高所転落のような強い衝撃で起こる、パラリンピックetc

いろいろ想像されると思います。それはすべてとは言いませんがメディアから発信される情報によって受け取っている脊髄損傷のイメージが強いかと思います。なので皆さんがイメージする脊髄損傷者っていうのはあくまでも一部のメディアに取り上げられたイメージであることも多いことを認識していただきたいです。

例えば、脊髄損傷者の中には車椅子に乗っていない方もいます。歩ける方もいます。足が動かせる方もいます。足は動かせるけど手が動かしにくくなる方もいます。様々な症状の方がおられます。

臨床で良くある話ですが、当院では同じ時期に複数人の脊髄損傷者を受け入れることがよくあるのですが、それぞれで仲良くなりお互いの話をするんですね。「俺は事故で頚髄損傷なったんよ」とか「腹筋効くんや、俺は全然やで」とか、お互いの症状についてやはり気になるんだと思います。そんな時、私たち理学療法士に質問されることがあります。「あの人、頚損なのに何で足動くん?」「頚損なのに何で歩けるの?」というような質問です。

なぜそのような質問が出るんでしょうか?

それはイメージが先行しているため(先入観)だと思っています。「脊髄損傷(者)とはこうだ!」という感じで、その大方のイメージはメディアが発信する情報であることが多いと思います。

実はこの先入観が危ないんです!!

人間というのは自分の先入観とギャップがあると何か違和感を感じるものだと思います。こんなエピソードがあります。

車椅子と杖歩行を移動手段として併用されている方がいて、出先で障害者用トイレがなく車椅子で行きにくいトイレの場合は杖を使って歩いて行ったりされます。そんな時に「歩けるのに何で車椅子に乗るんだ?」のように相手の立場を全く理解できていない発言をする方も一部おられるようです。

他にも、テレビで歩けるようになった頚髄損傷者を見て「俺も歩けるはずだ。歩くリハビリをしてくれ」(←諦めろと言っているわけではありません。この発言の対応の難しさについては後述します)とおっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、現実には歩行の再獲得が明らかに厳しい方もたくさんいらっしゃいます。私個人の意見ですが、メディアが好んで使うワード”奇跡の回復”って言うものないと思っています。私はこの表現があまり好きではありません。もちろんご本人がそう感じることは何も悪いことではないです。しかし、それが人目に晒されるような場所で表現するのはどうなんかな?という意見です。「厳しいリハビリを乗り越えて歩けるようになった奇跡の回復」なんて見出しはよくある話ですが、そんな目を引くような見出しには踊らされない方が良いと考えています。

メディアはインパクトのあること、目立つことを誇張して取り上げがちなことが多く、世間に脊髄損傷の誤った先入観を植え付けている気がしてなりません。実際にはメディアで取り上げられない、ほんとにたくさんの脊髄損傷者の方がいらっしゃいます。その方々の声は世間には届きにくいのが現状ではないでしょうか。メディアは両者の現状を取り上げて現実を、ありのままを報道すべきではないかと思います。

そう言った意味でも、冒頭でお伝えした滝川英治さんのドキュメンタリー映像は、今まで見た脊髄損傷(頚髄損傷)を取り上げた内容の中では一番リアルに感じました。ありのままを描かれていると感じました。滝川さんご自身の意向でもあったようです。ぜひYouTubeでご覧になってください。

上述したように脊髄損傷と言ってもその症状は多岐にわたります。いろいろな症状を持つ脊髄損傷者がいらしゃることを私はまず知ってもらいたいです。

では脊髄損傷ではどのような症状があるのでしょうか?簡単にいうと、頚髄損傷であれば頚から下、胸髄損傷であれば胸から下、腰髄損傷であれば腰から下の身体機能に何らかの症状が出ます。

1−2 脊髄損傷のあれこれ:脊髄損傷によって生じる様々な症状について

目に見える症状目に見えない症状

おそらくあなたが脊髄損傷と聞いてイメージするものは目に見える症状ではないでしょうか?手足が動かしにくくなる、立てない、歩けないのように目で見て分かる症状ですね。

しかし、実際に脊髄損傷当事者を悩ませる症状というのは目に見えない症状であることが多いです。そして目に見えない症状は時に生命を脅かすこともあります。目に見えない症状なだけに、一般の方の脊髄損傷の理解が進まない一因でもあると思います。

ここでは特に目に見えない症状、また脊髄損傷当事者の方からすれば、周囲にはあまり知られたくないであろう症状をご説明いたします。ではその症状とは何か?

❶排泄障害(膀胱直腸障害)

排泄機能が上手く働かなくなってしまうんです。例えば、おしっこが溜まっている感覚がなくなる、勝手におしっこが出てしまう、ウンチを漏らすetc

この排泄機能が上手く働かなくなるとどうでしょうか?一度ご自分で想像してみてください…。

いつ漏れるか分からない不安な状況で積極的に外出できるでしょうか?中々できないと思います。

しかし中には…

脊損者の方々は復職、復学など積極的に外へどんどん繰り出しておられる方もいらっしゃいます。なぜそんなことができるのか?それはご自身で排泄コントロールができているためなのです。

排泄コントロールとは?

文字通り”排泄(排尿と排便)”を”コントロール(調整)”しているんですね。1人の若者とのエピソードがあるのでやんわりと紹介させてください。

Aくん)車の免許取りたいねん!

)じゃあとりあえず生活リズム整えなあかんやろ?めっちゃ夜更かしして朝起きれへんやん。自動車学校行くバス出発するの朝の7時半やで。Aくん起きるの9時。導尿(尿道から膀胱まで管を通して排尿する方法)は自分でできるからええけど、排便のコントロール付いてないやん。自動車学校で漏らしたらどうするん?

Aくん)あーめんどくさ!もうええわ!

病院を退院し、社会的リハ(復職、復学、一人暮らし、自動車運転etcなど社会復帰に必要なリハビリ)の位置付けで関わってくれる場所があるんです。それを自立支援施設と言います。そこでは自動車運転の支援をしてもらえます。先ほど「自動車学校で失便したらどうするか?」と話を出しましたが、もし自動車学校で失便してしまったら自立支援施設の職員が迎えに行く場合、自動車学校の教官が自立支援施設まで送迎してくれる場合があり、それぞれの自立支援施設で対応が異なります。自立支援施設については後ほど説明いたします。

このように排泄コントロール、特に排便のコントロールが付いていないと社会生活を送る上で大きな支障をきたす場面が多々あります。私は生活リズムについて言及しましたけど、排便をコントロールするには規則正しい生活リズム、自分の体にとって排便習慣を作りやすい食事管理、血圧変動が大きい頚髄損傷者にとっては血圧管理が重要となってきます。例えば私の場合、お酒を飲み過ぎると次の日はお腹がゆるくなってしまいます。このように食事内容によっても人それぞれ違うんですね。

彼の場合は暴飲暴食、生活リズムが夜型と排便コントロールがどう考えても付かない生活をしていたわけです。にもかかわらず「車の免許を取りたい」と言ってしまう。自分の希望を叶えるにはその前にまずやるべきことがあるんです。それが排泄コントロールと言うわけです。まだまだ遊びたい盛りに非常に酷なことを要求せざるを得ないわけですが、やるしかないんです。

ただし、どれだけ自己管理をしっかり行っていても失敗(漏らしてしまう)することもあります。そこで大切なことが2点あります。

①失敗しないようにコントロールする

②失敗した時にどのように対処すれば良いかをシミュレーションしておく

この2点が大切です。

では、病院では具体的にどのような関わりをしているのでしょうか?(*トイレでの排便を目標としている脊髄損傷者への対応を想定してお話します)

■①失敗しないようにコントロールすること

①については主治医、看護師が中心となり服薬管理(下剤、座薬、浣腸)を行い、ベッド上での便処置(浣腸や座薬を挿入し自然排便がなければ摘便と言って指で便を掻き出して処置をしてくれます)を看護師が行ってくれます。私たち理学療法士や作業療法士はトイレで排便するための身体機能の獲得を目指します。

そもそもトイレでの排便をなぜ目指すのでしょうか?つまり、座って排便する意義って何なのでしょうか?

それは効率的な排便を促すための理由①重力の影響②直腸肛門角が関与します。寝転んだ状態で排便をするところを想像していただくとなんとなくイメージできるかなと思うんですが、排便しにくそうですよね。実際「寝たままでできるかっ!」とか「お通じは良い方だったのにね」とおっしゃられる方がおられます(*姿勢の影響だけではなく、脊髄損傷を負うことで腸管の働きが低下する、定期的な運動ができなくなり腸の活動が低下するんです。また排便習慣に運動が良いことはお聞きになったことがあるかと思いますが、寝たきりであれば尚更運動が困難となります)。寝転んだ姿勢だと座っている状態よりも排便で重力の影響を受けにくくなります。そのために排便しにくくなるということが1点。もう一つが直腸肛門角(下図参照:URLを貼ってますのでご参照ください。とても分かりやすくまとめられてます)です。まずAですが、これは寝転んだ状態ですね。Bが座っている状態(前もたれ座位)、Cが後ろもたれ座位です。Bでは直腸と肛門の角度が鈍角(より直線に近い)となり便が出やすそうですよね。CでもAに比べると良いですがBよりも直腸と肛門の角度が鋭角ですね。つまりBよりもスムーズには出にくそうなのはご理解いただけるかと思います。結果、排便に有利な姿勢はBの前もたれ座位ということになります。

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では脊髄損傷者の場合、どのように前もたれ姿勢を取れば良いのでしょうか?体幹機能が効かない状態では前に倒れてしまいそうで危険ですよね。そんな時には良い福祉用具があるんです。当院ではイデアシステム株式会社の「楽々さん」をトイレに置いてあります。(下記HPをご参照ください)

