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〈秋の「深み」を表現するレストランデセール〉 デセールに秋の〝深み〟を表現する組み立て

文・撮影/長尾謙一 

秋の素材を使えば秋のデセールができるわけではない。
色、甘み、香り、形、すべてに深まる秋が表現されているからこそ
奥行きのある秋のデセールになるのだ。
皿の上に深い秋の物語をのせたい。

〈今回の素材〉
プチマロン シロップ(サバトン)
AOP シャテーニュ ダルデッシュ クリーム(サバトン)
パータグラッセ ブリュン スイートタイプ(カカオバリー)
ココアパウダー プランアローム(カカオバリー)
冷凍クーリー フレーズ(レ ヴェルジェ ボワロン)
クーべルチュール ピストール エヴォカオ 72%(カカオバリー)
ハチミツ アカシア(アピディス)
AOP フレンチバター アーモンドタルトシェル ラウンド(丸)中(ラ ローズ ノワール)
(素材のちから第46号より)

秋のデセールからは、深みのある秋色の物語が見えてくる。

レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)
オーナーシェフ 高良 康之 さん

色彩で〝深み〟を追求していくと、味、香り、形も一緒に〝深み〟を増す

秋のデザートを発想する時に、テーマ食材を先に絞って組み立ててしまうのではなくて、まず、秋が持っている季節の特徴を想像してみましょう。

四季の中で〝深まる〟と表現されるのは秋だけですね。暑い夏が終わって気温も下がり、虫の音が聞こえはじめると木の葉が色づき秋は深まります。そして、徐々に寒さが増してきて紅葉も散りはじめ、やがて冬が近づいてきます。

秋は他の季節より気温や景色の移り変わりが大きいために印象的なことが多く、過ぎていく時間に奥行きを感じます。

こんな風に四六時中秋を想像していると、ふっと突然頭の中に〝色〟というキーワードが浮かんできたりします。そうしたら次に、茶色やワインカラーなど具体的な秋の色をイメージして、栗や木の実やチョコレートといった素材を選びます。

しかし、こうした素材さえ使えば秋のデセールができるわけではありませんね。栗や木の実やチョコレートを使うデセールは秋じゃなくても一年中ありますから。

そこで自分の発想に戻ります。〝深まる〟と表現されるのは秋だけだと見つけたならばデセールにも〝深み〟を表現すべきだと気づき、思い浮かんだキーワードの〝色〟で〝深み〟を追求しようと思いはじめます。そして〝色〟で深みを組み立てていくことで、味、香り、形も一緒に〝深み〟を増していくのです。

今回は秋の〝深み〟をテーマにして、その切り口をいろんな方向から見つけようと、〝料理の発想〟〝お菓子の発想〟〝王道な発想〟の3つのシチュエーションでデセールをつくりました。料理人、パティシエそれぞれの発想と技術を重ねることで、お皿の上にそれぞれの秋の物語を表現したかったのです。

さらに、何といっても素材の表現力は重要です。マロン、チョコレート、フルーツソース、タルトカップ、はちみつなど、デセールのための素材は使いやすいものがたくさんありますから、常に情報をチェックしておきたいですね。

茶系の色のバリエーションでもの悲しい秋を表現

【組み立てのヒント】
秋を表現する素材として栗を使う。豚の血を使うという料理人の発想をベースに、味、香り、テクスチャの違う茶系の要素を組み合わせる。

まず、マロン、ブーダンノワール、ソルベカカオを組み合わせたこの一皿は、料理人が発想する秋のデセールです。

ブーダンノワールは、玉ねぎのみじん切りを豚の背脂で透き通るまで火を入れ、そこに生クリーム、「AOP シャテーニュ ダルデッシュ クリーム」と「クーベルチュール ピストール エヴォカオ」を加えて火を止め、余熱で綺麗に混ぜます。

そこに砂糖、塩を加え豚の血を入れアングレーズソースを炊くようにゆったりと火を入れていきます。固まるギリギリ手前まで火を入れたら、そのままお皿に流して160℃のコンビオーブンで25分ほど焼きます。冷めたら冷蔵庫へ入れて締め、表面にカソナードをふってキャラメリゼします。

