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多様性社会で広がる「スポーツ×美容」の可能性

この春、表参道が「大谷一色」で染められた景色をご覧になり驚いた方は多いのではないでしょうか。
3月19日から約1カ月間、高級ブランドが立ち並ぶ表参道のケヤキ並木通りがパープルカラーの化粧品と大谷翔平で染められました。
高級コスメブランドで知られる「コスメデコルテ」を展開するKOSÉは、2023年から2年連続で大谷翔平選手とグローバル広告契約を締結し、広告やポップアップのキャンペーン等、様々なプロモーションを実施しています。

KOSÉは今年のキーメッセージを下記の通り発表しました。

「超えたい自分がいる限り。」

株式会社コーセーのPR TIMES

超越した気品と美しさを纏った新しい一面を見せ、まさに『コスメデコルテ』の“誇りある美”を体現する大谷選手。どんな快挙を成し遂げても、常に最高の自分を目指し、挑み続け、自らを超え続けることで生まれる唯一無二の輝きを、世界中へ。コスメデコルテと大谷選手は、挑戦と革新を絶え間なく続けていきます。

アスリートが持つ無形の価値を市場価値と捉えてマーケティングに活用する行為が拡大されていることは、スポーツの持つ価値を拡大しているとも捉えられます。
大谷選手×コスメデコルテの事例からもわかる通り、「スポーツ×スキンケア」という組み合わせは女性だけでなく、性別を問わずに成立する組み合わせとなってきています。

また、アスリートの日常生活とスキンケアが結びつくことはイメージしやすいですが、「プレー中も美しくありたい」というアスリートをサポートする美容ブランドもどんどん増えています。
スキージャンプの高梨沙羅選手がメイクをして競技に参加した際に物議が起こったように、日本では「競技中にも容姿を美しく保ちたい」という考え方はまだ受け入れやすいものではないかもしれません。
ですが、アスリートがどんな時も自分らしく、美しくありたいと願う気持ちは、本質的にはこれまでにはなかった側面でアスリート/スポーツの価値を広げるきっかけになりうるということを是非この機会に知っていただけたら嬉しいです。


高梨沙羅選手メイク批判にみる日本の現状

2012年に行われたスキージャンプワールドカップにて、当時15歳であった高梨沙羅選手が初優勝し大きな注目を浴びました。女子スキージャンプの期待の新星として登場した若き高梨選手はその後、思わぬ側面で多くの人から心無い批判を浴びることとなりました。彼女が女性アスリートとしてメイクをして競技に参加したことに対して、SNSを中心に「メイクしている暇があれば練習しろ」といった厳しい批判・コメントが殺到したのです。

メイクをして競技に参加するアスリートは高梨選手だけではなく沢山存在する中、高梨選手に批判が集中した理由は複合的な要因(スキージャンプが芸術スポーツではない点、競技成績面でのタイミング・・・等)があると思われますが、高梨選手のように外見を磨いて競技に参加するアスリートへ批判的な反応が起こる要因は、日本では教育としてスポーツ(体育)が成立してきた日本ならではの思考にあると考えられます。

一方で日本でも昔から「スポーツ×美容」は成立していた

上記のような現状はありつつも、スポーツと美容の組み合わせはこれまで日本でもマーケティングとして活用されています。スポーツやアスリートが持つ洗練されたイメージやたくましく健康的なイメージは、これまでスキンケアやボディケアの広告として価値を発揮してきました。
特にフィギュアスケートやアーティスティックスイミング(シンクロ)、新体操等の美しさを競う「芸術スポーツ」においては、時代に関わらずヘアメイクをして美しい状態で競技に参加することが当然とされてきました。
特にフィギュアスケートでは曲・動き・技・ヘアメイクに加えて衣装や表情も芸術点の評価ポイントとなるため、外見での美しさも重要なスキルの一つとなっています。
実際、化粧品メーカーのPOLAは芸術スポーツである新体操女子日本代表のオフィシャルパートナーとなっています。

