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ものさし屋さん

まだ僕が小さかった頃、近所の「ものさし屋さん」がこんな話をしてくれた。


「人はね、生まれながらにそれぞれ自分のものさしを持っているんだ。

不思議なことにそのものさしは人の成長に合わせてすくすく成長するんだ。

それから、君に成長期があるように、ものさしにも成長期みたいなものがある。

でも大抵の場合、君の成長が止まっちゃう頃には、ものさしの成長も止まっちゃう。

もちろん完全に止まっちゃうわけじゃないんだけどね。身長と一緒さ。

ところで君はものさしってものはみんな真っ直ぐな形をしていると思うだろう?

実はそうじゃあない。「く」の字に曲がったものさしを持っている人もいるし、三角のものさしを持っている人もいる。丸いものさしを持っている人だっているんだ。

だからまず君は、自分のものさしがどんな形をしていて、どんな大きさなのかを知ろうとしなくちゃいけない。

だってものさしの形や大きさを知らなきゃ、ものを測れないからね。

大人でも時々、自分のものさしの形を知ろうとしないまま、ものを測ろうとする人がいるんだよ。

そういう人はもちろんうまく測れなくて、ちょっと困ったことになっちゃうんだ。


それからこれも大事なことなんだけど、自分と他人のものさしの形や大きさを比べちゃダメなんだ。

だって、君の持ち物は君にしか測れないんだよ。

他人のものさしを使っても、君の持っているものは決して測れないんだ。

君の持ち物は君のものさしにしか測れない。よく覚えといて。

おじさんに言わせてもらえば、大きいものさしが良いってわけでもないんだ。


最後に。将来君はこう思うかもしれない。

人にはそれぞれ生まれた時からものさしが与えられるけど、その〈しくみ〉にはなんだか偏りみたいなものがあるぞ!ってね。

そしたら君はその〈しくみ〉を変えたいと思うかもしれない。

でも〈しくみ〉を変える時には、君はまずその〈しくみ〉の形や大きさを知らなきゃいけない。そうだろう?

そういう時はどうすれば良い? そうだ。君のものさしを使うんだ。

でもその〈しくみ〉はとっても大きいうえに複雑な形をしているんだ。

だから色んな人の色んなものさしが必要なんだよ。君のだけじゃ測れないんだ。これもよく覚えておいて。 」


大人になって、僕は「ものさし屋さん」の言いたかったことがちょっとわかってきたような気がする。





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