便座に座れない方の場合はシャワーキャリーといって入浴やトイレ用の車椅子があります。

少し前置きが長くなりましたが、本題に入ります。

脊損者の排便時間ってどれくらいだと思いますか?これはほんと個人差が大きいのですが、短い方では健常者と同じくらい、長い方だと3時間とか、もっと長い場合は1日を排便の日としている方もいらっしゃいます。出し切れるまで何度もトイレを往復するような感じです。なのでまずはとにかく座れる体力を付けないとダメなんです。

「座れる体力」ってどういうこと?座るのに体力なんかいらないでしょ?と思われるかも知れませんが、座るのにはかなりの体力を要します。これを理解していただくためにまずは起立性低血圧という症状をご説明いたします。

起立性低血圧:これは皆さんも経験があるかも知れません。寝転んでいたり座っていたりしてて急に立ち上がるとフラッとした経験はありませんか?通常、私たちの体は血圧を一定に保つような仕組みがあります。しかし脊髄損傷となるとよっぽどの軽傷例ではない限りしばらくはベッドで寝たきりの状態になります。寝たきりの状態が続くと血圧を一定に保つ仕組みが必要なくなります。寝転んだ状態というのは血液が重力の影響を受けないためです。しかし、立位になると血液は重力の影響で足の方へ下がってしまいます。つまり血液が脳へ回る量が減ってしまいフラッとしてしまうんですね。そこで体は自然と血液を心臓へ戻そうと働きます。しかし、長期間の寝たきりで体に本来備わっている仕組みが上手く働かなくなってしまい、立ち上がった時(実際は座った時でも起こります)に低血圧を起こすことで”起立性”低血圧と呼ばれています。脊髄損傷者の場合にはその症状が強く出てしまいます。座ったり立ったりした瞬間に失神してしまいます。この起立性低血圧ですが、実際のところなかなか良くならないんです。個人差はありますが、長期間低血圧症状に悩まされる方も多いです。

さらに、排便後には血圧が急激に低下することがよくあリます。これは便が溜まっていると腹圧が上がるので血圧が保たれるのですが、便が排出されることで腹圧が保てなくなってしまい血圧が急激に低下してしまうためです。これも脊髄損傷者特有の症状といえると思います。健常者ではそのような症状は出ないですよね。そのため、トイレでの排便練習が始まると最初は目が離せません。低血圧で倒れるかも知れないので。どうするか?私たち理学療法士や作業療法士がトイレ内で立ち会います。病棟看護師さんは1人の患者さんに付きっきりになると他の患者さんの看護ができなくなるため、リハビリの時間を利用して排便トレーニングを行います。排便中に誰かが隣にいるのってご本人からすれば嫌ですよね笑。もちろん事前にご説明し同意を得てから行います。しかしご本人からしてもベッド上で摘便をされるよりご自分でトイレで排便したいという希望が強いため頑張ってもらえることが多いです。

また脊髄損傷者にとって座るということはバランスを保つために健常者よりも必要以上に体力が消耗します。その理由はいろいろありますが、バランスボールに座っている状態を想像してください。脊髄損傷では体幹機能が効きにくくなる、あるいは全く効かないですし、お尻の感覚も失われます。すると、常にバランスボールの上に座っているような感覚になってしまうのです。

以上のようにトイレでの排便を目指すには座れる体力をつけることが重要ですが、座れる体力をつけるのは非常に大変ということがご理解いただけたかと思います。座れる体力をつける最も簡単なことは「とにかく座る」ことです。そのために関わり方の工夫などもお話したいんですが、話が飛びすぎるので割愛します。

②失敗した時にどのように対処すれば良いかをシミュレーションしておく

失敗しないに越した事はないんですが、私たちでもそうですが、常に調子が良いことってありませんよね。風邪もひくし、お腹を壊すこともありますよね。それは健常者だけではなく脊髄損傷者も同じです。しかし健常者であれば「あー、腹痛てー」となるとすぐにトイレに駆け込むことができますが、お腹が痛い感覚がわからなければどうでしょうか?(代償便意といって急激に血圧が上がる、冷や汗をかくetcで判断できる方もおられます)トイレに行くまでに漏れてしまいますよね。それが会社にいる時だったら?学校の授業中だったら?電車に乗っている時だったら?どうですか?それこそ冷や汗が出ますよね。しかし出てしまったものは戻せません。自力でそれを処置するしかないんです。なので病院にいる時から失便(便を漏らしてしまう事)したら自分で処置できるように練習してもらいます。事前に失便したら防水シートを引いて、お尻を拭いて、ズボンはこうやって脱いでetcですね。理想を言えば職場や学校、お出かけ先にベッドのように広いスペースがあると処置しやすくて良いのですが、都合よくベッドがあるわけでも無いですよね。職場であれば私たちセラピストが患者さんと一緒に出向いて動線確認(移動スペースの評価)、トイレチェックなどで訪問調査をさせていただくことがあるのですが、その時に必ず失便した際に処置する場所があるかどうかをチェックします。なければできる範囲でそのようなスペースを確保していただけないかお願いをします。このようにどこかへお出かけされる際にも事前確認が必要かと思います。

このように、脊髄損傷者にとって排泄障害(膀胱直腸障害)というのは日常生活に多大な影響を与えます。特に「排泄」は人の日常動作の中でも最もプライベートな動作ですし、人の尊厳に関わるデリケートな行いだと考えられています。トイレ中に誰かが隣にいるのってめちゃくちゃ嫌じゃないですか?「尿や便を漏らしてしまう」ことでものすごく落ち込まれる方もいらっしゃいます。それだけ排泄というのは実生活の面でも精神的な面でも非常に重要な動作ですし、だからこそ私たちセラピストの関わりは重要だと考えています。

❷性機能障害

私が脊髄損傷者の性機能について考えるようになったのは、あるTwitterのフォロワーさんとのやりとりがきっかけでした。その方からこのようなご指摘があったんです。

「入院中に性機能、妊娠や出産について医療従事者からの情報提供が無かった」

■学部教育のカリキュラムに”障害者の性”がない?(おそらく無いです)

このご指摘を聞いて、今までの自分の脊髄損傷者さんとの関わりを振り返った時、全くできていなかったことに気がつきました。というより提供できる性機能の知識、情報を持っていなかったという方が正しいかと思います。現在の理学療法士や作業療法士養成校では性機能は解剖学や生理学では学びますが、なんらかの病態をもった患者さんの性機能・性生活についての教育を受けておりません(性機能・性生活についてのカリキュラムを組んでいる学校もあるかも知れませんが、私は学生の時にそのような授業は無かったです)。改めて思ったんですが、これってすごい問題ですよね。学校で学ばない=そのような問題に目が向きにくくなってしまいます。もちろん感度の良いセラピストであれば自分から気付きアプローチができるのだと思いますが、私は感度の良い方では無かったので障害者の性機能・性生活に目を向けられていなかったと思ってます。もしくは何となく気になってはいたけど知識もないし、避けてたのも事実です。ですが、(いろんな価値観があるので表現が適切かは分かりませんが)夫婦にとって子供が欲しいって気持ちは健常者であろうが、障害を負った方であろうが関係無いですよね。医療従事者の関わりの重要性に気づかされました。

■論文に書かれていることと実際は違う?

あるフォロワーさんのご指摘を受けて自分なりにいろいろ調べてみました。これも医療者特有なんですが、まずはPubMedといった医療関係の論文検索サイトがありまして、脊髄損傷(Spinal cord injury)勃起障害(Erectile dysfunction)で検索したと思います(この時は男性不妊について調べました)。その結果、ある論文がヒットしました(下記URLからフリーでダウンロードが可能です)。

Reproductive Health of Men with Spinal Cord Injury(Topics in Spinal Cord Injury Rehabilitation.2017 Winter;23(1):31–41)

そこには男性脊髄損傷者の勃起・射精障害についての治療のアルゴリズムが書かれていたんです。簡単に説明すると、自分でマスターベーションをして勃起・射精するかどうか?▶︎しなければバイブレーターを使用して勃起・射精するかどうか?▶︎(損傷髄節で次の選択肢が違うんですが)電気刺激射精法で射精するかどうか?▶︎しなければSurgical sperm retrieval (SSR)と言って外科的に精子を採取する方法を選択するといったアルゴリズムであり、SSRは最終手段であると書かれていました。やはり体になんらかの侵襲が入りますから他の方法よりリスクが高いからでしょう。SSRには4種類あるとされておりPESA、MESA、TESA、TESEがあります。これは男性脊髄損傷者だから行われる治療ではなく、男性不妊(無精子症*原因はいくつかある)に対して行われる治療です。

「へー、こうやって精子採取するんや」と全然知らなかったことが知れて嬉しかったんです。それをTwitterで「こんなことがありますよー」とツイートしたら、先ほどのフォロワーさんに「SSRを早めに選択した方が良い」という話をされました。その時私は「ん?最終手段って書かれてたけど?」と思ったんです。それがなぜ早くした方が良いかというと、アルゴリズムの手順にしたがってやっていくと時間がかかってしまい、その間にも精子採取が難しくなっていく脊髄損傷者の方も多いようです。射精回数の減少により運動精子の数が減ってしまうetcの理由があるようです。実際にはお仕事をしながらの通院になったり、情報が無いためにそのような医療機関にたどり着くまでにもかなりの時間がかかってしまい手遅れな状態の方もいらっしゃるようです。なので男性脊髄損傷者の方で将来的にお子さんを望んでいるのであればSSRのような外科的手段で精子を採取し凍結保存をされたておいた方が良いとのことでした。

このフォロワーさんとのやりとりの経験はいろんな気づきを私に与えてくれました。論文に書かれてあることと、実際の現場で選択するには様々な課題があることを知れましたし、自分が本当に脊髄損傷者の性について何も知らなかったんだなと改めて認識したエピソードでした。

(*ご注意*脊髄損傷者やご家族へ:上記内容についてもあくまでも私がTwitterでのやりとりで得た情報ですので、全てを鵜呑みにせず、詳細についてはご自身でお調べいただくか、医療機関にご相談ください。)

■日本の”性”に対する文化的背景

日本では”性”に対してはオープンではないってイメージを皆さんお持ちではないでしょうか?医療現場においてもそうでして、医療従事者と患者間での性に関するコミュニケーションはほぼ無いと言っても過言ではありません。中には積極的にお話される方もいらっしゃると思いますが大方の医療従事者はそうだと思います。そのような日本特有の文化的な背景も影響しているのかと思います。

いずれにしても、今の状況は変えなければなりません。自己学習はもちろんですが、目の前の患者さん、Twitterで知り合った当事者やそのご家族さんから情報提供していただきながら、性機能についてセラピストだけでなく医療従事者へ情報発信していきます。このnoteをご覧いただいている読者さんからも情報提供していただけると嬉しいです。

以上、2つの症状をお話させていただきました。脊髄損傷者の症状はこの2つがすべてではありません。他にも様々な症状がありますが、今回は割愛させていただきます。


2.脊髄を損傷してから自宅に帰るまでの流れ

日本で病気や怪我を負った場合、どのような経過を辿って自宅に帰るのでしょうか?皆さんはご存知でしょうか?

