パンを焼きたい
文・撮影/長尾謙一
料理/横田渉
・クイックマンナン
・酵豆粉
・ル・カンテンウルトラ
(素材のちから第39号より)
お店でパンを焼くのは難しいだろうか。時間が経ってももっちりとやわらかで、食事にもサンドイッチ用にも使えたら、大きくコストを下げることができる。
パンも具材も特別なサンドイッチ
テリヤキソースたっぷりのチキンサンド、クラムチャウダーのサンドイッチ、チリコンカンのサンドイッチ、このオリジナリティーがたまらない。
お店でパンを焼くと、新たな展開が見えてくる。
お店でパンを焼くと原価がドンと下がる
レストランでメニューに添えるパンもカフェでつくるサンドイッチも、外食店で使うパンはベーカリーから仕入れるものだと思っていた。生地の発酵をコントロールするのは難しくホイロが必要だと決めつけていたのだが、外食店でパンは本当に焼けないのだろうか?
もし焼けたら、こんなにいいことはないだろう。まずはコストが相当カットできる。パンの主な材料は小麦粉とイーストと水なのだ。
パン職人のような高い技術やホイロがいらない手軽なパンはないだろうかと生地を探していると、かつて弊誌でも〝フォカッチャ〟を焼いたことを思い出した。特別な発酵器は使わなかった。もちろん自家製の〝フォカッチャ〟も極めると、おいそれとはたどり着けない品質があるのだと思うが、きっと食パンやバゲットよりも簡単にできるはずだ。
そこで、イタリア料理店でよく見る〝フォカッチャ〟に目をつけて焼いてみることにした。うまく焼いてサンドイッチをつくり、テイクアウトメニューに力を入れたい。経営環境の厳しい今、チャンスは何でもつかみたい。
今までと、ちょっと違うサンドイッチづくりに挑戦する
さて、〝フォカッチャ〟を焼いてみるが、せっかくなら他と少し違ったものを焼きたいと思う。焼いたパンでサンドイッチをつくり、テイクアウトメニューを強化することを中心に置いて考えたい。そこで、「クイックマンナン」、「酵豆粉」、「ル・カンテンウルトラ」を使った。
「クイックマンナン」は昨年秋の35号で〝フォカッチャ〟を焼く際に使った〝こんにゃくの粉〟である。吸水・保水効果にすぐれているために生地の加水率が上がり、焼き上げたパンはしっとり、もっちりとしていて、時間が経っても硬くなりにくかった。これはテイクアウト用のパンとして好都合だ。サンドイッチのパンが硬くならず乾燥しにくいのだ。
さらに「酵豆粉」も使う。「酵豆粉」は、ほぼ塩味のしない味噌の粉というイメージで、日本人には懐かしい風味を持つ〝旨みのスパイス〟だ。〝フォカッチャ〟の香ばしい風味を上げてくれる。
最後の「ル・カンテンウルトラ」は寒天として固まらないことに価値があるというユニークな寒天で、なめらかな状態で固まるのが特長だ。煮込み料理やスープ、ソースをなめらかに固めれば今まで挟めなかったものを具材として挟める。肉じゃがもサンドできた。
さて、まずは〝フォカッチャ〟を焼いたのでご覧いただこう。
加水率の高いフォカッチャが、スムーズに焼けた。
もっちり、しっとりと硬くなりにくいパンはテイクアウトに最適
それでは、こんにゃくからつくられた粉「クイックマンナン」を使ってフォカッチャを焼いてみよう。
「クイックマンナン」は吸水・保水効果にすぐれているため、加水率は通常の配合に比べて20%多くしてみた。かなり多いが、これだけ生地が水分を抱けば、今までとは違うフォカッチャが焼ける。
最初に薄力粉、強力粉、砂糖、塩、「クイックマンナン」を混ぜ合わせるが、後の工程で生地をそれほど捏ねないため、ここでしっかりと混ぜ合わせておくことがコツだ。泡だて器を使ってゆっくりと丁寧に混ぜ合わせた。
これにお湯と、オリーブオイルを加えて混ぜるが、加水率が高いために生地がベタつき、まとまりにくくなると心配したがスムーズにまとまった。
生地は室温で発酵させた。22℃くらいだっただろうか。室温が下がる冬は暖房をつけておけば問題ないはずだ。棚の上など部屋の高い所に置くと温度が高くていいかもしれない。
一次発酵した生地を天板に広げて伸ばすが、広く伸ばせは伸ばすほど薄くなるため、パンの厚みはここで調整する。小さく成形しないので、とても作業性よく、焼き上がりを自由にカットできる。
伸ばした生地を40分ほど二次発酵させるが、直接ラップをかけると生地にくっついてしまうので、生地に接触しないように工夫したい。