美しさが評価基準となるのであれば、その美しさをサポートする企業が存在することは当然です。では、美しさが評価基準にならない競技のアスリートが競技中に「美しくありたい」と思ったとき、企業はサポートするでしょうか?これまでであれば答えは「NO」が主流だったと思います。
但し、近年は「自分らしさ」「自由」といったキーワードが主役となるような時代です。人の個性を抑制するものは良くないという考え方のもと、ハラスメントなんぞ絶対ダメ。そんな時代においては、企業にとっても「皆が自分らしくあることを尊重する企業である」「自由・平等を大切にする企業である」といった表明・イメージが非常に大切になります。その点、スポーツ(アスリート)は「強く」「美しく」「健康的」「逞しい」「平等」「誠実」といったイメージを備えているため、企業にとってはブランディングとしてもマーケティングとしても最適な価値を発揮する存在であるといえます。
このような点に着眼した美容ブランド・コスメブランドは次々とアスリートとの関係を築き始めています。

米国でみられるスポーツ・アスリートを活用したコスメブランドによるマーケティング

アメリカでは近頃、美容業界が女子大学アスリートをマーケティングとして起用する動きが盛んになっています。
ニューヨーク発の化粧品ブランド「Glossier」は、これまでボディケア製品を中心としてWNBAとパートナーシップを締結していましたが、2023年よりファンデーション製品のキャンペーンへの女子大学アスリートの起用を開始しました。

注目すべきは起用されたアスリートが芸術スポーツに限らないという点です。キャンペーンに起用されたアスリートはバスケットボールや陸上競技等、外見の美しさが評価基準にはならない競技の選手たちが多いのです。このことから、美容業界はアスリートがコート上でもコート外でもいつでも好きなように、ありたいように、美しくいられることをサポートするという点でアスリートに価値を感じているといえるでしょう。

コスメはもはや性別に捉われない

さらに、美容界はもはや性別に捉われていないことで、「アスリート×コスメブランド」という関係性は女性アスリートでなくとも生まれ始めています。
韓国アイドルに象徴されるかもしれませんが、メイクをするのは女性だけではありません。男性がメイクをすることは異常なことでも特別なことでもない時代です。

ヒューストン・ロケッツのバスケットボール選手 ジェイレン・グリーンはネイルポリッシュブランド「Un/Dn Laqr」のブランドアンバサダーに就任し、オリンピック金メダリストである飛び込み選手 トム・デイリーは英国の化粧品ブランド「リンメル」のグローバルブランドアンバサダーに就任しました。バスケットボール選手や飛び込み選手は芸術スポーツではないため、見た目の美しさは競技を行う上では関係ありません。
コスメはもはや性別も超え、競技内外をも超えてスポーツとの可能性をどんどんと広げています。上記の事例は、競技上必要だからサポートするのではなく、コート外/競技外でのアスリートの価値をマーケティングに活用している事例であるといえます。

最後に

今回は「スポーツ×美容」という観点でスポーツの価値が着実に広がっていることが伺える事例をいくつかご紹介しました。この2つの掛け合わせももちろんですが、多様性・個人の尊重がより重んじられるようになっている現代社会では、「美容・コスメ」の世界も大きく変わってきています。数年前までは韓国の男性アイドルがメイクをしている姿が日本では異様な姿に映っていましたが、現在では様々なメイクをする男性アイドルを当然のように受け入れて好み、日本でも男性がメイクすることに対する受容度は上がっていると感じます。そういった意味では美容・コスメ業界の市場はどんどんと広がっているといえるでしょう。美容業界を始め、現代社会の考え方の変化に沿って生まれているチャンスをより活かす方法がスポーツとの掛け合わせになれば、相乗効果でスポーツの価値にも良い影響が沢山ありそうですね。今後も変わりゆく社会とともにスポーツがどのような可能性を広げられるのか注目していきたいと思います。

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