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スタートアップに参画する人にとってのSOの意義 - SO設計で確認すべきポイント

前回は経営者視点でSOの基本設計を考える上での重要な前提についてnoteを書きました。

今回は、(前回とは逆で)SOの付与を受ける従業員側の視点でスタートアップに参画する際にSOのどういった点に留意すべきか、という内容を記載したいと思います。

前回の記事で記載しましたが、SOはまだ資金的に余裕のないスタートアップが「会社の価値を大きく引き上げてくれる貴重な人財」を早期から仲間に迎え入れ同じ目標を向いて全力で走っていくための重要な手段です。

そうした貴重な人財がより未来を作るスタートアップに多く集まっていく一助として、従業員側がどういった視点でSOの設計を見るのが良いか、というポイントをこのnoteでお伝えできればと思います。

以下、SOについては様々な考え方がある中で、私自身の経験や知見に基づくところが大きいですが、SO付与のあるスタートアップに参画する際に確認しておいた方が良いポイントを重要な順に記載していきます。

ちなみに(読んで頂く前の大前提として、)スタートアップのSOは、もちろん従業員である自分自身にとって有利な条件であれば嬉しいものですが、と同時に会社全体が成功しないと紙切れになるという性質上、会社全体のことを考えて適切なものになっているか(つまり、極端に従業員に対してメリットが寄りすぎているのもリスクです)、というバランスが重要である点は最初にお伝えしておきます。

では本編へ行きます。

0/SOはどのくらいのキャピタルゲインになりそうか?

SOは従業員や役員に対するロングタームのインセンティブです。なので一丁目一番地としては、この点をザクッと確認しましょう。キャピタルゲインは以下の式を使うと算出可能です。想定時価総額、SO比率、行使金額の3つの数字の期待値がわかれば計算できるので、これは会社に聞くのが良いと思います。

SOのキャピタルゲイン額(課税前) = SOを行使し株式売却した時の会社の想定時価総額 x SOの保有比率(希薄化後) - SO行使金額
*) 行使金額は、1株当たりの行使価格 x 株式数

これを通して、SOというふわっとしたものが、数百万円の話なのか、数千万円の話なのか、はたまた数億円の期待のある話なのか、と言った期待値の規模感をザクッと把握できます。

1/そもそも経営はSOをなぜ付与しているか?

上記の期待値はあくまで現時点の想定でしかないので、ここからよりその本質に迫る確認事項を記載していきます。

まず、SOの話になると、ついつい「何%のSOが付与されるか」や「行使は上場後何年でできるのか」などといった点を気にしがちですが(かくいう私もスタートアップに参画する前はこうしたことが一番気になっていました)、何より最初の1歩としては、経営者が「SOを付与している目的」を確認することが一番重要です。

なぜ重要か、と言うと、特にスタートアップはアーリーであればアーリーであるほど、未来に対する不確実性が高いためです。(その観点では上場直前のスタートアップ に飛び込むのであれば、このポイントはあまり重要でないかもしれません)

「xx年に上場を目指している」と言っても事業成長の都合でそれが変わることもあると思いますし(上場までの期間の不確実性)、「xx億円時価総額の規模での上場がターゲットです」と言ってもそれも状況で変化する可能性があります(上場時の時価総額規模の不確実性)。組織も「500名くらいの規模での上場に向けて組織を作っていきます」と言っていても事業モデルの変化で大幅に変更になるかもしれません(上場時の組織規模の不確実性)。更に、exitの仕方も上場ではなくM&Aになるかもしれません(exit形態の不確実性)。

そしてこうした様々な不確実性によって、SO自体の価値は大きく影響を受けます(場合によっては10倍になったり、1/10になったり、ゼロになったり、するかもしれません)。