現在の高齢化が進んだ日本で理学療法士が遭遇する疾患として多いのが、脳卒中や大腿骨頚部骨折であり、生活習慣病やフレイル・サルコペニアなどといわれる虚弱高齢者の骨折後の患者さんをリハビリすることが多いです。

ではどのような経過を辿りどれくらいの期間リハビリテーションができるのか、自宅へ帰ってからはどうなるのかについてお話します。

1.日本における脊髄損傷者のリハビリテーションの流れ

2.各期間における入院日数の上限とリハビリの役割

それでは順にお話させていただきます。

2−1.日本における脊髄損傷者のリハビリテーションの流れ

現在の日本では脊髄を損傷すると、まずは救命処置が必要となるため”急性期病院”へと搬送されます。救急車で搬送される病院ですね。そこではまず命を守るために”治療”が最優先されます。なのでリハビリも急性期病院では状態が安定していないため呼吸の状態など生命維持に関わることが主になります。つまり次のステップへスムーズに移行できるように医師、看護師、理学療法士等が介入していきます。

その後、状態が落ち着くと”回復期病院”(*回復期病院を経由せず自宅に戻られる方ももちろんいます)へと転院するわけです。

そして自宅退院、あるいは自宅以外の施設等へ転院することになります。回復期を終えると”生活期”となります。

このように、日本では急性期→回復期→生活期とリハビリの期間が分けられており、各期間におけるリハビリの役割分担がなされています。

2−2.各期間における入院日数の上限とリハビリの役割

■”急性期”における入院日数の上限とリハビリの役割

先ほども述べましたが急性期病院では”救命”が最重要となります。そのため頚髄損傷では頚髄の不安定性があれば頚椎を固定する手術がされますし、呼吸困難例には人工呼吸器を装着し呼吸の維持を図ります。

ではリハビリは何をするのか?

受傷直後では体を自由に動かせないため関節が硬くなったり、筋力が落ちたり、筋肉量が低下(廃用)したりします。それらを予防する必要があります。人工呼吸器に繋がれている方には呼吸状態の安定を図るために呼吸リハビリをやったり、寝たきりは良くないことがわかっているためできる限り座ったり立ったりと可能な限り体を重力下に晒すように介入するわけです。

そうやって急性期の不安定な状態から安定した状態へと介入するのが急性期のリハビリの役割と言えます。

では、いつまで急性期でのリハビリが続けられるのか?

これは国で決められた期間が2019年度までの診療報酬制度では上限日数がありました。

「受傷後(術後)2ヶ月以内に回復期病院へ転院しなければならない」
ということが決められていたんですね。

昨年度までの場合、急性期病院から回復期病院へ転院された方はわかると思いますが、急性期病院では状態が安定したら、もしくは安定してなくても自宅に帰れる状態でなければ回復期病院への転院の説明をされていると思います。先ほど2ヶ月以内と言いましたが、2ヶ月いっぱいまで入院できる訳ではありません。急性期病院としては2ヶ月は絶対に超えられないのです。そのため急性期病院では入院直後から早々に転院先を探し始めると思います。

ここまでのお話は昨年度までの診療報酬制度についてです。では今年度の2020年診療報酬改定ではどうなったか?についてですが、実は急性期病院での2ヶ月以内の入院期間という上限がなくなったんです。(*現在このnoteを書いているのが5月19日です。新しい診療報酬制度が始まってから2ヶ月経っていないため、何ともいえませんが、脊髄損傷者においてもなんらかの影響が今後出てくる可能性はあると考えています。)

ではなぜ2ヶ月以内に急性期病院を退院し、回復期病院へ転院しなければならなかった制度が廃止になったのか?これには理由があります。

実は昨年度までの診療報酬制度では回復期病院へ転院できない方がおられたのです。どのような方かと言いますと2ヶ月以内では全身状態が安定しなかった重症な脊髄損傷者です(脊髄損傷者だけではなく重症の脳卒中の方もです)。下に「回復期リハビリテーション病棟協会」の資料を載せておきます。ご参照ください。

回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書(2019年)

正直に申し上げて、私は急性期病院から回復期病院へ行けなかった脊髄損傷者の方と出会ったことがありません。おそらく地域で訪問リハビリをされている理学療法士なら出会ったことがあるかと思いますが、私のように回復期病院で働く理学療法士はまず出会いません。なので急性期病院を退院後、どのような経過を辿るのかは全くわからない状態です。

ここで考えなくてはならないことがあります。重症な脊髄損傷者が回復期リハビリテーション病院へ転院できないとなると、急性期病院を退院後のリハビリはどうなるんでしょうか?回復期では脊髄損傷の場合、通常150日間(5ヶ月間)のリハビリができる期間があります。しかも毎日リハビリがあるんです。お盆だろうが、GWだろうが、お正月だろうが365日毎日リハビリがあります。私の感覚的に回復期病棟でも時間が全然足りないと感じる脊髄損傷なのに、回復期病棟へ転院できないとなると、非常にシビアな経過を辿るのだろうと容易に想像がつきます。

このような背景があって、厚生労働省も「これは問題だ!」ってことで急性期病院から2ヶ月以内に回復期病棟へ転院しないといけないという急性期病院での入院期限がなくなったのです。

少し話が逸れましたが、昨年度までの診療報酬制度では重症な脊髄損傷者にとって非常に厳しい制度であったと言えます。今回はその辺りが改定されたことが個人的には「良かったな」と感じるところであります。つまり今後は重症な脊髄損傷者でも回復期リハビリテーション病棟への転院が可能となったのです。しかし、実際のところ各病院がどのような対応をしてくるかは未知数なので、改定の結果がわかるのはまだ先になりそうです。

では次は回復期のお話をさせていただきます。


■”回復期”における入院日数の上限とリハビリの役割

”回復期”と聞いてみなさんはどんなイメージを持たれるでしょうか?文字通り”機能の回復”をイメージされる方が多いかと思います。

ですが、実際はどうか?

脊髄損傷者の”麻痺”が回復する期間は個人差があるとは言え、およそ半年までと言われています。脊髄の損傷具合によっては受傷直後には機能的な予後(回復の見込み)がある程度予測が可能となります。

では回復期におけるリハビリの役割とは何か?

Wikipediaでは以下のように記載されています。

脊髄損傷のリハビリテーションとは失われた機能を回復させることではない。神経が再生しない以上、それは不可能だからである。リハビリの目的は、車椅子の操作などに習熟し、残された機能を最大限に使う訓練をすることである。

Wikipediaの情報はあてにならない、とは思いつつも見てみると妥当なことを記載しています。

つまりリハビリでは”残存機能を最大限に活かした動作の獲得”を目指します。「理学療法士が諦めるな!」と言われるかもしれませんが、実際はこのように考えリハビリを行っています。

なぜ”残存機能を最大限に活かした動作の獲得”を目指すのか?

「損傷を負って失われた機能を元に戻すようにリハビリするんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、現在の医療では損傷した脊髄は回復しないことが常識となっております。

しかし、今現在は再生医療の発展によりその常識は変わりつつあるのかもしれませんが、残念ながら当院もそうですが一般的な病院では臨床の現場で再生医療はまだまだ一般化されてませんし、再生医療を受けてからリハビリを受けるということもできないのが現状です。再生医療とリハビリテーションはセットで考えられているので、仮に再生医療を受けても適切なリハビリテーションを受けられなければ…良くないわけです(少し話を濁しておきますwww)この辺りは私も今後の展開に期待しております。

■いつまで回復期でのリハビリが続けられるのか?

「回復期病棟へ入院してから150日間(5ヶ月間)」

*もし脊髄損傷を負った時に頭部外傷も伴っていれば180日間(6ヶ月間)となる場合もある

急性期病院で仮に2ヶ月間入院し、回復期病院へ転院できたとして

60日+150日=210日間、つまり最長でも7ヶ月後(180日間の場合は8ヶ月後)には自宅へ退院、もしくは自宅以外の何らかの施設等へ行かなければなりません。急性期病院と同様、回復期病院でもこの150日間を過ぎて入院し続けることは不可能です。

脊髄損傷者にとって、この”7ヶ月間”が意味することとは?