二次発酵が終わったら、オリーブオイルをかけ、指で穴をあけ200℃のオーブンで15分ほど焼いた。
加水率の高いフォカッチャは意外にスムーズに焼けた。狙い通り、水分を多く抱いたフォカッチャは焼成後時間が経ってもやわらかく、もっちり、しっとりとしている。「クイックマンナン」の効果だ。これはテイクアウトを強化するサンドイッチメニューにもってこいだ。
「酵豆粉」を加えたフォカッチャでは、「酵豆粉」を加えた分量を薄力粉、強力粉を減らすことで調整した。
〈クイックマンナンを加えたフォカッチャのつくり方〉
① 薄力粉、強力粉、砂糖、塩、ドライイーストを混ぜ、「クイックマンナン」を加えてさらによく混ぜる。
②35〜40℃くらいのぬるま湯を加え、さらにオリーブオイルを加える。
③全体を木べらで混ぜると、何となく生地がまとまりはじめる。
④木べらをとり、あとはボールの中で手で捏ね、ひと塊になったら生地をまとめる。
⑤ラップをして1時間ほど室温(22℃くらい)で一次発酵させる。
⑥焼成用の天板にオリーブオイルを塗っておく。
⑦ラップを外し、ベタつく生地をとりやすくするために薄力粉を軽くふる。
⑧生地をカードですくいとり、オリーブオイルを塗った天板に生地を移す。
⑨ 最初は両手を使って伸ばし、ある程度伸びたら綿棒で表面をなだらかにする。
⑩伸ばした生地を袋で包み、40分ほど二次発酵させる。
⑪生地をとり出し、上からオリーブオイルをかけ、指で穴をあけ塩をふる。※オリーブオイルと塩はレシピ外
⑫200℃に温めたオーブンで15分ほど焼成して仕上げる。
〝今までになかったサンドイッチができる〟 という仮説。
「ル・カンテンウルトラ」でサンドできなかったものがサンドできる
さて、パンの準備はできた。「ル・カンテンウルトラ」で今までにないサンドイッチをつくってみる。
まず、メキシコ料理の定番、チリコンカンを挟んでみた。
煮込んで水分量が3分の1ほどになったら、仕上がりの全体量に対して4%の「ル・カンテンウルトラ」を加えて溶かし冷ました。
冷えたらこれを「酵豆粉」を混ぜたフォカッチャでサンドした。香ばしい風味がチリコンカンに合うと思ったからだ。とろりと流れ出てしまいそうだが、サンドは崩れない。しかも、ソースは生地に染み込まない。これは「ル・カンテンウルトラ」が水分を抱いて水分移行させないからだ。もっちりとやわらかなフォカッチャとチリコンカンの組み合わせは新鮮だ。
煮込んだ料理がサンドできるのなら、カレーやシチューもサンドできる。
次にエビチリをサンドした。
これもチリソースをサンドできるかがポイントだ。最後に水溶き片栗粉を加えて仕上げる時に、チリコンカンと同じく仕上がりの全体量に対して4%の「ル・カンテンウルトラ」を加えた。断面も綺麗だ。エビもおいしいしチリソースで食べるフォカッチャもなかなかである。
さて、次に挟んだのがクラムチャウダーだ。白身魚のフライと一緒にサンドした。
スープがサンドイッチになるのなら、コーンスープや野菜のスープ、チキンのコンソメスープもメニューになる。〝スープをサンド〟、なかなかキャッチーなコピーだ。
今度は〝鶏むね肉テリヤキサンド〟だ。
普通のテリヤキサンドとソースの量が違う。テリヤキソースは一旦鍋で沸かし、全体量の4%の「ル・カンテンウルトラ」を加えた。もっちり、しっとりしている生地との相乗効果で実にジューシーだ。
最後に〝たっぷり野菜のバーニャカウダーソースサンド〟をつくった。
このソースも「ル・カンテンウルトラ」は全体量の4%を加えた。細かく刻んだたっぷりの野菜に味の濃いソースを添えると、野菜から水分が出る。コールスローのキャベツを想像していただきたい。しかし、「ル・カンテンウルトラ」を加えたこのバーニャカウダーソースは違う。野菜から水分を引かないのだ。敷いたレタスもシャキシャキしているのだ。だから、たっぷりのソースでたっぷりの野菜をサンドできるのだ。テイクアウトしても心配ない。
自店でフォカッチャを焼く経済性、新たな食感と時間が経っても硬くなりにくいメリット、煮込み料理もサンドできるユニークさ。どうやら仮説を立てた〝今までになかったサンドイッチ〟ができるような気がする。
(2020年11月30日発行「素材のちから」第39号掲載記事)
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