では従業員としてこうした状況の変化に対する最大のリスクヘッジはなんでしょうか?それは経営者がそもそもSOを何のために付与しているのか、を確認しておくことです。

例えば、それに対する答えが「早期に参画してくれた人財の初期の会社成長への貢献に対するインセンティブ」であれば、例えexitの形態がIPOでなくM&Aになったとしても、その想定していた会社成長が成し遂げられていれば何らか同じような報酬が得られるような手当を(経営陣がしっかりしていれば)交渉して勝ち取ってくれる可能性は高いと思います。

他方で、答えが明確に「上場まで皆が走りきるためのインセンティブ」であれば、上場前にやめた人に対しては(その事情がどうであれ)インセンティブとして行使できる措置は与えられないかもしれません。

この質問への答えは会社の状況やステージ、経営者のスタンスやリテラシーで大きく変わってくると思いますし、何が正しいというものはないですが、自身がこの会社に対して今後貢献しようと思っていることや得たいと思うものと比較して、SOの設計の目的や背景がフィットしたものになっているか、ということを最初に確認しておくことの重要度は高いと思います。

2/会社はどのくらいの時間軸でどのくらい高い山をどのように登ろうとしているか?

次に重要になるのは、会社の成長の速度と高さと中計です。もちろんこのターゲット自体は目指した通りになるかはわかりませんが、経営者や会社全体がどこを目指しているかで、例えば同じ「SO 0.1%」の持つ意味も大きく変わりますので、この点は確認しておくべきです。

まず時間軸について。SOが実際に現金化できるのは原則上場後(もしくはM&Aなどでのexit時)になります。つまり上場まで2年のカウントダウンに入っているスタートアップのSOと、まだまだ6-7年かけて上場していこうというスタートアップのSOでは全くキャピタルゲインが得られるタイミングやその不確実性が違ってきますので、確認すべきポイントです。

次に会社が目指す企業価値の規模感について。もちろん上場の後も会社は成長していくと思いますが、SOはある程度は上場後に売却し利益確定するのが一般的と思いますので、その前提で記載します。

上場時の時価総額が100億円であるのと1,000億円であるのでは、同じ0.1%のSOの価値も違ってきます。(前提として、SOのストライクプライスを0.1%のSOに対して100万円(EquityValue換算で10億円)として試算すると、)以下のようにゴールの時価総額次第でキャピタルゲインの桁が違ってきます。

  • 1,000億円のexitの場合のキャピタルゲインは、1,000億円 x 0.1% - 100万円 = 9,900万円

  • 100億円のexitの場合のキャピタルゲインは、100億円 x 0.1% - 100万円 = 900万円

私も良く、「CxOのこのポジションで参画する場合の相場のSOの比率は○○%くらいですかね?」と質問されることもあるのですが、そもそも会社として目指す山によって全くその前提が変わってくるので、このポイントは外してはいけません。

最後に中計についてです。もしくは中計がない会社については、どういうチャレンジをしながら最終的に上場まで持っていこうと(現時点で)想定しているか、という質問に置き換わります。これはSOの持つ性質上(=不確実なもので、かつ会社が成長すればその価値が増えていく & 実際に利益を得られるのは将来になる)、これから会社がどうやって成長しようと思っていて、そのストーリーを従業員自身が信じられるか、更にその成長に自身が貢献できるか、ということが非常に重要になることから、会社としての成長ストーリーがご自身にとって腹落ちするかが極めて重要と思います。

3/全体でどのくらいのSOプールを用意しているか?何名くらいの社員にSOを配ることを想定しているか?

