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一週遅れの映画評:『オクス駅お化け』※途中にある”お願い”は必ずやってください※

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『オクス駅お化け』です。

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 ホラー作品で、怨みを持って死んだヤツが怪異の原因ってのはよくあるじゃないですか。で、その人物って子どもである確率って結構高くて。というのも、そっちの方が怖いからなんですよね。
 こう例えば「××すると呪われる」とかって怖いことは怖いですけど、逆に回避方法は明白じゃないですか。その行動をしなければいいのだから。それって「交通事故が怖い」とあんま変わんないわけですよ、気を付けていればかなりの確率で回避できる。
だけど原因もなく襲ってくる恐怖ってのも、あんまり響かないわけです。それって完全に偶然だから「明日、隕石が頭の上に降ってきたらどうしよう」みたいなもので、結論「どうしようもねぇな」になってしまう

 だからその中間。「一見ルールはあるけど、明らかに謎の例外がある」とか「なんらかの法則はありそうだけど、それがハッキリしない」あるいは「理由がわかったぞ! と思った途端、それがひっくり返される」とかが一番怖いわけです。
 そして子どもは唐突にルールの変更したり、自分だけにしか通用しない理解で動きがちなので、そういった「怖い」を演出するのに違和感が無いし、緊張感をもたせることができるんですね。
 
 さて、ここからネタバレに入りますよ。よろしいか?
 
 このオクス駅は今でも稼働しているホームと、数年前に廃駅となったホームの2つがあるんですけど。今回の怪異が蠢いているのは廃駅の方です。実はこのオクス駅、建設前は児童養護施設があったんです。ただここがひどい悪徳施設で。子どもたちに対して振り込まれるお金を横領し、しかもその子どもたちを使って臓器の密売をしていた。
 最後には井戸の中に子どもたちを閉じ込め、殺害してしまう。その怨念が人々を襲っているんですね。

 これがその怨念に付け狙われるとできる、ひっかき傷なの。みんなにはこうならないように、おまじないを教えるね。絶対やってね”お願い”ね。
”1121”
 この数字を声に出して読むだけ。あとは”0816”とか”1006”とかでもいいんだけど、大事なのはそこで何があったか知った上で、この数字を声に出して言うこと。ほら、日本の怪異でも「事前にお払いしないといけない」みたいのってあるじゃん? それと同じ感じ。
 言った? 大丈夫? じゃないとその怨念に狙われた印として、こういうひっかき傷ができちゃうからね。
 
 で、この映画でその謎を追うのがゴシップネット記事が専門の編集部にいる若い女性ライターなんですけど、このオクス駅が元々児童養護施設だったことを知れたのは、ある協力者がいたからなんですよね。
それがこの呪いで死んだ男性の妹で。彼女は元々その児童養護施設にいて、最後の井戸へ生き埋めにされるところにも立ち会っていた。それがあまりにもショッキングで記憶を失っていたのだけど、兄の死と主人公の協力によって思い出す。
 それで判明したその事実を記事にまとめるんだけど……社長から直々に掲載不可、それどころか主人公は出勤停止自宅待機まで言い渡されてしまうのね。
その理由というのも、実はオクス駅の真実を建設中に暴いた記者がいた。それが何を隠そうこの社長なんですよ、だけど政治的圧力とかこのネタを握っていることでのし上がろうとする野心やらがあって、公開しなかった。だからここで主人公にスッパ抜かれると困る、まぁ半分はやっかみもあるんでしょうけど。
 社長の対応にブチ切れた主人公は、退職願を叩きつけると共にある”お願い”をするんですよ。
 
 その”お願い”に関係ある話なんですけど。
 件の児童養護施設では、子どもたちを4ケタの番号で呼んでいたのね。それはその子どもに対する振り込みが年に一回される日付で、例えば今日10月16日に振り込まれるなら”1016”って感じで。
それでさっき、生き埋めにされるとことに立ち会った妹の話したでしょ? 彼女も本当ならみんなと一緒に井戸に閉じ込められて殺されるはずだったの。だけでひょんなことから、井戸から出ることを許されて助かった。
 それをその場で見ていた子どもたちは、こう思うわけですよ「ぼくたちも助けてもらえるかもしれない」って。ただそれが子どもの持つ思考の理不尽さというか、曖昧さが手伝って「自分たちが引き上げてもらえる」と「相手を引きずり落とす」がごちゃごちゃになっている。
だから生き埋めにされた子どもたちの霊魂は、自分たちを助けてくれる人だと思って「引きずり落とし」ちゃう。本当はこのオクス駅で起きてる怪異って、怨念なんかじゃなくて、ただただ「助けて欲しい」っていう子どもたちの願いなんですよね。

 それでね、その生き埋め回避した妹は井戸から出してもらうにあたって「”1012”出てきなさい」って言われてるの。だから子どもたちもこう思うわけですよね、「あ。自分の番号が呼ばれたら助かるんだ!」って。
だからこのオクス駅の怪異は「この子どもたちの末路を知っている」人が「該当する4桁の数字」を言うことで襲い掛かってくるんです。これって完全に視聴者を怪異に巻き込んでいて、だってこの作品を見たってことは「この子どもたちの末路を知っている」条件はクリアしてるわけで、あとの4桁って月と日じゃん。0101から1231までの数字をなんかの機会に言ってしまうだけでアウトなんだから。例えば電話番号がたまたまその4桁だったらもう終わりなわけさ。
 なんかこの「視聴者を巻き込んでいく」感じと、その巻き込みかたが去年の『呪詛』をちょっと思い出す感じありますね。
 
 その「巻き込み」の象徴として、主人公は最後の”お願い”に社長へ「”0816”って言ってください」って告げるのよ。この社長はオクス駅建設当時のことまでしか知らないわけで、怪異の発動条件に関しては未知なのね。だから社長は「”0816”」って言ってしまって、呪われるわけさ。
 ここで「子どもたちはただ助かりたいだけ」なんだけど、その気持ちを主人公は「復讐の道具」として使う。子どもたちは金のために殺されて、そしてなお利用されるっていう悲しさがここにはあるんですよね。
 
 そして最後にお伝えしたいのは「引きずり落とそう」する呪いによって、これににかかった人の手にはひっかき傷ができてしまうです。しかもこの呪い、譲渡されるの。「一番最後にその数字を言った人」に、その呪いは移る。
 
 で、うまくいくとこうやってひっかき傷は消えるわけw

 どうやら誰か、映画を見てないけどこの映画評は読んで”お願い”を聞いてくれたのね。おかげで私は助かったみたい、ありがとう。手にひっかき傷ができたひとは頑張ってくださいね……例えばこの映画評を広めるとか。

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 次回は『キリエのうた』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。


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