脊髄損傷専門機関での介入期間をご紹介します。

以下は兵庫県立リハビリテーション中央病院の「脊髄損傷者の退院後生活に関する追跡調査 」の対象者のリハビリの介入期間となります。以下に入院期間に関する部分を抜粋しました。

”当院入院期間は172.6±87.0日、受傷から当院入院までの期間は282.3±584.5日でした”                        脊髄損傷者の退院後生活に関する追跡調査-当センターにおける脊髄損傷のリハビリテーション-

これを見ると、受傷から入院するまでには282.3±584.5日、入院期間は172.6±87.0日となります。標準偏差が大きいので何とも言えない部分はあるのですが、入院までの日数を見ると回復期病院を経て入院している場合と回復期病院から退院してからしばらくして入院している場合が考えられます。また入院してからは1年間とまでは言えないですが、9ヶ月程度は入院していることになりますかね。

そう考えるとあくまでも平均ですが、

急性期+回復期の7ヶ月間

さらに

脊髄損傷専門機関での9ヶ月間

およそ1年と4ヶ月は入院期間が必要な場合があるということですね。

*誤解を招くといけないので補足しますが、必ずしも全ての脊髄損傷者がこれだけの日数が必要という訳ではありません。回復期だけでも十分な方もいらっしゃいます。ですが、頚髄完全損傷(C6BⅡ以上)の場合では必要ですし、それぞれが望む動作(例:自動車運転、復職、一人暮らしetc)を獲得する場合には損傷高位だけでは必要な期間を語れません。

まとめると回復期における入院日数の上限とリハビリの役割は「入院期間(最長で)5ヶ月の間に残存機能を最大限に活かした動作を獲得し、自宅退院する、あるいは自宅以外の施設等へ転院できるようにすること」ということになります。

つまり急性期+回復期の7ヶ月間というのは、脊髄損傷者にとって社会復帰するには短い可能性が極めて高いのです。

毎年4000〜5000人が脊髄損傷を負っているとの報告があります。これら全ての脊髄損傷者が回復期病院を経て専門機関での十分なリハビリを受けられるでしょうか?

答えは”No”です。

これが日本の脊髄損傷リハの現状です。

*あくまでも私が勤める病院の傾向ですが、当院を退院してから専門機関へ転院するケースは若年の頚髄完全損傷者が多いです。つまり回復期のリハビリだけでは絶対に間に合いません。また回復の希望を持って「リハビリを継続したい」というケースは中年男性の頚髄不全損傷者に多く、転院される場合があります。いずれも当院からは少数です。


■”生活期”におけるリハビリ日数上限とリハビリの役割

生活期でのリハビリの一般的な種類は、大きく分けて医療保険分野介護保険分野自費分野の3つがあります。

医療保険分野

医療保険を使う場合は外来リハビリ(月13単位=つまり260分)があります。例えば、1回1時間を週に1回で月6単位120分、2回で月12単位240分ですね。週に3回は不可能です。当院でも週に1回がベーシックです。

当院では脊髄損傷の方を対象に外来リハビリを行なっておりますが、おそらく他の病院でも受け入れてくれる病院はあるかと思います。実際に退院後の患者さんが自宅近くの病院で外来リハビリを継続して行なっています。そこが脊髄損傷を専門的に見れるかどうかは別の問題ですが…何かしら継続して運動が行えることはメリットですので、特化していることや専門的にやってくれるといったことはあまり気にされない方が良いかなと思ってます。

介護保険分野

介護保険を使う場合は訪問リハビリ、通所リハビリ、デイケアで入浴等サービスにプラス短時間のリハビリが受けられるといった感じです。

いずれにしても介護保険分野においては脊髄損傷を専門にしている施設は聞いたことがありません。専門である必要もないと思います。当然介護保険でのサービス提供なので高齢者が多いわけですし、対象疾患は多種多様。脊髄損傷に特化する必要がないわけです。ですので、退院後に介護保険でのリハサービスを受けたいと希望され「脊髄損傷を専門的に見てくれるところはあるか?」とよく質問されますが、「残念ながらありません」と回答せざるを得ないわけです。

自費分野

その他には自費リハビリがあります。今後、自費分野は増加していくことが予想されます。自費分野で脊髄損傷に特化している施設としてはJ-Workoutが有名ですね。今は東京・大阪・福岡にスタジオがあります。詳細は下記URLからホームページをご参照ください。

脊髄損傷者専門トレーニングジムのJ-Workout(ジェイ・ワークアウト)株式会社

介護保険領域での生活期におけるリハビリ上限日数は今のところありません。しかし現在でも医療保険や介護保険はパンク状態になりつつあります。今のように永遠に期限なくリハビリサービスが受け続けられるかどうかは不明、というか今後期限が設けられても不思議ではないと思われます。

そこで自費でのリハビリ提供施設が増加傾向な訳です。自費であれば金銭的な問題がなければ永遠にリハビリを受け続けられます。永遠にリハビリを受け続ける、受け続けたいかどうかは当事者の方次第かと思いますが。

選択肢はまだありますよ!!

社会的リハビリの役割を担う”障害者支援施設”というものがあります。ここはかなり重要な情報です!!

障害者支援施設

自立訓練(生活訓練):障害者につき、障害者支援施設若しくは障害福祉サービス事業所に通わせて当該障害者支援施設若しくは障害福祉サービス事業所において、又は当該障害者の居宅を訪問して、入浴、排せつ及び食事等に関する自立した日常生活を営むために必要な訓練、生活等に関する相談及び助言その他の必要な支援を行います。(引用:厚生労働省HP)

簡単に言うと、回復期病院では補えない復職、復学、一人暮らし、自動車免許の取得や自動車運転等、社会生活を営む上でまだリハビリが必要な方が入所する施設となります。

*当院では若年の頚髄完全損傷者に対しておすすめすることはあります

以下に障害者支援施設をご紹介します。

全国の障害者支援施設

■【埼玉】国立障害者リハビリテーションセンター 自立支援局

■【兵庫】兵庫県立リハビリテーション中央病院 自立生活訓練課

■【大分】別府重度障害者リハビリテーションセンター

伊東重度障害者リハビリテーションセンターは平成28年6月30日付で廃止されました


障害者支援施設入所の条件

入所の条件については入院中にMSW(入院している病院所属のソーシャルワーカー)を介してお問い合わせていただくのが確実です。施設入所に当たっては面談などがある場合がありますので、ある程度期間(退院期限の2-3ヶ月前)に余裕を持ってMSWへお問い合わせください。

条件例

・18歳以上

・身体障害者手帳を交付を受けている

・入院加療が必要な方は不可

・ADL動作は概ね自立している

・施設退所後の住宅が確保できている etc

があります。あくまでも社会復帰を目指している方が対象なので、医療処置が必要な方は不可ですし、自分の身の回りのことができる、ご本人にやる気がある、集団生活が問題なくできる、などの条件がある施設もありますので、問い合わせは必須だと思います。

回復期でもお話しましたが、リハビリがもっと必要なのに回復期病院の期限が来てしまい、時間がまだまだ必要と考えられる症例も必ず一定数存在します。そのような場合は障害者支援施設を考えても良いのではないかと思います。

なんとなく「まだ働くのは、ちょっと…」みたいな感じで「一旦、支援施設(社会的リハ)でも行くか!」のような心持ちではあまり行くメリットはないかと思いますし、私はそのような場合にはオススメしませんし、おそらく入所できません!!今後、働くためには”今”なにができないのかを具体的にし、これができるようになりたいという明確な目標を定められておいた方が良いかと思います。

また自宅からの距離の問題もあります。例えば、先ほどご紹介した3つの施設がありますが、別府重度障害者リハビリテーションセンターに行きたいとなった時、現在入院している病院が和歌山県だとします。通常PTやOTといったリハビリ専門職が自宅へ動向し、自宅環境を整えてから退所するのが本来は良いのですが、距離が遠いとそのような支援ができません。そのため入所時の条件として退所後の居宅が確保されていることが条件に入っております。中には退所後の居宅が決まっていないケースもあります。例えば退所後から一人暮らしを始める方、住宅環境調整の支援を受けてくれる地元の病院が見つかるケースなどは大丈夫な場合もあるようです。これも障害者支援施設へ事前確認が必要でしょう。

いずれにせよ、障害者支援施設へ行く目的が明確にあるのか当事者本人、ご家族、周りの医療従事者とご相談してから決断される方が良いかと思います。

以上、脊髄損傷を受傷後にどのような流れで治療やリハビリが進んで行くのか?どのように復帰を目指して行くのか?をお話しさせていただきました。

大まかな流れを把握しておくことで、どのような情報を集めないといけないかが明確になると思いますのでご参考になると幸いです。


3.日本の脊髄損傷に関わる医療保険制度(2020年度から改定された診療報酬について)

先ほども急性期や回復期病院の入院期間についてご説明しました。この章では回復期病院に関わる診療報酬制度について詳しくお話しさせていただきます。

3−1.実績指数、ご存知ですか?

