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成長戦略としてのスタートアップM&Aに関する考察_2023/12時点

10Xが運営するpodcast、10X.fmの「山田の部屋」という企画にて、直近二回に渡り、NYC在住しながら、複数の日本のスタートアップ企業のM&A・ファイナンス面の支援を行っている佐々木さんをゲストにお迎えし、前編・後編の2回で今後の日本におけるスタートアップM&Aの展望について議論させて頂きました。

このpodcastでの対話を通じて、スタートアップにおけるM&A(スタートアップが買う側・売る側双方の場合があります)は、今後のスタートアップエコシステムの進化において確実に一つの重要テーマと感じましたので、podcastで佐々木さんからお話し頂いた内容の抜粋とそれに対して私自身が感じていることを簡単に本noteでまとめて見ました。

スタートアップのM&A領域は日本においては完全に黎明期と感じますので、少しでもキーワードとして引っかかった方にご覧いただけると嬉しいです。そしてこの領域は、正解がなく、これからどんどん進化していく分野と思いますので、さまざまなご意見・ご反応があると嬉しいなと思っています。(今後の進化を前提に、タイトルも「2023/12時点」という記載にしており、今後も何かの折にupdateを続けていくつもりです)

1/レイターステージ以降の成長ドライバーとしてのM&Aという選択肢の重要性

Podcastからの抜粋
・US vs JP: スタートアップのエグジットはUSがJPの約10倍(件数ベース)
・直近、日本のM&A件数は増えているが、金額はまだまだ小さい(USのような大型M&Aは多くない)
・特定の産業に深く入り込んでいる会社にとって、周辺領域をM&Aして成長を加速する意義は大きい
・実際にAnyMind GroupやGenda、AppierなどIPO前に複数のM&Aを実施して、大きな規模で上場する事例も出てきている
・スタートアップM&Aにとって、難易度が高いのは対象アセットを探すこと。M&Aを積極的にしている会社という知名度をアピールしないとそもそも案件が入ってこない。事例が次のM&Aのソーシングに繋がる
・とにかく取り組んでみないと1件目に繋がらない。1件目をやらないと2,3件目には繋がらない

従来、日本においては、マザーズに比較的小さい企業価値でも上場可能であったことから、未上場スタートアップがレイターステージでM&A等の手段を取るよりも前に、そのまま初期のコア事業を軸に上場を選択することが多く、それがスタートアップによるM&Aが増えない背景にあったと感じます。

ただ、昨今スモールIPOの後の成長の難しさ(上場しながら大胆な投資を実行することの難易度の高さも含む)や国を挙げた大型IPOに対する期待感の高まりなどもあり、今後はIPOまでの未上場の期間が伸び、その期間でM&A等の選択肢を積極的に検討していく事例が増えやすい地合いになりつつあります。(未上場段階からM&Aを成長戦略のコアに据えていたGENDA、Appierの事例)

実際にスタートアップが二の矢・三の矢の成長事業の仕込みを考える上での難しさとして、スタートアップという企業体の特性上、どの会社もコア事業で突き抜けるべく社内のリソースをコア事業に強烈に集中させていることが多いです。M&Aの魅力としては、そうした社内リソースのコアへの注力を維持しながらも、買収を活用し時間とリソースを買いながら、周辺領域にある次の成長の柱を高速に探索することができるというメリットがあります。

また、スタートアップを支える環境変化もM&Aの加速を後押ししそうです。これは、レイターステージの投資家にPEファンドのような成長支援メニューとしてのM&Aが得意なプレーヤーが増えてきたことが挙げられます。実際にKKR、BainCapital、Carlyleなどの米系の大手PEが日本のスタートアップに投資する事例は増えてきていますし、こういったプレーヤーはすでに米国等で
グロース投資を10年以上に渡り経験しており、M&Aを資金・実行両面で支援できる能力を持っています。

更に、スタートアップが買い手となるM&Aだけでなく、売り手側としてその株式の一部もしくは大半を事業会社・ファンド等に売却することで、IPO手前での企業としての更なる成長加速を狙うような案件も出てきており、全てのスタートアップにとってM&Aは重要な成長のための選択肢になりつつあると感じます。(ちょうど先日発表されたHR BrainへのEQTの資本参画もそのシンボリックな事例と言えそうです)