ソルベカカオは下のブーダンノワールがしっかりとしているので、水をベースにして水飴とグラニュー糖と「ココアパウダー プランアローム」で、さらっと軽いアイスクリームにしています。

マロンは甘みの強いシロップ煮の「プチマロン シロップ」を添えました。
豚の血を加熱した時に出る甘みと「AOP シャテーニュ ダルデッシュ クリーム」の純粋な栗の甘みをフルーティーな風味のチョコレートでつなぎ、そこに、キャラメリゼ、ソルベ、マロンのシロップ煮の茶系の要素を加えました。

このように色、味、香り、テクスチャに変化をつけて、もの悲しい秋を表現しています。

SDGsなクーベルチュールを秋のデセールの主役に立てる

【組み立てのヒント】
主役に立てたいチョコレートをどっしりとしたガナッシュに。ピスタチオのクリームにはメレンゲを合わせて脇役に。

次は、皿盛りのデザートの中にケーキの要素を入れたお菓子の発想のデセールです。テーマは、廃棄されてきたカカオの果肉部分も使用し、100%カカオ由来原料の「クーベルチュール ピストール エヴォカオ」の赤いベリーの香りをピスタチオの風味に重ねて秋の〝深み〟の主役にすることです。

下からビスキュイジョコンド、ピスタチオのクリーム、ビスキュイジョコンド、チョコレートのガナッシュ、ビスキュイジョコンド、ピスタチオのクリームと重ね、最後に「パータグラッセ ブリュン スイートタイプ」で表面を調えます。バニラのアイスクリームとイチゴをのせ、「冷凍クーリー フレーズ」をソースとして流しました。

ビスキュイジョコンドの生地にはピスタチオのパウダーをちょっと入れてます。その上にパータボンブとピスタチオペーストを合わせたクリームを重ねますが、卵黄が濃厚さを出しますからピスタチオの風味が強くなってしまうので、イタリアンメレンゲを一緒に入れてわざと軽くします。

逆に「クーベルチュール ピストール エヴォカオ」はどっしりとしたガナッシュにします。赤いベリーの風味を前面に出したいので、わざとムース状にはしません。

100%カカオからのみつくられたホールフルーツチョコレートである「クーベルチュール ピストール エヴォカオ」の風味がとても印象的です。

タルトシェルに詰まった香ばしさは圧倒的なくるみの存在感

【組み立てのヒント】
タルトシェルのカップの形状をいかして、中にくるみの生地を流し、香ばしいパーツを次々と重ねる。

木の実を使ったタルトなどの焼き菓子は、秋のデセールの王道中の王道です。下の生地には「AOP フレンチバター アーモンドタルトシェル ラウンド(丸)中」を使います。バターの風味がとてもよく、お皿にのせたときの収まりがいいサイズです。

その中には「ハチミツ アカシア」、卵、ローストしたくるみを入れてゆったりと焼いた、中華のお菓子の月餅をイメージするようなねっとりした生地を入れます。

鍋でキャラメルをつくり「ハチミツ アカシア」を加え、そこに香ばしくローストしたくるみを入れ、キャラメル状のくるみをつくってタルトの上にのせます。こうしてくるみを2つの方法で生地と合わせて表現します。

さらに、ここにもっと香ばしい食感が欲しいので、バターを加えてつくったオパリーヌで全体を包んで炙ります。重なりあう香ばしさをバターの風味が包み込むようにタルト全体を一体化させます。最後にアイスクリームをのせますが、下がもうしっかりと重いので「ハチミツ アカシア」が香る重めのアイスクリームにしました。

タルトのサクッとした香ばしさと、中に入れたねっとりとしたくるみの生地、キャラメルコーティングされたくるみの香ばしさ、炙ったオパリーヌの香りと飴のような食感、そして濃厚なはちみつ風味のアイスクリーム。深まる秋を味わう奥行きのあるデセールができました。


協力/お問い合わせ:日仏商事株式会社

(2022年9月30日発行「素材のちから」第46号掲載記事)

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