一般の方はご存知ないと思われる「実績指数」についてお話しさせていただきます。なぜ回復期リハビリテーション病棟では早期退院を目指すのか?のカラクリがご理解いただけると思います。

患者さんからよく訴えられることに以下の内容があります

「ちゃんと治るまでしっかりリハビリしてから退院させてください」

「こんな状態で病院を追い出すんか?」*「こんな状態=ご本人はしっかり歩けていないという認識。私たち医療者はしっかりと歩けていると評価している。例)院内のコンビニまで1人で杖をつくことなく歩けるレベル」

回復期でお勤めの医療者はあるあるだと思います。ではなぜこのような訴えが出るんでしょうか?最初に断っておきますが、退院後に在宅生活が営めない状態で帰ってもらうようなことはしません。それは病院の責任問題になるからです。

しかしながら、昨今の医療制度上、厚生労働省から提示される病院側への各種条件は年々厳しくなっており、病院の経営を維持するためには制度に則った運営をしなければなりません。厚労省が出す指針と患者さんの希望との間で病院は両方のニーズを上手く保ちながら運営しています。実はこれってすごく大変なことなんです。そこをまずご理解いただきたいと思います。

また、後ほど2020年度の診療報酬改定に伴い危惧されること、特に脊髄損傷に関わると個人的に考えるお話させていただきます。

■平成28年度診療報酬改定前と後の話

実績指数のお話の前に、実績指数というアウトカム評価がなぜ導入されたのかについてご説明します。

まずは下の図をご覧ください👇

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平成28年度改定前にはこう書かれています(赤線で囲んだところ)

患者1人1日あたり、疾患別リハビリテーションは9単位までは出来高算定

これは何を意味するかというと、「リハビリは9単位までは国の医療保険からお金を出しますよ〜」ってことです。つまり平成28年度の改定前まで厚労省は「リハビリの量」を重視していたわけですね。

ところが平成28年度改定後をご覧ください(赤線で囲んだところ)

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リハビリテーションの効果に係る実績が一定の水準に達しない場合、疾患別リハビリテーションは6単位まで出来高算定(6単位を超えるリハビリテー ションは入院料に包括(※)) ※急性疾患の発症後60日以内のものを除く

これが何を意味するかというと、リハビリの効果が水準に達しない=リハビリの効果がない場合、6単位を超えると入院料に包括=6単位以上リハビリしてもお金出しませんよ〜ってことになりました。つまり「リハビリの量」から「リハビリの質」を求められるように改定されました。だってやっても意味ないリハビリに国はお金を出せないですよね。改定前、巷では「とにかく9単位至上主義」なので、何が起こるかというと、ただただ漫然としたリハビリを行う病院が増えた(あくまでも巷の噂です)とよく聞きました。まあその方が楽ですよね。患者さんが良くなっても、良くならなくてもリハビリをやった時間数が評価の対象なわけなので。

単位とは?:リハビリの時間を表す時に使う言葉であり、1単位=20分  6単位=2時間 9単位=3時間と計算されます

で、厚労省は「こりゃダメだ」となり診療報酬改定が行われるワケです。

そこで登場したので「実績指数」です。やっと出てきました。

■実績指数とは?

まずは下の図をご覧ください(赤線で囲んだところ)👇

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回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価にかかる計算式等の概要として、真ん中に「効果の実績の評価基準」と書かれてあります。

これが実績指数の計算式(黄色の四角)となります。どういう計算をするのかと言いますと、

まず疾患別に回復期リハビリテーション病棟の入院料の算定上限日数というものが定められております。

例えば整形疾患であれば90日、脳血管疾患であれば150日(あるいは180日)という感じです。

算定上限日数を分母とし、分子に実際に入院していた期間を入れます。

例えば整形外科疾患の患者さんで入院日数が45日の場合、

入院日数45日 / 算定上限日数90日 = ”0.5”

となります。

次に日常生活動作の評価であるFIM(Functional Independence Measure)を用います。

FIMについては👇をご参照ください

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FIMは運動項目(左の4つ)のみを利用します。大きく分けてセルフケア、排泄、移乗(例えば車椅子からベッドなどへ乗り移る動作を移乗と言います)、移動の4項目があります。(認知項目(右の2つ)は除外基準で利用します)

回復期リハビリテーション病棟退院時の運動項目点数から入棟時運動項目点数を差し引いた点数=FIM利得と言います。

もう一度計算式をみてみましょう。

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まとめると計算式は以下のようになります

実績指数 = FIM利得(入院日数 / 算定上限日数)

この計算式から病院側が考えること=実績指数を上げる方法は以下の2つのポイントです

❶FIM利得を上げる     ❷入院日数を減らす

先ほどの例で実績指数を計算してみます。(*入院日数45日で計算)

FIM利得が30であれば実績指数は60、20であれば40、10であれば20というように、FIM利得が下がると実績指数も下がります。

では入院日数を減らした場合どうなるか、やってみましょう

入院日数が30日の場合、30➗90=0.3333......となり

FIM利得が30のとき実績指数は90

FIM利得が20のとき実績指数は60

FIM利得が10のとき実績指数は30

となります。

つまり実績指数を高い水準で保つには、FIM利得を上げるか、入院日数を減らすかの2つのポイントとなります。両方達成できれば実績指数はかなり高くなったりしますし、反対に両方が達成出来ない場合はかなり低くなってしまいます。

実際にはFIM利得には天井効果もあり、入院日数を減らす方が対策としては取りやすい印象です。

このように実績指数は高い水準を維持する必要があるのです。なぜ高い水準を維持しなければならないかは先ほどリハビリの効果が水準に達しない=リハビリの効果がない場合、6単位を超えると入院料に包括されるとお話しました。包括されるとは、6単位以上リハビリをしてもお金にならないということです。ただしこれだけではないのです。

下の図をご覧ください。

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赤線で囲んでいる入院料1をご覧ください。入院料1が診療報酬が一番高いんです。なので病院側としては入院料1を維持したいですよね。(*施設基準というものがあり全ての病院で入院料1を取れるわけではありません)

ただしいくつかの条件が設けられています。

❶重症度:重症者の割合が3割以上

❷重症者における退院時の日常生活機能評価:3割以上が4点以上改善

❸在宅復帰率:回復期リハビリテーション病棟から自宅に退院する割合が7割以上

❹実績指数が改定前は”37”以上。改定後から”40”以上となりました

このような条件があります。皆さん、どう思いますか?厳しくないですか笑

ただし厚労省もそこは考えてくれているのか、実績指数の計算から除外できる患者さんの条件(除外基準)もあるんです。

80歳以上の患者さん

❷回復期病棟入棟時のFIM運動項目合計が76点以上または20点以下

❸回復期病棟入棟時のFIM認知項目合計が24点以下

上記3つの条件を1つでも満たしていれば1ヶ月の入棟者数の3割を除外しても良いってことになってます。

このように回復期リハビリテーション病棟は様々な条件を常にクリアし続けなければなりません。

*今更ですが、なぜ毎回厳しくなっているのか??根本的なことですけど、国・厚労省は医療費を削減したいんですよね。皆さんもご存知かとは思いますが、医療保険はもはやパンク状態なので介護保険へすぐに移行させたいわけです。それが地域包括ケアって構想ですね。介護保険がパンクするのも時間の問題です。2025年以降からがどうなるか?想像するだけでもゾッとします。

3−2.2020年度診療報酬改定で今後危惧されること

これから話す内容はあくまでも私の個人的見解です。そこをご理解いただきお読みいただきたいです。

今まで実績指数の説明をしてきましたが、今回の改定でさらに実績指数の基準値が引き上げられました。今までは”37”以上でしたよね。2020年度の診療報酬制度改定で実績指数の基準値が”40”以上になりました。

病院側は❶FIM利得を上げること❷入院日数を減らすことをさらに考えるようになると思われます。ではこの影響を脊髄損傷者で考えてみましょう。

特に重症の頚髄損傷者ではFIM利得は上がらない(ADLのレベルが回復期病院入院時とほとんど変わらない)です。さらに退院準備にも時間がかかるため入院日数は長期化する傾向にあります。となると、実績指数の基準値が引き上げられると病院側は何を考えるか?

入院料1を維持するには重症の頚髄損傷者を受け入れない方が良いのではないか?

と考える可能性があるかと思います。今病院経営ってものすごく厳しい時代なので、各病院であらゆる生き残り戦略を取ってくると思います。その一つの選択肢に出てくる可能性はあるかなと考えています。(いわゆる一般的な回復期リハビリテーション病院ですね。脊髄損傷者を専門的に受け入れているわけではない病院ではそのような傾向になる可能性があると考えています。)

幸い、当院では元々利益等は考えず、病院設立当初からの理念に脊髄損傷者を受け入れる、社会復帰へのお手伝いをするというものがありますので、診療報酬が改定されてもそのスタンスは変わらないと思います。しかし、専門的に受け入れている病院ではない場合はそうはいかないのではないかと思います。

さらに今の疾患別の算定上限日数がさらに短縮されると、さらに厳しい状況になることは想像に難くないです。

しかしながらそのような未来もそう遠くないような気がしてます。それくらい日本の医療の問題はギリギリのところで保っている状態なんだと思います。

3−3.「今、私がやるべきこと」

私のような回復期病棟勤務のただの理学療法士が大きなことは言えませんが、回復期病棟で脊髄損傷者とたくさん関わってきた経験、知識などをフル動員して、私が今やるべきことを考えてみました。

診療報酬の改定によりさらに厳しい条件となることに対して不満や改善策を訴えたところで絶対に変わりません。今後の日本の将来を考えれば当たり前のことです。では「仕方ないな」ではなく、様々な条件をクリアしつつ、定められた枠組みの中でより効率的にFIM利得を上げ、入院日数を短縮する方法を考えるべきだと考えています。

私は今まで回復期での脊髄損傷者に対する退院支援を経験し、ノウハウはかなり蓄積されてきてますので、重症度、個人背景の違い等を考慮した退院支援のノウハウをお伝えできると思ってます。スムーズに進む方、難渋する方、退院支援の進捗状況は千差万別です。

まずは回復期における脊髄損傷者の退院支援の傾向を今一度洗い直し、社会に向けて発信していきたいと考えてます。


4.日本の脊髄損傷を取り巻く医療・リハビリテーション分野での課題

この章では2点の課題についてお話しさせていただきます。

まず1点目は人材不足について、2点目は病院不足についてです。

4−1.脊髄損傷者のリハビリができる人材は不足しています

まずは下のグラフをご覧ください。

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こちらのグラフは日本理学療法士協会がホームページ(下に日本理学療法士協会のURLを添付しました。ご参照ください)にアップしているものを私がグラフ化したものになります。何のグラフ化と言いますと、神経理学療法領域における認定理学療法士の取得者数を示しています。神経理学療法領域には4つの領域があり、脳卒中神経筋障害脊髄障害発達障害があります。ご覧いただけるとお分かりいただけると思いますが、脳卒中が圧倒的に多く、脊髄障害が一番少ないんです。これを日本理学療法士協会総会員数の割合で見ますと、

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脳卒中認定理学療法士1万人中180人いることになります。それに対して脊髄障害認定理学療法士はどうかと言いますと、

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脊髄障害認定理学療法士は1万人中7人しかいません。脳卒中と脊髄障害の差は…

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脳卒中認定理学療法士が脊髄障害認定理学療法士のおよそ26倍もいます。

ただし、ご注意ください!