他方で、podcast内で佐々木さんも話されているように、M&Aは、その成功のためには組織としてうまく実行していくためのノウハウ(案件の創出から選定・見極め、M&Aの実行、PMIなど)の蓄積が不可欠であり、M&Aをやろうと決めた翌日から、すぐに使いこなせる類のものではありません。

そのため、まず1件目を実施し、そこから2件目・3件目と経験することで、M&Aの実行やPMOのレベルを段階的にが上がっていくであろうことから、レイターステージになってから検討を開始するというよりは、場合によってはもう一歩二歩早い段階から本格検討を開始し、会社全体としてM&Aの能力を高めつつ、自社組織にとっての最適なM&Aのスタイルを確立していくことが重要と思います。

さらに、M&Aの検討自体が付随的に会社にもたらすメリットもあります。何かというと、M&Aの検討プロセス自体が自社の強みの整理にも繋がっていきます。つまり、どういった事業を買うべきか、どこにシナジーがあるか、どういった候補の会社がいるかということをM&Aの検討のプロセスの中で経営陣を中心に議論すること自体に価値があるケースが多いです。これがコア事業の中長期の成長戦略を考えるきっかけにもなりますし、どこを自前で育て、どこを外部から獲得してくるべきかという議論は、会社としてのコアや自社の強みの理解にも繋がる、という副次的な効果をもたらします。

2/日本ならではのスタートアップM&Aのチャンス-意外と相性が良い事業承継案件

Podcastからの抜粋
・スタートアップの世界とは別で、日本が抱える課題として事業承継問題がある。これはスタートアップM&Aの視点で、チャンスになり得る
・事業承継の課題を抱えている会社の中には地方のニッチな領域での優良企業も多く、つまり、スタートアップ視点では優良な企業買収による黒字事業の獲得機会といえる
・そもそも事業承継を検討するような創業者はアントレプレナーなマインドを持っており、事業成長に対して強い思いを持たれていることも多く、その夢を託す人を探している。これはスタートアップとビジョン的に相性が良い
・特定の地域や特定の領域で強く、営業利益も高く出ている会社も多い。事業的にシナジーがあるならスタートアップにとっての成長ブースターとして面白い
・スタートアップは、ハイグロースさせることになれているのでカルチャーもフィットする可能性高い
・従来こうした事業承継に投資していたファンドなどは売上の成長に対してはあまり攻めきれない傾向(どちらかというとコストカットの方が得意)

佐々木さんの話の通り、ニッチな領域で顧客ニーズに沿った良いソリューションを提供しており、事業運営をリーンにやることで、しっかり営業利益も出ている企業は(露出があまり多くないだけで、)日本各地に多々存在します。起業家精神溢れるオーナーのもと立ち上げられ、10-20年経営し、創業経営者の高齢化により次世代にそのバトンを渡したいという事業承継案件はどんどん増えてきています。

こうしたオーナーは、売却価格の最大化よりも、自分が子供のように育ててきた事業の今後の成長性を重視する傾向も強いことから、スタートアップ側がPMIのシナリオやシナジー創出の強さをしっかりアピールできれば、買い手として選ばれる可能性も十分あり得ると思います。(当然ですが、高すぎる買い物はM&Aの最大のリスクなので、そこも避けやすくなります)

(もちろん純投資ではあるので、本業のコア事業との適切な事業シナジーがあることが大前提とはなりますが、)もともと営業利益の高い事業の買収になりますので、カルチャーフィットなどの課題を乗り越えてしっかり成長を作れれば、大きなキャッシュ創出事業として、スタートアップ自体の成長を牽引してくれるドライバーに変貌する可能性も十分ある面白い領域なのかもしれません。(菓子業界におけるスタートアップ的なパイオニアである北海道コンフェクトグループによる、ノースマンで有名な老舗菓子メーカー千秋庵の買収事例)

