見出し画像

「あなたのためを思って」って言わないで

私を育ててくれた母は、躾に厳しく、よく感情的になる人だった。そして怒りに任せて散々きつい言葉を私に浴びせた後、いつもこう言った。

「あなたのためを思って言っているんだよ」

幼い頃はその言葉を疑う頭もなかったが、大人になった今は、それって子ども相手に感情的になって怒った自分への言い訳だったんじゃないかと思う。

子どもの頃の私は、決してやんちゃなタイプではなかったが、些細なことで毎日のように叱られていた。今思うと、結構どうでもいいようなことが原因だった気もするが、言葉だけでなく手が飛んでくることもしょっちゅうあった。

そんな母は子どもが産めない体で、私は物心つく前に養女として両親に迎えられた。世間体を気にするタイプだったので、生さぬ仲ゆえに、私を「良い子」に育てなければ。と、自分にプレッシャーをかけていたようだ。

だから私は今でも
「あなたのためを思って」という言葉が嫌いだ。


そしてそれと似たようなところで
「相手の立場になって考えてみなさい」
というのも、じつは好きではない。

白状すると20年以上前、子育て中だった私は、まさにこのセリフを子ども達に言いながら育児をしていた。「相手の身になって考えなさい。」
今となっては恥ずかしい。

そもそも人はそれぞれ違った個体で、性格も感情もバラバラ。皆それを知っているはずなのに、なぜか相手の身になって考えてみろ、と言う。
自分のした事や放った言葉が、相手にどんな影響を与えるかを想像することに意味がないとは言わない。ただ、自分以外の人の考え方や感情が自分と同じとは限らない。だから相手の身になって考えたところで、お門違いなことだって大いにあるだろう。

相手の気持ちが定かでないなら、せめて自分の気持ちだけでもしっかり伝えて、コミュニケーションを取ってみたいと思う。どんな相手でも敬意をもって丁寧にかかわりさえすれば、良い関係が作れるのではないだろうか。

そして、まだ自分の気持ちを上手く言葉で表現できない子ども達に対しては、今どんな気持ちでいるのかを、私たち大人はいちいち問いかける義務がある。叱るでも、言い聞かせるでもなく、人間同士として対話をするのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?