ある意味これは当たり前の結果なんです。脳卒中の患者さんの方が圧倒的に多いですからね。それだけ日本では脊髄損傷が臨床で遭遇しにくい疾患であることを表していると思います。

また認定を持っていない理学療法士であってもきちんと勉強しスキルを身につけている方もいますし、認定を持っていても全然勉強していない方もいると思います。あくまでも目安という意味で上記の数字を提示させていただきました。

とは言ってもやっぱり少ないんですよ。脊髄障害認定理学療法士が!

年間発生数4-5000人と言われる脊髄損傷、それに対して脊髄障害認定理学療法士が89名(2019年7月1日データ)は少ないんですよ。

めちゃくちゃ単純に考えて、89名の脊髄障害認定理学療法士1人が年間で45-56人の脊髄損傷者を担当すれば賄える数字です。これは絶対に不可能です。ちなみに私は脊髄障害認定理学療法士を持っていますが、脊髄損傷者を担当することはありません。当院回復期病棟の運用上の問題なのですが、私は担当を1人も持ちません。脊髄損傷を担当する後輩の指導的立場で関わっているというのが現状です。おそらくそのような病院は他にも多いのではないかと思います。

このように脊髄損傷に関わる理学療法士は人材が不足していると考えられます。(◀︎あくまでも個人的見解です)

4−2.脊髄損傷者のリハビリが専門的にできる病院は不足しています

まずこのお話をする前に前提として、私が知る範囲内での病院のご紹介という認識でお読みいただけると幸いです。また受傷直後の脊髄損傷者を受け入れている急性期病院は多くあると思いますが、全てを把握できておりませんので把握していない病院は割愛しております。日本全国の情報というのは詳細には把握できておりません。つまり今回挙げる病院以外でも脊髄損傷を専門的に受け入れている病院があるかもしれないことをご周知いただきたいと思います。

脊髄損傷のリハビリが専門的にできる病院の定義:少し曖昧なので定義づけさせてください。「脊髄損傷者を受け入れる」ということは全てにおいて対応が可能、もしくは対応不可能でも次につなげる場の提案が可能と思います。つまり脊髄損傷を専門的に対応可能な医師、看護師、セラピスト、MSWなどが所属しており、脊髄損傷者を受け入れている病院と定義させていただきます。

では先ほどお話した脊髄障害認定理学療法士の都道府県別認定取得者数の図を提示いたします。

下の図をご覧ください。

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脊髄障害認定理学療法士取得者数の多い順

1位 大阪:13名

2位 神奈川:10名

3位 千葉:9名

4位 愛知:6名

5位 茨城・埼玉・兵庫・岡山・福岡:5名

となります。

こちらのデータから脊髄損傷を専門的に受け入れているであろう病院を挙げてみます。(◀︎私のわかる範囲内なので一つの参考とお考えください)

それが下の図になります。

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このうち日本理学療法士協会および各都道府県士会主宰の「脊髄損傷の理学療法」講習会を実施している病院は神奈川リハビリテーション病院中部労災病院JCHO星ヶ丘医療センター兵庫県立リハビリテーション中央病院となります。他には福井大学医学部附属病院もされています。日本全国の脊髄損傷データベースのデータ集積をしている中心的病院は総合せき損センター、脊髄損傷の再生医療研究の中心は国立障害者リハビリテーションセンターです。他の病院も日本での脊髄損傷リハビリテーションでは有名な病院となります。

これらの病院は脊髄損傷者を受け入れている時期がそれぞれ違いますし、可能な入院期間も違います。つまり急性期▶︎回復期▶︎生活期…のようにそれぞれで守備範囲が異なるわけです。

また脊髄損傷というのはリハビリテーションに時間を要することが昔から分かっていることなので、脊髄損傷者を専門的に受け入れている病院は比較的入院期間の制限が少ない病院であることが多いです。いわゆる障害者病棟と言って入院期間の制限がない病棟ですね。それでも永遠に入院できるわけではありません。各病院で退院時期の基準を作っていると思います。一方、回復期病棟のみで受け入れている脊髄損傷専門の病院はほぼありません。あるにはあるんですが…

このように脊髄損傷者を専門的に受け入れられる病院というのは全国でも限られているということを知っておいてください。

この情報を知っているだけで、万が一のとき、情報を探すヒントにはなるかと思います。


5.現在の私の取り組み

今現在進行中の取り組みが2つあります。1つは、日本全国の脊髄損傷者を専門的に受け入れている病院や施設のセラピストとの情報交換を進めています。2つは、Twitterで脊髄損傷当事者の方々やご家族との情報交換を始めています。

では詳しくお話します。

5−1.脊損専門セラピストとの情報交換

なぜ情報交換をしようと思ったのか?についてです。先ほどもお話しましたが、実は脊損者を専門的に受け入れている病院というのは少ないんです。にもかかわらず、専門病院相互での情報交換は皆無ですし、会うのは学会の時くらいでした。それってものすごくもったいなくて、「なぜ有益な情報をお互いの病院・施設で持っているはずなのに共有しないのか?」とずっと疑問に思っていました。と思ってはいるものの全然行動に移してなかったんですね。

そんな時に新型コロナウイルスが日本全国に蔓延しました…

私たち人類は、新たな行動様式・生活様式を強いられたわけです。皆さんも感じるところだと思いますが、オンラインでのコミュニケーションが急速に進みましたよね。私もそうで、「そうや、Zoomで全国の脊損専門のセラピストと連絡取ろう」と思いつきました。実は脊損専門セラピストのLINEグループは数年前から作成してはいたのですが、これといった活動は全くしておらず冬眠中のグループだけが存在している状態でした。

そこでまず私が始めたことは、「LINEグループ」のメンバーでアクティブなセラピストにZoomで話してみようってことで個別に連絡を取ることにしました。先ほど冬眠中と言いましたが、2ヶ月に1回くらい「〇〇〇〇について困っているんですけどご存知の方いらっしゃいますか?」のような投稿がありました。まずはそのように自分から発信してくれるセラピストに連絡しました。そこでZoomを使って一人一人と個別にコミュニケーションを取り、その時に「Zoomを使って全国の脊損専門のセラピストで情報交換したいと思ってるんですが、ご協力いただけますか?」とお願いしました。そんなこんなでおよそ1ヶ月仲間集めを続け、現在私を含めて14名のセラピストが集まりました。北は北海道、南は大分のセラピストです。たくさんのセラピストが賛同してくれました、うれしかったですね。

そこで最初はお互いのことを知ろう!ということで各自が所属する施設紹介を毎月1回のペースで行っていくことにしました。今月から早速始めましたが、感想としては「めちゃめちゃ面白い」でした。やっぱり知らないことを知れる、他の病院や施設ではどんな状況で脊髄損傷者を受け入れているのか?どのくらいリハビリテーションをできる期間があるのか?自宅退院に向けた関わりはどのようにしているのか?などなど、その病院の特徴、地域性などを聞けてとても参考になりました。

実際には、このような情報というのは脊損当事者やご家族が一番知りたいことではないのかな?と思います。自分で調べようにも、病院ホームページにはそこまで詳細には書かれてませんし、その病院の職員と知り合いでなければ聞けない話ですし、そもそも脊髄損傷について手軽に相談できる人が身近にいませんよね。「この状況なんとかならなんもんかな?」と思っています。*この課題については最後の章でお話させていただきます。

このようにまずは脊損専門のセラピストと情報交換が手軽にできるように取り組んでいます。

5−2.脊髄損傷当事者やご家族との情報交換

日々病院で脊髄損傷者と関わる中で様々な問題に直面してきました。脊髄損傷についての情報不足を日々感じていたので、自分でできることが何かないかな?と考えていた時に「Twitterで情報発信しよ!」と考え昨年から始めました。当初はとにかく情報発信だけが目的で行っていましたが、脊損当事者やご家族とのやりとりの中で自分では気づいていなかった困りごとが退院してからたくさんあることに気づかされました。退院後に困るという事実は病院で働いている私にとっては盲点で、考えれば当然のことなんですが病院で退院後の生活を全てフォローすることは不可能なのです。ただそういった退院後の生活に直結する困りごとに目を向けられていなかったことを反省しました。そこからは情報発信▶︎情報交換▶︎情報をくださいという、医療従事者にあるまじき行為wwwに変化していったわけです。つまり、どのような情報を本当に求めているのか退院後の脊髄損傷者やご家族のニーズ調査が必要だと感じました。そうです、一方向性から双方向性(インタラクション)へとシフトチェンジしていきました。取り組み方を変えることでTwitterでのフォロワーさんとのコミュニケーションの機会が格段に増えた印象があります。「今までは独りよがりの情報発信だったな」と振り返るとそう思います。「教えてあげたい」という意識そのものが間違っていたとTwitterを通して非常に重要な視点に気づかせていただけました。

しかし、ここで終わっては意味がないんです。Twitterでのコミュニケーションで得られた情報、ニーズに応える必要があると考えています。

さあ、ようやく最後の章です。最後は脊髄損傷医療・リハビリテーションの未来の話をさせていただきます。


6.脊髄損傷医療・リハビリテーションの未来(私の希望も含めて)

脊髄損傷者の皆さんが、そのご家族が明るい未来を描いて、より良い人生を送れて、天寿を全う「幸せな人生だった」と言ってもらえるような社会を作るためにも、理学療法士である私も微力ながらできることをやっていこうと思います。そこであくまでも”私の個人的な見解”ですが、脊髄損傷医療・リハビリテーションの未来について、最後、お話させてください。