3/スタートアップM&Aの特殊性-M&Aの検討自体に双方の事業成長の深い理解が重要

Podcastからの抜粋
・スタートアップか絡むM&Aにおいては、買い手及び売り手の双方にとって会社の成長戦略の理解度・解像度がより重要になる
・これは通常のM&Aとの比較で見た時に、スタートアップ企業の潜在的価値は、財務や事業の実績値だけではその価値を説明しきれないため。未来の成長性を説明し評価してもらう必要がある。つまり過去実績より将来見通しが重要
・こうした客観的に見た成長性や企業の強み・弱みについて、実はスタートアップ自身がそもそも整理・言語化しきれていないケースも多々あるので、M&A戦略を考える上でまず自社の客観的理解から始めた方が良い
・成長戦略や自社の強み・弱みの整理の度合い次第で、会社の資産としての魅力の伝わり方全然違ってくる(これは売り手・買い手双方にとって重要)
・また、将来の成長は人・組織によって作られる部分が大きい。つまり人を生かすM&Aが大事。この観点から人や組織・カルチャーのフィットという側面も大事で、自身の事業やカルチャーの理解も重要
・スタートアップ側の初期のM&A検討においては、上記のような上流戦略からの整理を一緒にできるアドバイザー(FA)の必要性が高い
・M&A・ファイナンスとスタートアップ事業・組織の双方の理解度の高い人材の厚みが増すことがスタートアップM&A加速における重要な要件

佐々木さんの話にある通り、「(通常のM&A案件は、)買い手・売り手双方が既存の事業・組織・財務状態を前提に買収検討を進める」のに対し、「スタートアップM&Aは、双方が成長した将来の事業や組織状態を想像しながら買収検討を進める」ことになります。これはスタートアップの企業価値の大半が将来の成長性から来ているためで、ここがスタートアップM&Aの特殊性・難しさで、面白さでもあると思います。

ゆえに、スタートアップがM&Aによる買収(もしくは逆に売却)を検討開始する際には、まず自社の成長戦略や将来性をきちっと可視化するところから始める必要性が高いです。売り手の場合はもとより、買収する側であってもこれが重要なのは、今後自社がどんなビジョンを描いて、そこにどう登っていくかというのが、売り手側が自身の事業を譲り渡していく相手として相応しいか、同じ方向を向いて一緒にやっていけるかを判断する上で重要な材料の一つになるためです。

スタートアップM&Aは、「買い手と売り手の未来におけるフィットの重要性が高い」という特性上、実際のM&A検討のプロセスでも、従来のM&AのようにDDを通して過去の事業や財務実績の確からしさを精査していくプロセスよりも、より人や組織のカルチャーやポテンシャル、将来の成長戦略の考え方など、未来の要素を双方が共に議論を重ね、すり合わせていくプロセスがより重視されるべきと思います。

こうしたプロセスを適切に実行していくためには、従来型の複数買い手候補を競わせる入札型のM&Aプロセスでは難しくなります。買い手側であれば入札案件になる手前の段階からアプローチできるように早期から積極的なアクションを取り、相対案件に持ち込めるか、売り手側であれば(真に対象事業の潜在的価値を評価でき、それを最大化できるような)買い手候補を戦略性を以って丁寧に絞りながらプロセスを組み上げていくようなアプローチが重要になります。

こうしたアプローチを通して、双方間でのプロセス期間のコミュニケーションの密度を上げながら双方のフィット感を適切に確認していくことが、M&A後の不一致を防ぎ、両者が事業・組織両面で最大限のシナジーを発揮していく基盤になると思います。

最後に

上記の考え方から、すでに弊社10Xとしても、食品小売のデジタル化・EC化を加速するという明確なコア事業であるStailerのビジョンの元、食品小売のデジタル領域、特にオンラインの販売チャネル関連領域を中心とした積極的なM&Aの検討を続けています。

ぜひ、この領域に近しいデジタル・成長企業の方はM&Aの興味の有無に関わらず柔らかい話からでも業界の未来をどう変えていくかといった議論をできればと思いますので、ご興味ある方は私、山田のXのDM等でお気軽にコンタクトください。

また、他のスタートアップの関係者でM&Aに関してのご質問・ご相談のある方もしくは壁打ちして見たいという方は、(初期的な検討も含めて)今回podcastのゲストで出ていただいた佐々木さんへご相談頂くのも良いかと思います。(本人からも許可頂いております!)
同じく私、個人としてもスタートアップのM&Aに関する相談や意見交換に広く興味がありますのでお気軽にご連絡ください。是非業界全体を盛り上げていくためにもこうした議論が活性化していくことを望んでいます!

・佐々木雅人さん問い合わせ先
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