A Waiting Man
その男はただ待っている。
時刻表のないバスを。そもそも来るか来ないかもわからないバスを。
バス停にはその男しかいない。おそらくこれから先も永遠に一人だろう。
ヘッドライトの明かりを感じる度に男は期待で目を輝かせる。しかし期待はいつも裏切られる。
雨が降ってきた。それもとびきりの大雨だ。びゅうびゅう吹く風に怯えながら、ぼろぼろトタン屋根の下で一人ぽつんと待っている。突然雷が鳴って、男は泣きそうになった。
しばらくすると、今までの雨が嘘の様に晴れた。逆に強い日差しが照りつけた。男は喉がカラカラになった。手持ちの水筒にはあと少ししか水が残っていなかったが、それでも男は辛抱強く待っている。
またしばらくすると、今度は雪が降ってきた。男は寒さにぶるぶる震えながら、自分の身体のあちこちをさすった。男は自分の過去を思い出しながら、ベンチの片隅でバスを待っている。意識が朦朧としかけて、男は必死に自分の頰を叩いた。
男がもうダメだと思ったすんでのところで雪は止んだ。そのかわり日はすっかり暮れていた。丸い月が夜空の奥から男を見つめていた。男はだんだんバスを待つのをやめようかと思った。そもそも男はそのバスがどこ行きなのかも知らなかった。
それでも男は結局人生をかけてバスを待った。その間にはいろんな困難があった。
ある日、バスはとうとうやってきた。乗客も運転手もいない不思議なバスだった。乗るべきか乗らないべきか。でも男には覚悟ができていた。男はバスのステップに足をかけた。男は、長い時間待ったためにバスに乗ったのではなかった。
では男は何のために人生をかけて待ち続け、何を思ってバスに乗り込んだのか。
でもそれはきっと、君にもわかってることじゃないのかな。
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