6−1.再生医療の未来

まずは脊髄損傷者の皆さんが気になる「再生医療の未来」についてです。

その前に、これからお話する内容には「健常者のお前に何が分かるんだ」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、たくさんの脊髄損傷者の方と関わる中での個人的な意見をお話させてください。

脊髄損傷を負われた方には大きく分けて2つの傾向があると感じています。1つはわずかな希望に固執し続ける方、2つは全てを受け入れる方(*希望を捨てたわけではない)の2つの傾向です。これは当事者だけではなく、そのご家族も当てはまります。

わずかな希望に固執し続ける方

脊髄損傷の当事者やご家族にとって「再び歩くこと」というのは最大の希望かもしれません。しかし現在の医療では脊髄損傷の程度にもよりますが、再歩行の可能性が極めて低い方が多くいらっしゃいます。私が奇跡の回復というものが存在しないと考えるのは臨床経験上そのような症例と出会ったことがないからです。確かに再び歩くことが難しいと予後予測していた方で順調に歩行機能が回復される方がいらっしゃいます。しかし一度損傷した脊髄は元に戻らないことが定説となっています。つまり歩ける能力が残存しているけど表面上はその能力が隠されている(マスクされている)方がいらっしゃいます。そのような方はもしかしたらかなりの数がいらっしゃるかもしれません。調べられないので分かりませんが。適切な時期に適切なトレーニングが提供されれば再歩行が可能となる方はおそらくたくさんいらっしゃると私は考えています。そのようにマスクされている方に対してはリハビリテーションによって回復が見込める可能性が高いと考えますが、リハビリテーションの範疇ではどうにもならない方がいらっしゃいます。ASIA Impairment Scale(AIS)という国際基準の脊髄損傷の評価表があるのですが、いわゆるAISでいうA(損傷高位以下の運動および感覚機能の障害:完全損傷)B(損傷高位以下の運動機能の障害、感覚機能の一部残存:不全損傷)の運動機能が完全に麻痺している方がそれに当たります。そこで再生医療に期待が高まっているわけです。おそらく再生医療に期待を抱いている方は再び歩くことに期待している方が多いかと思いますが、では今後の再生医療の未来はどうでしょうか?

今現在、急性期および慢性期の脊髄損傷者への再生医療の研究が進められています。札幌医科大学の骨髄間葉系幹細胞(治験の終了がHPで報告されていました:2020/5/26HP閲覧)、京都大学のiPS細胞、大阪大学の自家嗅粘膜移植などがありますね。

もちろん私自身も再生医療には大いに期待しています。もしかしたら3年後、5年後、10年後、20年後には脊髄損傷への再生医療が一般化され重度の運動麻痺でも再び歩けるようになる未来がくるのかもしれません。しかしながら、現在はそうはなっておりません。時間は非情にも刻々と進んでいくのです。

現実を受け止め、未来を見据える必要があることも事実です

わずかな希望に固執し続ける方。どのような方かと言いますと…

「再生医療を受けさせてくれ」

「とにかく俺は歩きたいから歩く練習だけをしてくれ」

「歩けるようになるためにこの病院へ来た」

「この病院は脊髄損傷者を歩けるようにしてくれると聞いた」←誰がそんなことを言ったのでしょうか笑

皆さんはこの発言を聞いてどのように感じますか??

「当事者にとっては当たり前のことだ」「自分だったら同じことを言うと思う」などなど立場や置かれている状況によってもいろんなご意見があるかと思います。

では私のような回復期病棟で働く理学療法士はどのように対応するか?ですが、主治医の診断と理学療法評価に基づき、まずは歩ける可能性を予測します。これを予後予測と言います。予後予測の結果、回復期期間内に実用的に歩ける可能性が高ければ歩行練習を積極的に行っていきます。AISで言うD(Cの方も状態に年齢によって)のレベルの方です。しかし、反対に歩ける可能性が低ければ歩行の再獲得は目指しません。歩行練習をしないわけではありません。ADL獲得の手段として歩行練習をするといったイメージです。

第2章でもお伝えした通り、回復期だけでは到底時間が足らないことがあります。また回復期で歩行の再獲得が困難と予想されるケースでは退院後に歩けるようになるのは非常に厳しいと考えられます。その理由は退院後にリハビリを受けられる時間が圧倒的に短くなるからです。ですので「退院後にリハビリを続ければ歩けるようになるのか?」と問われることが多いのですが、現実的には難しいかも知れないとお伝えするしかないのです。しかし真実は誰にも分かりません。リハビリを続ければ歩けるようになるかも知れないですが、それは誰にもわからないことなのです。また退院後にリハビリを続けるにしても、提供できる施設がなかったり、自費であればかなりの高額になってしまうなどの問題が多々あります。

その結果を主治医へお伝えし、主治医の診断のもと、カンファレンスで病状告知、つまり「再び歩ける可能性は限りなく低い」と告げられるわけです。私たち理学療法士や作業療法士からも「歩行は難しいと考えられます。リハビリでは残存機能を活かして生活が自立できるように支援します」と言うような内容をお伝えします。このような説明を「医療者に突き放された」と感じられる方、「そんな説明は信じない」とおっしゃられる方も多くはないですが一定数いらっしゃいます。

このようなカンファレンスでの病状告知後……ここから対応が大変になる方がいらっしゃいます。

どのような方か?先ほど例で挙げたような方々です。回復期でのリハビリテーションの役割は退院後に生活が困らないように支援することだと私は考えています。

「生活に困らない」ということは、自立できる動作は自立を目指し、自立が難しければ誰かの支援を受けられるように準備したり、自宅環境を調整しなければ生活できないと判断できれば自宅改修のご提案をしたり、退院後に生活に困らないように支援します。ある意味、回復期のリハビリテーション期間と言うのは「機能回復を目指す時期」「退院後の生活準備期間」の両方の側面を持ちます。機能回復にとことんこだわり、退院後の生活準備ができていなければ、退院後に本当に大変な状況になります。生活できないわけです。

ここがなかなか受け入れられないんです。なぜならご本人のリハビリテーションの目的が「再び歩けるようになること」その一点だからです。例えば、自宅に帰ってから食事はどうしますか?着替えは?歯磨きは?洗顔は?入浴は?排泄は?通院の移動手段は?誰かに連絡したくなったらどうしますか?テレビ見たくなったらどうしますか?リモコン操作はできますか?ベッドのリモコン操作は?(最近はSiriやGoogle Homeなどがあって便利になりましたね)、このように生活に直結する動作については見向きもしなくなってしまう方がおられるのです。なのでリハビリが終わり病棟に戻るとベッドで横になり何か自分でできないことがあるとナースコールで看護師を呼んで介助してもらうのです。その介助を私たちは減らしたいんですが、「ここは病院やろ、手伝ってもらうのが普通や」って感覚の方がいらっしゃるんです。

ある頚髄損傷のケース(Bさん)をご紹介させてください。この方はお仕事をリタイアされて日々充実した生活を送られてました。頚髄損傷の原因は、たしかバイク事故?だったような、記憶が曖昧ですみません。Bさんは入院期間中ずっと「歩けるようにリハビリをしてくれ。歩くためにリハビリしに来た。日常生活のリハビリは必要ない」と訴えられ、担当PTは歩行練習中心で行っていました(*私は担当ではありません)。来る日も来る日も歩行練習を行っていました。回復期は150日しかありませんので、入院後早期にゴール設定(退院後にどこへ帰るのか?)を行う必要があります。詳細はわからないですが、おそらく家に帰らず転院(障害者病棟を持つ病院)してリハビリを受け続けるという選択をされたように記憶しています。歩行練習を続けていましたが、当院退院時も歩行は困難であり、転院となりました。転院先に知り合いがおりましたので、当院の担当PTと転院先の担当PTとの間に入り情報交換をしてました。やはり転院先でも「歩けるようにリハビリをしてくれ」とおっしゃられていたようです。結局転院先の病院で1年間ほどの入院期間を経て、次どうなったと思いますか?再び転院されたのです。病院ではなく自立支援施設ですね。そこでようやくご本人もこのままではマズイと思われたようで、日常生活に目を向けたリハビリテーションを始められたそうです。その後に地元へと帰られたと風の噂で聞きました。地元へ帰られた時は歩行ではなく電動車椅子で帰られたようです。日常生活動作はというと、食事以外は全てなんらかの介助が要する状態です。受傷してから延べ3年弱の月日が流れていました。この3年弱をどのように捉えるかは人それぞれですが、もし皆さんが当事者ならどうされますか?ご家族がそのような選択をされたらどうされますか?賛成しますか?反対しますか?一つの生き方として尊重しますか?このエピソードが良いか悪いかということではないですが、1人の理学療法士として私は色々考えさせられる経過を辿ったなと感じてしまいます。最後はオブラートに包んでおきます。すみません。

このようになってしまうと退院後に誰が一番困ってしまうのかというと、ご自分ご家族なんです。

ですので、「歩行練習がしたいお気持ちは分かりますが、歩行練習は病院でのADLが自立レベルに達した場合や全てがご自分でできなくても自宅生活の見通しがたったら行いましょう」と事前にご説明させていただきます。

この説明で納得される方もいれば、納得されない方もいらっしゃいます。このようなケースへの対応は非常に難しいと感じます。

以前に「障害との向き合い方」というテーマでnoteを書きました。「歩行」というのはあくまでも手段であって、目的になってしまうとあまり良くないのでは?といった内容です。「歩行」が目的化してしまう方がわずかな希望に固執し続ける方に多い傾向にあると感じています。あくまでも私個人の見解です。もしご興味あればご一読いただけると幸いです。👇

障害との向き合い方

全てを受け入れる方(*希望を捨てたわけではない)