3つ目に確認したほうが良い論点は、自身にどのくらい付与されるか、ということの前に、会社全体としてどのくらいのSOプールを用意していて、どのくらいの社員に配布することを想定しているか、というポイントです。

例えば質問に対して「上場時に200名の社員を想定していて、そのうちのマネージャー以上の100名に対して、10%のオプションプールを配布しよう、と考えている(上場時の時価総額想定は500億円)」という回答があった場合、平均のSO配布は0.1%程度になる & その場合0.1%の価値は5,000万円程度、ということがわかります(実際は参画するタイミングや役職などによって当然平均値から個人差は出てきますが、あくまで目安感として把握しておく価値はあると思います)。

これを確認しておくことで、会社として自分以外の重要な社員を今後も採用できる十分魅力的なSOプールを持っているか、と言った点も確認できますし(=会社として成長し続けられるかに大きな影響を及ぼす)、その中で自身がどういった位置付けにあるか、ということも確認しやすくなると思います。

繰り返しになりますが、そもそも会社が成長して上場(or ある程度理想的なexit)しない限りはSO自体の価値は紙切れになりますので、そもそも会社が成長するために適切なSO設計になっているかという点は、ざっくりでも良いので把握しておく価値があると思います。(もちろん経営者側ではなければ、あくまでざっくりで良いとは思います)

4/その中で、自身に付与されるSOはどのくらいになりそうか?

次に大事なのはこのポイントになると思います。ここまでも触れてきていますが、単に絶対値としての「○○%」ということだけでなく、最終的にどのくらい会社が大きくなりそうか、上場までの時間軸や不確実性(乗り越えなければいけないチャレンジの中身や大きさ)、今後の組織計画と会社全体としてのSO付与水準の妥当性、などから総合的に考えて妥当かという視点を持つのが良いと思います。

加えて、意外と重要なのは、今後の調達ラウンドでどのくらい株式の希薄化が想定されるか、というのもSOの価値に影響がありますので、(ややマニアックですが、)気にしておいても良いかもしれません。例えば、同じ「SO 0.1%」でも、今後上場までに2回ラウンドがあり、それぞれのラウンドで10%づつ新株を投資家に発行した場合と20%づつ発行した場合では、以下のようにSOの希薄化が変わってきます。(とは言え、大きく調達してその分会社が大きくなるのであれば、結果として希薄化率が大きくても得られるキャピタルゲインは大きくなるので、どちらが良い悪いとは一概には言えない難しさもあります)

  • 10%づつのラウンド2回の場合:0.1% ÷ 110% ÷ 110% = 0.083%

  • 20%づつのラウンド2回の場合:0.1% ÷ 120% ÷ 120% = 0.069%

5/SOの付与と権利確定等の条件はどうなっているか?

最後に重要なポイントとして、SOがいつ付与されるのか、その付与株式数はどうやって決まるのか、更に権利行使できる条件は何か、と言った点を確認しておくのが良いと思います。

例えば、上場前に退職した場合はどうなるか、と言った点(いわゆるベスティング条項についてもこれに関連します)も、特に会社が上場までの時間軸を長く捉えている場合は重要になると思います(何らかの事情で退職せざるを得なくなるケースは誰しにも起こり得ると思いますので)。

また上場後いつから実際にSOを行使して現金化できるか(通常は上場後○ヶ月以降から○%のSOを行使できる、といった行使制限が付いていることが多い)、という点も確認しておくと良いと思います。

この辺りのSOの設計も絶対の正解はないですが、自分自身が納得できるような内容になっているかという点は、気持ちよく(長く不確実なスタートアップジャーニーの中で)ご自身が会社の成長にコミットしてくためにも重要な論点と思います。

最後に

今回触れなかった論点として、以下のようなポイントも若干テクニカルではありますが、確認しておいて良いかもしれません。これはこれでかなり書き出すと長くなるので、また機会があれば個別に記載してみたいと思います。

  • SOの形態:有償SO、無償の税制適格SO、信託SOなど(課税ルール、税制適格性やSO付与時の払い込み金額などの論点が重要)

  • 行使価格(SOのストライクプライス)

  • M&A exitの場合のSOの有効性

  • 相続の可否

もし何か、スタートアップのSO設計に関して質問のある経営者の方や、参画を検討されている従業員の方などで、ご質問があればtwitterのDMや以下のmeetyからご連絡頂ければ幸いです!


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