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【小説】#11:奥田英郎『罪の轍』

著者:罪の轍
タイトル:奥田英郎
読了日:2023/1/25


あらすじ


オリンピックを翌年に控えた昭和38年の東京に、北海道は礼文島から宇野寛治という青年が上京してきた。
彼は忘れっぽい上に何をしてもうまくいかない不器用さで島民からは蔑まれていたものの、東京に来てからは寛治のことを思ってくれる仲間がいることに嬉しくなる。
しかし、少年時代からの手癖の悪さで空き巣を繰り返していると、被害にあった住宅の住人が死体で発見された。
当時、終戦を迎え電話やテレビといった技術が発展する中で、警察は一つ一つ物証を集め犯人へと迫る。
殺人事件の捜査をしているそんな最中に、小学生の誘拐事件が発生する。
果たして、その殺人事件に寛治は関係しているのか、寛治は人を殺したのか。
実際に起きた事件をモチーフとしたこの作品。警察ミステリーの最高傑作の一つ。


感想


まず言わせてください
「単行本分厚過ぎだろ!」
鉄壁かと思ったわ…
(知らない方のために一応…東大受験のための英単語帳みたいなやつです)
見せたいだけなので買わなくていいですよ。
ていうか鉄壁ってこんな高かったっけ…??

ゆうに800ページを超えるこの作品ですが、一冊あたりのページ数だけで言えば僕が読んだ本の中で最長だと思います。
とはいえ、ダラダラと話が進むわけではなく、定期的に視点が入れ替わりそれぞれの登場人物の見方・感じ方が描かれています。
特に面白かったのはやはり警察の捜査です。
昭和38年、1963年が舞台でまだまだ終戦したばかりの当時。
電話やカラーテレビといった技術がだんだんと進歩するにつれて、警察側も従来通りにはいかなくなってきます。
そんな中些細なきっかけや思いつきで少しずつ犯人に近づく様子や、刑事としての長年の勘を活かすシーンは非常にワクワクしました。
また、ヤクザが頻繁に登場したり刑事とヤクザが親密にやりとりをしている様子が描写されており、そう言った時代だったのだなと考えさせられました。
なのでそこまで本の長さは気にならないのではないでしょうか。

また、北海道の礼文島という北の僻地で生まれた寛治という一人の青年が、日本中を巻き込んだ一大事件に関わっていく様はどこか悲しいような虚しいような感じもしました。
この作品は実際に起きた事件をモチーフにしており、それは同年の東京都台東区で起きた「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」です。
どのような結果になったかは述べませんが、当然ハッピーエンドなわけないですよね。
ミステリの中でもこれまでのような探偵ものとは違いゴリゴリの警察ものの作品ですが、とても楽しく読めました。


余談(ネタバレあり)

以下ネタバレがあるので嫌な方は見ないでください!!








本作品の中心人物の一人で、空き巣の常習犯でありながら殺人誘拐事件を引き起こし、さらに近しい間柄だった女性を殺害し遺棄した張本人である宇野寛治は、その生い立ちや育った環境を考えても思考が歪んでもおかしくはないと感じた一方で、ちょっとこの犯人像はずるいなと感じました。
幼少期に母親はろくに面倒を見てくれず祖母も同様、さらに継父に至っては幼い寛治に当たり屋をさせ、それによって脳に障害を抱えてしまいました。
当然このような背景を知れば同情に値するし、善悪の判断が常人とは逸脱していることも理解できるような気がします。
しかし、精神障害だからといってしまえばそれでおしまいなような気がします。
とはいえ、「犯罪者」が生まれる一つの例であることは間違いないとも感じますが。

また、舞台は昭和38年ということで僕なんかは知り得ない時代な訳ですが、やはりいつの時代でも守る側・追う側は大変ですね。
技術の進歩に伴い犯罪の手口は多様化するし、従来では考えられない出来事が平気で起こります。
この作品でいえば、誘拐事件はまさにその典型例ですね。電話がないと成り立たないでしょう。
世間の反応もまた面白いですね。
いたずら電話やテレビへの露出など、今では当たり前のことが当時は新鮮なものに感じたことでしょう。
最近だとパッと思いついたのはサイバー犯罪ですかね。
日本の警察はサイバー犯罪にはめちゃくちゃ弱いらしいです。是非頑張っていただきたいところ。
作品とは全く関係ありませんがサイバー犯罪で思い出したことで、有名なハッカー集団アノニマスが霞ヶ関を襲うと宣戦布告したものの、間違って茨城県の霞ヶ浦を襲ってしまい後になって
「日本語は難しい」
と言ってたことがありました。
ハッキングはできても文字の識別ができないあたり、ゴリゴリの数学者が普段は文字や概念的な思考ばかりし過ぎて普通の筆算や割り算ができないっていう話と似てるなと思いました。



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