さて、次は全てを受け入れる方についてです。でも記載しましたが、希望を捨てられたわけではありません。「脚動けば良いけど」「歩きたいに決まってんやん」といった発言は普段の会話の中でも聞かれます。当然だと思いますが、皆さん歩きたいという希望はお持ちです。では何が違うのか?それは退院後の生活を見据えて今なにをすべきなのかをご自分で納得してリハビリテーションに取り組める方なのだと思います。現実を受け止め、それでも前へ進むための選択をされるのだと思います。

あくまでも私の経験上ですが、お仕事中の事故で脊髄損傷を負った30-40代の男性はこのような傾向があるかと思います。その方々の多くが「これからどうやって家族を養っていけば良いのか?」との不安を訴える方が多いです。お子さんがまだ小さい、これからどんどんお金が必要な時に…と考えられます。もちろんご自分のことも考えられてはいますが、退院してから自分のことも自分でできないのは困る、嫁に頼りっきりにはなれない、子供になにもできない姿を見せたくない、といったことがあるためまずは自分のことは自分で出来るように頑張っていただける方が多い印象です。

またこのような方もいらっしゃいます。もう30年以上前に頚髄損傷となり以来車椅子生活をしている方がおっしゃられていた話です。「今でも歩きたいと思ってますよ。それはみんなそうなんじゃないかな。とは言っても目の前の生活があるしなあ…」と。歩きたい希望は持ちつつも、生活を成り立たせるために目の前のやるべきことがあるといった考え方をされています。

このように2つの傾向をお話させていただきました。再生医療の発展に伴う脊髄損傷当事者やご家族にとっては期待が高まっているかと思いますが、そんな時に私が思うことは、

思考のバランス感覚は極めて重要

ということです。希望実生活、両方を天秤にかけたとき、あなたはどちらが大切だと感じますか?それぞれのライフステージでもその考えは変わると思います。ただし、1つの希望に偏るような思考のバランス感覚では、その希望が達成できなかった場合に、もしかしたら絶望に変わる危険性もあります。両方とも大事です。ですがそのバランスをぜひご自身の価値観、ご家族の意向も踏まえて選択なさると良いかなと思っています。

6−2.私が考える再生医療の効果

排泄機能障害と性機能障害の改善

理想は元の体に戻ることだと思います。ですが今現在ではそこまでの効果は認められていないと思います。現実的には完全損傷の場合は麻痺域の筋萎縮は著明に現れます。筋肉が痩せ細ってしまうわけです。痙縮の影響で筋萎縮は目立たない方もいらっしゃいますが、その分、関節の可動域制限が生じる場合も多いです。経過が長ければ長いほどそれらの体への影響は大きくなっていきます。

つまり、再生医療によって元の体に戻るということは麻痺が回復するだけではなく、元の体(筋肉量や関節可動域)を維持しておかなければ本当の意味での「元の体に戻る」ことは不可能かと思います。日常生活を送っている健常者ですら加齢とともに筋肉量の低下や関節可動域の制限が現れてきます。そう考えると脊髄損傷者が筋肉量や関節可動域をセルフエクササイズでどれほど維持し続けられるでしょうか?仕事、家事、子育て、自分の体のこと(排泄など)を毎日毎日行いながらセルフエクササイズも頑張るというのは並大抵のことではありません。お金も相当かかるでしょう。再生医療が実用化されるまでそれを継続し続けなければならないわけです。(実用化され受傷直後に投与が開始されるというようなことになれば少し話は変わってきますが…)

では一体、再生医療の落とし所ってどこなんでしょうか?本当に期待すべき効果とはなんでしょうか?

それは排泄機能障害と性機能障害の改善かと個人的には思っています。

確かに再生医療によって歩けるようなれば、そんな素晴らしい未来が待っていれば良いですよね。しかし未来のことは誰にも分かりません。先ほどもお話しましたが、未来の期待はしつつも、実際には目の前の生活が待っています。

毎日の生活場面で、しかもADL(日常生活動作)QOL(生活の質)に大きく影響する排泄機能性機能の改善が本当に期待すべき効果なのかな?と個人的には思っています。なんの根拠もなく、あくまでも私の期待なのでそうなるかどうかは全く分かりませんが。

これが私の期待する再生医療の未来です。

6−3.脊髄損傷医療・リハビリテーションの未来(私の希望も含めて)

これから先の日本での脊髄損傷医療・リハビリテーションはどうなるんでしょうか?

その前に、今後の日本の話をしますと、2004年をピークに日本は主要先進国の中でも突出して人口減少、少子高齢化が進んでいる国です。大変な未来がもう目の前に来ています。下の総務省の資料に詳細が載っています👇

このような事実も待っていることを認識しておいていただけると良いかと思います。

さて、脊髄損傷医療・リハビリテーションの未来はどうなるのでしょうか?

診療報酬制度、病院不足や人材不足など、これからの日本の将来を鑑みればより厳しくなる可能性は否定できないと思っています。病院での対応もより厳しい診療報酬制度に則って実行されてくるのではないかと思います。

このような背景からおそらくですが脊髄損傷に限らず、退院後のリハビリ需要に応える自費リハ分野が増加してくる可能性があります。数としては少ないですが脊髄損傷に特化した自費リハも今ありますね。しかし、自費リハにも様々な問題があるかなと個人的には思っています。

そんな中、私のようなただの理学療法士になにが出来るのでしょうか?ちょっと考えてみました。

真のニーズに応えるには?

先にもお話したようにTwitterを通して脊髄損傷当事者、ご家族とのやりとりの中で”真のニーズ”を探ってきました。もちろん退院後の脊髄損傷者のリハビリ需要にどのように応えられるかも大事なのですが、ボクが一番感じているのは脊髄損傷の情報不足です。リハビリよりももっと前段階?の生活場面で困っている方が大多数いらっしゃるのではないかなと感じています。しかし、一体なにに困っているのかが具体的に把握仕切れない状態ではあります。そこで現時点での結論は「直接話を聞く(DMやZoomを利用して)」ことが一番良いのではないかと考えています。

しかし、現実的には少し難しいとも感じています。「直接話するのはちょっと」「そこまで求めてないよ」という方も必ずいらっしゃると思います。

しかし、たまーにTwitterでやりとりしたことのないフォロワーさんから「いつもツイート見てます」や「これからも情報発信お願いします」のようなリプをいただけることがあります。「そっか、いいね👍が付いてなくても見てくれている方がいるんだ」と気がつきました。

そこでです。やっぱり情報発信はどんどん発信を続けていくことが大切だということ、Twitterだけではなくもっと多くの方に届けられるツールを使う必要があると考えるようになりました。

■双方向性の情報交換が必要

私が考えている情報発信は”一方向性”の情報発信ではありません。先ほどもお話しましたが、真のニーズが何なのかわからない状態での発信は、もしかしたら誰も求めていない情報の可能性があるためです。医療職にありがちだと思いますが「きっとこの情報は誰かの役に立つ」と思い込んでいることが多いですが、本当に大切なことは脊髄損傷当事者やご家族から伝えられるニーズに応えることではないかと感じています(マスを対象にしつつ、情報発信の1つ1つに”誰か(ペルソナ)”を想定して発信していく)。つまり医療者に足りない視点を指摘してもらい、その指摘に対する回答を医療者として情報発信していけると良いんじゃないかと思います。そう考えると双方向性の情報交換によってお互いの足りない情報を補完し合いながら発信活動を行っていくことが”真のニーズ”に応えられる可能性が高くなると思っています。

■YouTubeの活用

なんか最後の最後、このタイミングでYouTubeの話をすると「壮大なYouTubeの宣伝」みたいになってしまって…

全然そんなつもりはありませんwww

しかしですね、今やYouTubeの影響力は凄まじいです。TVからの変換、YouTubeの時代がもう来ているんじゃないでしょうか?それくらい多くの方がYouTubeをご視聴されています。

私の目標:「脊髄損傷の情報を集めるにはこのチャンネル!」のようなYouTubeチャンネルを目指す

最近ではYouTubeで情報発信される脊髄損傷当事者の方が増えました。しかし医療者の立場からYouTubeで脊髄損傷の情報発信をしている方は見たことがありません。医療者からしかできない脊髄損傷の情報発信があると考えています。

その情報とは、私が今行っている脊損専門セラピストとの情報交換での内容や診療報酬制度、病院でのリアルな現場の状況などがあると思います。

先ほど双方向性とお話しましたが、YouTubeでのLIVE機能を利用すればリアルタイムで視聴者の皆さんとコミュニケーションが可能となります。そこでは有益な情報交換が出来ると思いますし、それをご視聴いただけることでたくさんの方に情報に触れていただける可能性が一気に高まります。YouTubeを活用することでもっともっと情報が行き届きにくい”誰か”に向けて発信していきたいんです。

ご視聴いただける皆さんとともに情報発信していけると最高だなと考えています。


7.まとめ

私があなたに出来ること=情報を発信し知ってもらうこと

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私は「脊髄を損傷しても人生を謳歌して欲しい」と思っています

私は「脊髄を損傷しても人生を謳歌できる」と思っています

こういう道標・手段・方法があるということを知ってもらえるように、これからも脊髄損傷当事者の方、ご家族、脊髄損傷に関わる全ての医療従事者、一般の方々に対して情報発信していきます

私に出来ることは限られていますが、コツコツやっていきます

長くなりましたが、これで私のお話を終わらせていただきます。最後までお読みいただきありがとうございました。


8.SNSで情報発信しています

そうちゃんTwitter👇

そうちゃんInstagram👇

そうちゃんYouTube「そうちゃんねる」👇

記念すべき第1回の投稿を2020年6月1日(月)の20:00〜予定しています。今回は第1回なので簡単な自己紹介とチャンネル内容(今後配信していくこと)の説明をさせていただいてます。よろしければご覧いただけると嬉しいです。👇下記URLからお願いします。

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